55.説明書カモン!
【ビカッ】と光ると、とんでもないことが起こると学習してきている面々は、一様に不安な顔をしている。
「よかった~。なんにも変わってなかった~」と俺は一安心。しようと思ったけど、何かが違うぞ。
「きゃ~~~~!!!」と叫んだカマラテはそのまま気絶した。
それもそのはず。角が無くなっていた。認識阻害で自分より下位の相手に見えなくしたという訳ではなく、本当に無い。
それに気づいたカマラテは角があるだろう場所に手を当てたまま気絶したんだ。
勿論、ビリーヤもサリアもティルマイルも手を頭にやっている。
まさか、本当に俺が面白半分で言った、ふざけた妖精になってしまったって事?
ティルマイルは、魔法を行使しようとして、小さなマッチ大の大きさの炎しか出せない自分に驚愕している。
「我が君、これは……。流石にあり得ません。私の角も魔法もどこへ消えたというのでしょうか?」悲嘆にくれた声だ。
これはマズイ。ごめんで済まないレベルでマズイ。
血の気が引くってこういう事なんだ。頭のてっぺんから何かがスーッと失われていく感覚を味わいながらも、頭の一部では冷静にそんなことを考えていた。
「あ~、取り敢えず元に戻るかやってみよう。元に戻れ!」
「……。」なにも起こらない。
「あ~、じゃあ、ドラゴンに戻れ!」
「…………。」ダメみたい。
「ソウ君。明日、どこか広い所でやりましょうか。宿の部屋の中でドラゴンの本性に戻られると、部屋が壊れちゃいますからね」とルドルに言われてしまった。
確かにその通りだ。
「あ、あした、ですか。分かりました」と全く分かった風情ではないティルマイルは、灰になったような状態でフラフラと自分の部屋へ帰っていった。
「きっと明日は戻りますわよね……」と弱弱しく言いながらサリアも去って行く。カマラテは、このままこの部屋に寝かせておく。ルドルと俺で様子見だ。
モックは宿の主人に、人目のつかない広い場所の心当たりを聞いてから部屋に戻ってくれるって。みんなが優しい。
毎度毎度の俺のやらかしを、なんだかんだとフォローしてくれる。
それにしても、俺が念じたのに元に戻らないとはどういう事だ?俺の成長促進とか人族化とか以外は、ただでさえ上限無しかってくらい念じると思う通りになっていて、自分で自己規制しているっていうのに。なんでこういう時にはダメなんだ?
「偉い神様!意味が分かりません。この世界の取り扱い説明書が必要です!」と窓を開けて空に向かって叫んだ。
「も~、なんなん、好きにしいやって言うてるやん!」と言いながら部屋に現れた神様。俺はガバッと後ろを振り向く。
「あ!神様、来た!」
「失礼な言い方やなぁ~。たまたま覗いとったらキレとるし来たったのに~」
「ありがとうございます。なんかふざけてて、変な妖精を想像して、側近にそれを名乗れって言ったら、本当になっちゃって!戻らないんです!」
「ええやん。おもろかったで。マッチとか水たまりとかやろ。小さい火とか可愛かったやん」と楽しそうにしている。
「恐れながら神様、私ども人族なら、それでも大いに喜びますでしょうが、竜族の御方がそうなりますと……さすがにお気の毒でございました」とルドル。
「竜族なぁ。たまには面白いかってならんあたり、堅物やし面白みがない奴らやで。自分で造っておいてなんやけど~」
「元に戻す方法は?」と俺。埒が明かないと畳みかけた。
ニヤリと笑った神様。
「元に戻るにはトトメロ山の山頂の花の蜜を自力で取りに行って吸わんとあかん!!ってことにしよう。おもろいから」
うん?語尾が小さくて聞き取れなかったぞ?おもろいとか言ってなかった???




