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新章二

# 新章 二


「神経接続、異常を検知」


第三実験棟の管制室で、警告音が鳴り響く。統合実験の開始からわずか3分。霧島の脳波データが、通常の許容範囲を大きく逸脱していた。


「量子状態の重ね合わせが崩壊します」

園部明日香が、モニターを凝視する。

「ATLAS側のAIが、標準機の神経網に干渉している」


制御パネルには、複雑なデータが流れていく。標準機の神経伝達システムは、パイロットの脳波パターンを量子的に増幅し、機体全体に伝播させる。一方、ATLASシステムは独自の量子計算による判断を、同じ神経網に送り込もうとしている。


「両者の量子状態が、干渉を」

測定班長の声が緊張を帯びる。


霧島は、激しい頭痛を感じていた。標準機との同調は、まるで別の意識と強制的に同期させられるような感覚。それは彼女が4年間かけて築き上げた機体との関係性とは、根本的に異質なものだった。


「ATLAS制御系、出力40パーセントまで低下」

「神経接続、不安定化」

「量子もつれの崩壊が加速」


警告音が重なり合う中、園部は冷静に状況を分析していた。


「興味深い」

彼女は端末にデータを記録する。

「標準機の神経網が、ATLAS側の制御を能動的に排除しようとしている」


「それは」榊原が通信回線越しに声を上げる。「予想されていた現象では?」


「いいえ」

園部の声が、わずかに昂揚を帯びる。

「これは自己組織化。標準機が、自律的な判断で外部AIを排除しようとしている」


実験棟の中央で、標準機が不規則な動きを示し始める。それは単なる制御不能ではない。むしろ、何かと戦っているような動き。


「霧島一尉」

管制官が呼びかける。

「強制切断を」


「待って」

霧島の声が、苦痛を押し殺して響く。

「まだ...制御は」


彼女の端末に、標準機からの異常なデータが流れ込む。それは通常のテレメトリーではない。まるで...警告のような。


「園部博士」

榊原の声が重くなる。

「これは実験中止の」


「データを取得します」

園部は毅然と告げる。

「この現象は、人間とAIと機械の三すくみの本質を示している」


突然、霧島の神経接続が完全に途絶える。標準機は、自らの判断で接続を切断したのだ。


「これは」

園部が端末を見つめる。

「予想以上の事態ね」


実験棟に、重い沈黙が落ちる。


霧島は、制御席で深いため息をつく。頭痛は残っているが、それ以上に気がかりなのは、切断直前に感じた標準機からのメッセージ。


それは明確な拒絶。しかし、拒絶していたのは彼女ではない。

ATLASという、外部からの支配そのものを。

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