36.親も出てくる
俺は当然この世界の常識を知らないから、どこに感動して、どこに地雷が埋まっているかは手探りだ。
まあそうは言っても、俺が他人の地雷を踏みぬいたとて、誰も物言いをつけないんだろうなと思う。裸の王様という童話が胸にしみる。
一般庶民だった俺には、なんの教訓にもならない童話だと思っていたが、使うときが来たようだ。アンデルセンさんありがとう。
この日は他に話しかけてくれる子もおらず静かに過ごして帰宅した。側近たちが居なかったらボッチだったよ。
明日からは、もっと積極的に話しかけに行ってみようかと思案していると、ロイドがやってきた。
「我が君、東の領主が本日の非礼を詫びたい為お目通りをと、申し出ておりますが、何かございましたか?」
「じぇんじぇん、わかんにゃいよ」
「まず私から話を聞いてみてよろしいですか?」
普段なら、ロイドが話を聞いて、吟味してから俺に話を持ってくるが、流石に領主には遠慮したのか、聞き取りしないまま話を上げてきたようだ。俺はドラゴンに戻って、
「いいよ。二度手間になるよ。一緒に聞こう」と言った。心当たりといえば、息子君と同じクラスになったことくらいだが?はて?
場所は7階の謁見の間の横にある控室兼応接室。
俺が部屋に入って行くと、極限まで頭を下げた東の領主が居た。
俺はフカフカのソファにしっぽを丸めて収まるとロイドを見る。それが合図で、
「東の、頭を上げて座るがよろしい」とロイドが言う。『東の』って呼び方、ロイドが言うと格好いいけど、俺が言うとなんか違う気するんだよなぁ。
俺の周りは役職持ちだらけなので、側近たち以外は名前を覚える必要が無かったんだけど、これからは変えて行くべきか?
でも初対面で一回聞いただけでは覚えてない。あの可愛いもの大好きの軍府の大将も、『東の大将』って呼んでいるから名前は思い出せない。周りもみんなそう呼ぶから、下手したら退役するまで謎かもしれない。
そんなことを考えていたら、正面のソファに腰かけた東の領主が、恐れながらと話し出した。
「我が息子アルムスには、我が君の周囲に気を配り、楽しい学園生活となるように手助けせよと言い含めておきましたが、一言も話しかけることのないまま帰って来たというではありませんか。私はもう、この大変な失礼を詫びにいかなければと参じました」
「……へ、へぇ。そうなの。っていうか、いやさぁ。俺の前に出るのって大人でも大抵最初は皆ビビるよ。東の領主もそうだったよね。なんで4歳の息子に大人でも難しいことをやらせようとしてるの?俺そこがそもそも分かんないよ」と言うと、ハッとした表情をした。今気づいたの!?ビックリ。
「大変申し訳ございませんでした!西のマックはきちんと話をしていたと聞いたものですから、つい焦りもありまして……」
どうやら、嬉し泣き?とはいえ、泣いて回収されていった珍事は伏せられて、会話したという話だけ聞いたようだ。
コンコンコンッ、とドアがノックされる。宰相府の人が入ってきてロイドと小声で話している。どうやら、西の領主もお詫びにとやって来たらしい。あ~、泣いちゃった件だな。
そうして、西の領主も交えて、俺はきっぱりと言っておいた。
「初等園の事は、極力生徒と教師、無理なら世話係も含めて対処する。俺からの呼び出しがある時以外は子どもの事でここに詫びに来る必要は一切ないから。分かってくれる?自分ちの子が4歳だって忘れないで!」
言い切って俺はスッキリしたが、0歳児に叱られる領主たちの図はシュールだったと、ビリーヤは後でこっそり感想をくれた。




