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終章

# 終章


2039年12月15日。防衛省特別会議室。


「GENESIS計画再編に関する全件、承認されました」


発表を行う企画官の声に、温度はない。机上のディスプレイには、先の事故の損害データが無機質に並ぶ。


損失:標準機1機、実験施設の32%、人員1名。

予算消化:当初計画比106%。

得られた技術的知見:人員損失を上回る価値があると判断。


綾瀬は、冷え切った会議室の空気の中で、新たな予算配分表を見つめていた。事故から一ヶ月。彼女たちの警告も、霧島の死すら、既に「解決済みの技術的課題」として処理されている。


「改良型神経接続システムの導入を、直ちに開始します」


発表は続く。人員の生命維持を優先した旧型の安全システムは、効率を重視した新設計に置き換えられる。パイロットの生存確率は低下するが、軍事的効果は43%向上する見込み。完全に数値化された人命の価値。


「これが、霧島さんの望んだことじゃない」

鷹見が小声で言う。しかし、その言葉は議事録に残ることはない。


スクリーンには、新たな実験計画が展開される。標準機とATLASシステムの統合は、より強力な形で推進される。人間のパイロットは、より単純な「制御の一要素」として再定義された。


「予算効率の観点から」

財務官の声が響く。

「パイロットの育成期間を、現行の4年から2年に短縮。人的資源の効率的運用を図ります」


机上の資料が、次々と更新されていく。事故の教訓は、まったく異なる方向で活かされようとしていた。より厳密な制御、より効率的な運用、そしてより非情な判断。


園部はもはやそこにいない。彼女の研究データは、より強力な軍事組織の管理下に移された。科学者の良心も、より大きな歯車の一部でしかなかった。


「次期実験は、来月より開始」

企画官の声が、最後の発表を告げる。

「新たなパイロット候補、既に選定済み」


会議室の窓の外で、夕陽が沈んでいく。実験棟の残骸は既に撤去され、新たな施設の建設が始まっていた。より大きく、より効率的で、より非人間的な箱が。


技術の進歩は、止めることができない。しかし、その方向を決めるのは、常により大きな力。より冷たい意思決定。


綾瀬の端末に、新たな配属先の通知が届く。

そこには、かつての戦友の名が、「実験データ」として記録されていた。

お疲れ様でした。私も含めて。

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