53.盗賊
馬車の中をのぞくと、側近達は目を見開いている。
それもそうだろう。竜族は盗賊に襲われないからな。そもそも馬車なんて使わず自力で何処へでも飛んで行けるし。
万一馬車に乗っていたとしても、角がある人型を見た時点で盗賊の方から回れ右して帰ってくれるだろう。
だが、今回は、認識阻害で角を見えなくしているので、このイキった盗賊たちはお構いなく襲ってきたし、すたこらサッサとお帰りいただける事もない訳だ。盗賊さんたち、不運が限りないな。
「あ~、あのさぁ。この馬車は止めておいてほうがいいと思うぜ」とモックは親切にも教えてあげている。
「兄ちゃんさぁ~、ちびっ子の弟をつれて格好つけたいかもしんねえけど、諦めな。こんな大型馬車を財力見せつけて走ってるほうが悪いってもんよ、なぁ!おめえら!」
「「そうだ、そうだ!」」と手下たち。ちょっとイラっとした瞬間、俺の心に反応して突風が吹く。皆が動きを止める。
ティルマイルがすかさず馬車から出てきて、
「ソウ様、いかがされますか?私めが灰にしてしまってもよろしいのですが、ご自分でなさいますか?」と小声で聞いてくる。
こっそり許可取りしてくれるのはありがたいけど、内容が物騒だ。
「こ、殺しちゃうの!?」
困惑する俺に、ルドルが御者席の後ろの窓から顔を出して、
「ソウ君、ここの常識ですよ。盗賊は返り討ちにあっても構わない者がなる商売です」
「な、な、なるほど。常識なんだね」物騒だ。警察に引き渡すとかはないのか?
「えっと、お引き取り願うだけじゃダメ?」
「ダメではないですが、そうすると、この人たちは、次の馬車を襲うでしょう。旅人の方が弱かった場合、殺されて金品を奪われる事になります」
「あ!それはダメだ。縛って次の町まで連れて行って警察に引き渡すとか出来ないの?」
「こそこそやってんじゃね~よ!」と言って手下が切りかかってくる。なんの種族だろう、めっちゃ早い。でも俺の方が速いけど。サッと避けながら馬車を降りる。
「ていうか、君らの命の心配をして、優しい方向を模索してる訳なの。何で邪魔するかな?」
怒った俺の周りにメラメラと火柱が立つ。異変を察知した親分らしき男が逃げ出すが、サリアが足を凍らせて文字通り足止めする。
「捕り物終了ですか。あっけないですね」とカマラテが少々残念そうにこぼす。
その手には既に手下達が蔦に巻かれて捕らわれていた。お見事!って言うか見逃しちゃった。
あっちもこっちも同時進行したから仕方ないけど、蔦のシーン見たかったな。
ぐるぐる巻きのまま馬車の屋根に盗賊を乗せて次の町まで行く。
「オラオラ!見せもんじゃねえんだよ!!」と悪態をつく盗賊達。
町が近づいて人に見られる度にこれなもんだから、超目立った。
でもなぁ。俺の癇癪で災害がでて被害者が一万人ですって言われるより、目の前で盗賊5人殺せって言われる方が、ぶっちゃけキツイ。
仕方がないから、悪目立ちしながらも町の警備官詰め所へ行って引き渡す。プープルさんが、「仲間の樹木の妖精が蔦で巻きました~」とか、「火の妖精の子が炎で脅かして~」とか、色々、辻褄が合うように説明をしてくれている。
頼りになるなぁ。俺も妖精を名乗ろうかな?




