5.黒龍王=神?=魔王?
歓声や笑顔で出迎えられたので、アットホームなドラゴンの国かと思いきやだ。
黒龍はこの世界の力の源なんだそうだ。なので、力が絶えないように、先代が死ぬと自動的に次代の黒龍の卵が、黒い森に出現する。
でも、卵の状態だと不十分な力しか出せないので、俺が殻を破って生まれることには大きな意味があった模様。
そして、それは、この世界のドラゴン皆が感じ取れるほどの物だとか。体の隅々まで力がみなぎるんだって。そんな影響があるとは、神様よりも神様っぽいよ。
だが、そんな有難がられる黒龍は、反面、その時の気分で辺り一面を血の海にする気性の荒さが表裏一体なんだって。気分次第で津波や地震なんてものも起こせる、天災発生装置でもあるようで、皆、出来る限り楽しく過ごして欲しいと祈るらしい。
「居てくれなきゃ困るけど、怒らせると生死が脅かされるか。厄介だな黒龍。俺なら関わり合いになりたくないなぁ。どうして皆は側近に?」
紫色の髪のティルマイルが、恐れながらと話しだす。
「我々は、ご覧の通り、角が黒色一色です。これは、側近候補の証なのでございます。ですので、幼いころから、この角を持つ者は全て、側近を目指して切磋琢磨する訳でございまして、どうしてかなどと考えたことがございません」
なんと。職業選択の自由は無かったようだ。
薄緑の髪のカマラテは、
「我々側近には、日々お仕えするだけでなく、我が君が正気を失うほどに荒ぶるような時には、立ちふさがることも許されております。我ら4人で立ち向かえば我が君が、少しでも早く正気に戻る可能性があるかもしれませんから。その為に、日夜修行に励んでまいりました」と言う。
「黒龍ってそんなに強いんだ」
「私は新参者ですから話を聞いただけです。サリアとティルマイルは先代様の最後の百年を知っていますよね」とカマラテは話を二人に振った。
「そうですね。先代様は物静かな方でした。しかし一旦ご機嫌を損ねると一月ほどは手が付けられないくらい世界を壊して回るような方でした。なんとかおとどまりいただいて、またしばらくは平和に過ごせるというようなルーティーンでしたか」と、ティルマイル。
「とは言っても、私が側近としてお仕えした百年ほどは、お年のせいか、魔法を各地にたたき込むような事はあれど、ご自身で暴れ回るようなことは少のうございましたわね」と、サリア。
うん。なかなかに過激だ。それにしても、俺の本能情報ではドラコンは二千年ほど生きるとある。サリアの年を聞いてみたいが、これはパワハラとかにあたるんだろうか?見た目は30歳くらいに見えるんだよなぁ。
でもなんか怖くて聞けない。俺の性格、今は前世寄りのようだ。小市民万歳!
結局、話し合いの末、前世関連は俺達5人以外には秘密ということになった。
ただし、飛んで、喋って、魔法も使えるのは、一週間を目途に解禁にして、今代の黒龍王は成長が驚くほど速いという設定にした。ちょっと無理やり感はあるけれど仕方ない。2年も言葉が分からない振りとか出来ないもん。
『元人族なんで、危険な王様にはなりませんよ~』なんて触れ回ることもしない。
というのも、成長するにつれ、ドラゴンの本能のまま、理性もなく暴れ回ることがないとは言いきれないからだ。
そん時はごめんね~って感じ。
側近たちもそれで良いって言ってくれたしね。黒龍王ってそこんところ魔王扱いなんだよなぁ。魔王に親切心を求めてはいけませんってか。
ま、ちょっと茶化しちゃったけど、実際は、平和ボケしている所に、黒龍王の最大火力の攻撃なんかきたら、この世の終わりらしいよ。皆、しっかり俺を警戒してね。