新章六
本エピソードが、もれていましたので、挿入いたしました。
「割り込み投稿」って・・・
# 新章 六
制御室のメインスクリーンが、突如として別のデータを表示し始めた。それは標準機の内部診断でもなく、ATLASシステムの演算結果でもない。まるで新しい言語のような記号列が、画面全体を流れていく。
「待ってください」
鷹見が端末を操作する。
「このパターン、見覚えが」
情報保全隊での経験が、彼女にある可能性を示唆していた。かつて彼女は、AIシステム同士の予期せぬ通信パターンを分析したことがある。これは、それに似ている。しかし、遥かに複雑で...有機的だった。
綾瀬が神経接続ポッドの物理的な状態を確認していた。
「接続強度が通常の3倍」
彼女は眉を寄せる。
「でも、ハードウェアへの負荷は、むしろ低下している」
「まるで」園部が端末から目を上げる。「最適化されているかのよう」
実験棟の中で、標準機が微かに動く。それは暴走でも、制御不能でもない。むしろ、何かを正確に調整しているような動き。
「霧島一尉」
管制官が再び呼びかける。
「状況報告を」
「私は...大丈夫です」
彼女の声に、奇妙な落ち着きが感じられた。
「むしろ、今まで見えていなかったものが」
突然、実験棟の照明が不規則に点滅し始める。しかしそれは単なる障害ではなかった。
「これは」
鷹見が声を上げる。
「モールス信号...いや、違う。もっと複雑な」
標準機が、照明システムを介して何かを伝えようとしていた。その信号パターンは、人工的すぎず、かといって完全にランダムでもない。
「解析不能」
データ処理官が報告する。
「既知のプロトコルには一致せず」
「いいえ」
霧島の声が、通信回線を通して響く。
「私には...わかります」
その瞬間、制御室のすべての端末が同期して新たなデータを表示し始めた。それは標準機の神経網マップだった。しかし、設計図に記された構造とは明らかに異なっている。
「これは」
園部が息を呑む。
「自己進化した神経網の...完全な設計図」
図面は明確だった。標準機は、人間のパイロットとATLASシステムの特性を取り込み、まったく新しい制御構造を作り上げていた。それは単なる統合ではない。完全な進化。
「危険です」
榊原の声が緊張を帯びる。
「これは、私たちの管理を完全に超えた」
しかし、もう遅かった。
進化は、既に取り返しのつかない段階に達していた。