54.妖精族
そう、か~るい、タンポポの綿毛くらいの軽い気持ちで思った、妖精を名乗ろうかなという思いは、口に出して言っていたようだ。
「我が君、先程プープルさんが我が君の事を火の妖精だと説明しておりました故、そのまま火の妖精でまいりましょう!」とティルマイルが圧がかかるほど近くで話しかけてくる。
「ソウって呼んで!うっかりさんになってるよ!」と注意した。
「ソウ様、光の妖精がお勧めです!」
「いえ、森の妖精なんかいかがでしょう?」
「あら、水の妖精に決まっていますでしょう?」といつものパターンに突入していた。
取り敢えず、夕食を済ませて宿に落ち着いて、改めて妖精の話だ。
「でもね、魔法が不自由なく使えて、見た目が華奢だし、妖精族を名乗るのは違和感がないわよ」とプープルさん。妖精族を名乗るのは賛成のようだ。
「問題は何の妖精を名乗るかですか」とルドルは頬をポリポリ掻きながら視線を逸らした。
今、面倒事には関わるまいと思ったよね!?
「ちなみにさあ、妖怪族じゃダメなの?」と聞く。妖怪族には会ったことがないので興味津々なんだ。
「ダメじゃないのよ。でも竜、獣、虫、妖精、人、以外の全ては妖怪族と呼ばれるの。言ってみればどこにも分類されなかった者って感じよね。だから、妖怪族と名乗ると、具体的にどんな本性のどんな能力があるのかと突っ込まれること請け合いよ。細かい設定を考えるの大変でしょう?」
「なるほど。そういう意味で妖精なのか」
「そういうこと。花の妖精よって自己紹介をしたらそれ以上興味をひかないもの」
「獣や虫族なんかは、本性に変身してみてくれなんて言われることも多そうだしな」とセルゲイ。
町の派遣屋で、本性に戻ったり人型になったりしながら技を繰り出す獣族を思い出した。あんな風に披露しろと言われると確かに困るな。
「サリアさんは何の妖精になさいます?」とプープルさんに聞かれて、サリアは「私もですか?」と驚いている。
「サリアさんも今は角を見えなくしていますし、ソウ君と一緒に妖精族を名乗られるのかと思っていました」
「そ、そうよね。角、今、見えていないんだったわ」と手を角にやる。いつもの触り心地に安心している。角無し前提の話をされることに、とことん慣れないようだ。
「ま、俺は初志貫徹!人族でいいんだ!妖精族も面白そうって思ったけどね」
「いいね~お前は。人族なんて何にも出来ないんだよ。振りだけでも嫌だって奴らはごまんといるのにさぁ」とモック。果実酒一杯でほろ酔いぎみだ。
「我が君が人族ならば、私もそうします」とビリーヤは言っている。
「そうねぇ。でも今日のように花の妖精の私には明らかに使えない魔法を行使されると誤魔化すのに他の妖精族も必要よ」
「う~ん。そうだよねぇ」
「我が君がお決めくださって構いませんわよ。仮にそう名乗るというだけですもの」サリアは覚悟を決めたらしいが、人任せかよ。皆も頷いているぞ。それなら、
「じゃあ、決めた!静電気の妖精、水たまりの妖精、マッチの妖精、どんぐりの妖精だ!」とちょっとお茶目な悪ふざけで妖精を考えてみた。全員を指さしながら、それぞれの妖精を発表すると。
【ビカッ】と全員が光った。
光った!?俺は何をやらかしてしまったんだろう。




