19.火種はいつも、これ
まあ、予想はしたよね。こうなることは。
「いいえ。まずは治安のよい、北街ですわ!」
「治安と言うなら南街だって十分です」
「南街は重大犯罪は少なくても、しょっちゅう喧嘩騒ぎがあるじゃないか」
「それを言うなら、西街でしょう。どこかしらで毎日落雷騒ぎがあるじゃないの!」
「ここは、やはり、一番知的で学問の街とも言われる我が東街にお越しいただきましょう」
これは、くじ引きかな。じゃんけんかな。この世界にじゃんけんってあるのかな?聞いてみると、どうやらないようだ。
早速説明して、練習して、いざ本番!
勝者はティルマイル。ということで初めての街歩きは東街で決定だ。一人で城外にでることはまだ許可されていないから、側近たちを引き連れて出発だ。
念じるだけで、頑丈な城の部屋を吹っ飛ばすような物騒な俺だよ。一人歩きなんて一生許可がおりないのでは、と思いつつも、変わらずにサポートしてくれる側近たちに心の中で感謝する。
お年頃の俺なので、そんなこと恥ずかしくて口に出して言えないからね。
でもふと、親孝行したい時には親はなし、だっけ?何かと言うと母が言っていた言葉を思い出す。
俺の方が先に死んじゃうなんて親不孝マックスだったよなぁ。
ここには、親はいないが、周りの人達には積極的に感謝を示さなきゃだよ。恥ずかしがらずに頑張ろう。
城外は、とても綺麗で、ヨーロッパ風の街並みだった。
あちらこちらとブラブラ見て回った。喫茶店、雑貨店、衣料品店、食堂に、古本屋、まさかの銭湯も。病院以外、前世と同じものは何でもあるかな。
「なんでもありゅね!」
「そうですね。この東街は特に古書店通りが有名でございます」と、暢気に話しながらブラブラしているが、周りの人だかりは凄い。
遠巻きではあるが、俺を見たい欲求が隠せていない。
「もうちょっと、ひとのしゅくないところは、ないにょ?」
「人の少ない所ですか。古書店通りが有名であるがゆえに、図書館は寂れていると聞いたことがございます。行ってみましょうか?」
という訳でやって来た図書館が、黒と茶で統一されていてスッゴイおしゃれだった。
「こりぇだ、こりぇ!かっこいい!」
「この、薄暗い感じがいいんですか?」とビリーヤは驚いているが、
「しっくで、おちちゅいているの!」と言い返した。
どうやら、この世界は、ブラックドラゴンが崇められている割には、黒の室内装飾は不人気のようだ。金色の面積が多ければ多いほどいいっていうのは本当にどうかと思うよ。せめて私室は勘弁してほしい。
図書館の館長に話を聞くと、どうやら、初代館長が黒龍王の狂信的信者且つ妻のアースドラゴンを熱愛していたようで、この色合いになったらしい。
なるほど、嫌な予感がする。俺が、この色味の部屋にすると、アースドラゴンを贔屓しているように見える訳か。
「黒と茶だけよりも、白や青がはいっていたほうが、スタイリッシュに見えますわ!」
「そんな!オレンジは欠かせないです。子ども部屋といえばオレンジです!」
「知的で大人な我が君には、ぜひとも紫で統一していただきましょう」
そうなるよね。知ってた。もしかしたら……だから城は金をメインに使ったとかなのかな……。




