18.ピンチ?はチャンスに
俺が泣き止むと、周りを囲んでいたティルマイル、カマラテ、ビリーヤに次々と手渡されて、抱っこリレーされた。優しさが染みる。
いつの間にか俺のボロボロになった服も綺麗に修復されていた。
魔法があるので、「すぐに修復修繕出来るから」、「あっという間に再生するから」と言って、恐ろしい攻撃に対して非常に寛容なドラゴン達が、俺には脅威に見える。
こんなことは許されていいことでは無いはずだ。前世の世界ではだけど……。
慌ただしく駆けつけてきたロイドと4人の軍府の大将達が、室内を見て絶句している。
「皆様方お騒がせいたしました。我が君が城の耐久度を少々調査された所でございます」しれっと宣うティルマイル。
「……それは、それは、非常に脆弱なことが証明されたようですな。我が君、お体に異常はございませんか?」と言いながら、ロイドが俺の抱っこを交代した。
「だいじょぶ。でも、みんないっぱい、きずちゅけた……」
シュン太郎になった俺を、ギュっと抱きしめて、ロイドは、
「黒龍王様は力を外に放出して、この世界のバランスを取っていると言われています。我が君がそのお力を制御できるかどうかは誰にも分かりません。しかし、誰かが傷つくのがお嫌なら、定期的に安全な場所で力を行使するという実験をしてみてもよろしいかと」と言ってくれた。
「しょだね。やってみりゅ」と言って、俺からもロイドに抱き着いて短い腕を首に回すと、ロイドの後ろにいた東の大将と目が合った。
無類の可愛いもの好きの大男は、震えていた。
勿論、恐怖ではなく、ロイドが羨ましくて。
そうこうしているうちに、この8階の安全が確保されたと言う事で、修復に特化した魔法を使える者達が、続々と集まってくる。
俺は、豪華絢爛ゴテゴテの自室から脱却するチャンスだと、さっきまでのメソメソとはお別れして、リフォームの要望を伝えようと張り切った。
「だかりゃね。ちょっとちゅがうにょ!」興奮すればするほど、滑舌の悪くなる俺に、サリアが、
「我が君、ここは一旦ドラゴンに戻られては」と至極真っ当な指摘をした。
だよな!ごもっともで。
「うん。ごめん。俺の思っているのは、こんなゴテゴテした柱じゃなくて、シンプルなやつなんだよ。普通のヤツ。壁とかも、金色の花とかいらないし」
凝った作りにして腕を発揮できないからか、若干しょんぼりしている修復班に、心を鬼にしてリクエストを言っていく。
ここは、大事。くつろげる私室を手に入れるチャンスなんだから。俺の理想は、モテる男の部屋。なんていうのかな、ちょっと隠れ家感のあるブラックモダンな感じ?とにかく、ドラマで格好いい俳優さんが住んでいそうなやつだ!
悲しいかな、俺にはインテリアデザイナーの才能はないようで、ドラゴンに戻って滑舌良くしゃべったのに、全く伝わらなかった。無念。
取り敢えず、簡単な床と壁とベッドだけという仮住まいを作ってもらった。あとは理想の部屋を探してくるから、それを皆に見せて、似たようなのを作ってもらうことにした。
自分の魔法で作れるんじゃなかろうか?と後々思ったんだが、修復班の悲しむ顔が浮かんだので試すのは止めておいた。
さあ、プレゼンの為の理想の部屋を探しに行こう!
訓練場に行く時に、上空を飛んだだけの城下町にいよいよ突撃してみるぞ!




