25.記憶喪失
目を覚ますと、俺は簡素なベッドに寝かされていた。ゴワゴワの、肌触りの悪い服を着ている。あ、俺、裸だったか。助けてくれた人は親切な人だな。いや、全裸の男は子どもの教育に悪いと思っただけか?
それにしても、前世に戻って警察で保護されたにしては、木造で手作り感満載の室内だ。
木枠の窓に映る姿は、前世の俺だ!おぉ、なんか久しぶり!
ドアの外から、小さく声が聞こえてくる。
「怪しい男を保護したって?先生、危険はないのですか?」
「まだまだ子どものようだよ。初等園か、中等園の子くらいかな。目が覚めたら話を聞くよ。村長も一緒に聞くかい?」
「そりゃ、一緒に聞きますよ。この村唯一の知識人で医者の先生になにかあったら村の危機ですからね」
どうやら、俺は、医者に保護されて、村長に怪しまれている子どもということらしい。
中等園って10歳から15歳だよ。アジア人の若く見えるって法則はここでも有効か!?そして声を大にして言おう、初等園はない。
ガチャ。室内に二人が入って来た。おいおい、まだ心の準備が出来てないよ。俺ってまだ黒龍王なのか?
はっ!角は?無い!そりゃ前世の俺になってたら角はないわな。いや、まて、それどころじゃない。魔法は?念じるのは?
謎を解明する猶予はなく、挨拶が始まった。
「初めまして、ここは、テイル村です。私の名前はルドル、医者をやっています。こちらは村長のティーセ。あなたはどうしてあのような格好であそこに倒れていたのか、教えてくれますか?」
医者のルドルは子どもに話すように、ゆっくり優しく話をしてくれた。良い人そうかも、ちょっと安心。村長のティーセはかなり警戒をしている様子だ。
「初めまして。俺、何が何か分からなくて。何も覚えていないんです。ごめんなさい」
俺は、記憶喪失で乗り切ろうと咄嗟に出来もしない芝居をしていた。名前を名乗っていいのか、黒龍王を辞められたのか、魔法は使えるのか、そもそもまだドラゴンなのか。こっそり検証すべき事柄はいくつもある。整理するまで記憶喪失で通したい!
俺の必死さが功を奏したのか、二人とも同情の眼差しで俺を見ている。
「頭を打った時などに一時的に記憶が無くなることは症例としてありますからね。倒れている時に確認しましたが、外傷はないようですが、しばらく様子を見てみましょう」と、俺と村長を交互に見ながらルドルが話をする。そして、
「ここで私の手伝いをしながら今後の事を考えるということでいいですか?」と優しく聞いてくれる。
「よろしくお願いします!」俺は、なんとか、この場は乗り切ったとばかりに、勢いよく頭を下げた。
**ティルマイル視点**
どうしたことか!我が君が。姿をお隠しになってしまった!
亡くなった訳ではない。亡くなれば光の粒となって黒の森に還るはずだがそれは見受けられなかった。世界の力が半減していないということも実感で分かる。と言う事はどこかへいらっしゃるはずだ。だが、どこへ!?
「どうしたことです。ただならぬ光が漏れておりましたぞ!」とロイド様が扉を乱暴に開いた。
言い訳はない。我らは、醜く、我が君の初等園のお姿と世話係を争っていたことを話した。
「お主らは、なんと愚かな。穏やかであろうとする我が君をいいことに、己が主張を通そうとするとは。いや、養育係である私も同罪か。しっかりお話なさるので、大人と同じような扱いをしてしまった」
なんとも言えない空気の中で、しばらくは誰も声をだせず、うなだれていた。
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