12.ドンマイ、俺
教材を前にグヌヌ~、と唸っている俺。見て覚えるより書いて覚えるタイプの俺には今の状況は辛い。ドラゴンではペンは持てないし、人型に変身しても恐ろしい程手先が不器用なのだ。2歳児相当の体なら仕方がないのか?
まずもって綺麗な線が書けない。楔形文字っぽいものを書こうとしているのに、アラビア文字のようなクルクルクネクネした別物に成り果ててしまう。
落ち込んでいる俺に、ロイドが文字カードを作ってくれた。
「ありがとう!これだと、ならべて、たんご、ちゅくったりして、あそんでいるうちに、おぼえれりゅ!!」と喜ぶと、
「お褒めいただき光栄です。私は、養育係ですからな」とロイドは、ビリーヤに向かってドヤ顔をしながら言った。
そういう所、大人気ない。
ビリーヤは、一瞬ムカっとした表情をしたものの、俺に向かって、
「我が君、これは『サンダー』という単語ですよ」と自分の種族サンダードラゴンの単語を作って見せてくる。その他も、種族を表すオレンジや黄色、領土のある西、果てはビリーヤという単語を作って並べているようだったが、ロイドに、混ぜ返されて、
「まずは貴方に関係する単語ではなく、我が君に関する単語をお教えするべきです」と言い争いはじめた。
俺はカードを回収して、とっとと退散した。あの二人と一緒だと延々と同じことを繰り返しそうだったから。
8階の私室のベランダから出て、10階の成獣ドラゴンのままで寝られる巨大な寝室まで飛んでいく。
そう、そして、その時、見られてしまった。俺が人型で飛んでいる姿を!
いや~。バベルの塔みたいな形の黒龍城なので、下からは見えにくいかな~と思ったんだけど。10階建ての黒龍城の『主塔』をアーチ状に囲んでいる、北の一角、4階建ての北棟の屋上からは丸見えだったようだ。
あらま、屋上で休憩時間だった?
仕方がないので、大騒ぎしている面々に手を振り、方向転換して、自室へ戻る。
「ひとがた、みられちゃった!」と二人に報告。
改めておさらいしよう。標準的には、『1歳でしゃべり始め、2歳で飛べるようになり、3歳で魔法の練習を始め、4歳で初等園に入り、10歳で人型になれる』だ。
今の所、飛べるところまではお披露目していたので、驚かせたのは人型になれるところだけだ。魔法はまだバレていないから。
「ごめんなちゃい」と、言ってドラゴンに戻る。
「ロイドの案では、次は魔法を披露して、それから人型の発表だったんだよね。ちょっと順番が違っちゃった」とテヘペロしてみた。
「我が君、魔法はともかく、人型は、10歳以降だと申し上げませんでしたかな」
「うん……言ってた。『徐々においおい大作戦』失敗だ。ごめん」俺は素直に何度目かの謝罪をしたが、あれはダメ、これもまだダメ、と言われるのにうんざりしてきた所だったので、スッキリしたかも、と思った。
みんなはちゃんと考えてくれているのに、本当にごめんなさいだけど。
「とりあえず、説明してまいります」と言って、部屋を出て行こうとするロイド。
「ちょっと待って、一緒に行くよ。もう魔法もバラしちゃおう。俺、隠し事は苦手みたい。前世のことは流石に、秘密にするの頑張るから。ね!」とおねだり。
ちょっとあきらめ顔をされたが、「そうですね」と、言って謁見の間に城内の主要メンバーを集める手配をしてくれた。
側近4人と宰相を引き連れて、いざ、行かん!




