37.まずはプレゼン
ある種のモンスターペアレントと言っていい西と東の領主には、しっかりと釘をさしたが、子どもの方は親に叱られて更に委縮してしまったようだ。
おどおどしながらも、なんとか話しかけようと涙ぐましい努力をしている姿は痛々しい。
俺は皆にこんな思いをさせたくってここに通っている訳じゃあない。なんとか手を打たないと。
親睦を深めるには、まずオリエンテーション合宿だろうか。たいてい新入生がやるよね。俺の前世で、唯一参加できた高校行事でもある。高校デビューとまではいかないけど、結構張り切って参加したんだよ。なかなかいい滑り出しで、さあこれからって時に死んじゃったけど。
ま、それはさておき、この初等園の年間スケジュールには驚くほど楽しい行事がない。未来の側近を目指して切磋琢磨する場所でもあるので、若干ギスギスしてさえいる。子ども同士も、それに付いている世話係もだ。この学年は俺がいるから、あまりやり過ぎると印象が悪いと考えてか、ビリーヤ曰く、自分達の時より平和だと言っている。
まったく4歳児に何やらしているんだか。
俺は昼休み、ヤノス先生に直談判した。オリエンテーション合宿を熱烈プレゼンだ。だがイマイチ伝わらない。クラスの絆とかいっても、一クラスしかいないからだ。やっぱりクラス対抗なんとかってのが必要な気がするんだよな。
「地方の初等園一年生と対抗戦とかは?」
「陛下、この城下初等園は黒角のみが入園できる特殊なものでして、他の領地の初等園とは一線を画しております。ですから対抗戦は無理かと」
「あ、そうか。みんな黒角。ハイスペックだらけってことか」
う~む、と頭を悩ませていたら、サリアが、
「我が君、それでしたら、生徒対世話係という対抗バトル戦でいかがですか?黒角の世話係はみな黒角ですし、生徒の方に我が君がおいでですもの。生徒達も大人に勝てるかもしれないと、きっと張り切りますわ」
「うん!グッドアイデア!バトルは血なまぐさいから、平和的に宝探しとかにしよう!」
「宝探し!?」
きょとんとする面々に俺の方が驚く。どうやら宝探しの文化は無いらしい。オリエンテーションの定番オリエンテーリングなんだけどな。夕飯の材料が書いた紙を見つけ出して来いなんて言われたら、結構みんな必死でやるよ。肉の紙どこだ~って。
説明すると、すっごく手ごたえありだった。ヤノス先生が大いに乗り気で、職員室に持ち帰って相談してみるって言ってくれた。
ふむふむ、これは行けそうですな。
俺はニマニマしながら教室に戻った。周りの子には不気味なものを見たような顔をして遠巻きにされたが、気にしない。
諸君、もうすぐ、楽しいオリエンテーション合宿があるはずだよ。それきっかけで、俺にも馴染んで仲良くしようね!
**カマラテ視点**
我が君は前世の知識ゆえか、大変興味深い提案をいくつもなさる。
我々は側近になるための熾烈な競争を戦う為に、抜きんでて強くあれ、優秀であれ、と幼い頃から教育されてきたが、そういうギスギスした環境はよろしくないともおっしゃる。
楽しい学園生活とはなんぞや?と首を傾げる我々に、楽しそうな提案をいくつも出される。私が幼い時にこんなことを提案してくれる人がいれば……と思わないでもなかったが、これから、側近としてお側で、『楽しい学園生活』とやらが、見られるのだろう。なんというご褒美か!
それならば、熾烈な競争を勝ち抜いてきて良かったと思うのだ。
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