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# 一


北海道機甲教導学校の朝は、自衛隊員なら誰もが知る時間に始まる。


四月とはいえ、まだ雪の残る早朝五時。第四教育棟の女子居住区で、霧島弓弦は規定通りに制服を点検していた。通信科で培った几帳面な性格は、七年の勤務を経てさらに研ぎ澄まされている。胸の記章は今朝から、機甲教導学校パイロット訓練課程の徽章に変わっていた。


「霧島曹長、点検完了っと」

「綾瀬二曹、いつもの早起きね」


施設科から志願してきた綾瀬時雨は、すでに制服も身嗜みも完璧な状態で待機していた。彼女の手元には、分厚い技術マニュアルが握られている。表紙には「SCTV-07 基本整備要領」の文字。


「またあの本? もう暗記したでしょう」

「違うわ。昨日、整備格納庫を見学した時の疑問点を確認してるの」


綾瀬は真剣な表情で続けた。「油圧系統の配置が、私たちの施設科で使ってる重機とは全然違う。パイロットの身体的負荷を考慮した設計なのは分かるけど、整備性が極端に低くなってる。これは訓練に影響するわ」


「さすが施設科」居室から出てきた鷹見千早が言った。「私も情報保全隊にいた時、標準機のシステム構成図を見る機会があったけど、あれは本当に特殊よ。人型という形状を選んだ時点で、通常の戦闘車両の設計思想からは完全に外れてる」


霧島は黙って二人のやり取りを聞いていた。通信科で培った経験から、彼女には別の疑問があった。標準機の通信システムは、従来の指揮統制系統とは異なる独立したネットワークを形成している。それは、パイロットの判断に大きな裁量を与えることを意味する。しかし同時に、重い責任も伴うはずだ。


「そろそろ行きましょう」霧島が声をかけた。「最初の一週間は、基礎身体能力再評価と座学が中心だって聞いてます」


「ええ」綾瀬が頷く。「でも、あの中村准教官が言ってたでしょう。『経験者だからといって、油断は禁物だ』ってね」


「当然よ」鷹見が真面目な表情で応じる。「私たち、ある意味で厄介な立場でしょう。配属先では一通りの実績を積んでる分、今更の基礎訓練なんて...って思われても仕方ない」


三人は沈黙のまま居住区を出た。外は、まだ闇に包まれている。しかし、整備格納庫の方角に並ぶ標準機のシルエットだけは、わずかな明るさを帯びていた。


教導学校の施設配置は、彼女たちが慣れ親しんだ駐屯地とは全く異なっている。すべてが標準機の運用を中心に設計されているのだ。居住区から教育棟までの動線も、実戦を想定した配置となっている。


食堂に入ると、すでに数名の男性訓練生―全員が現役自衛官だ―が食事を終えようとしていた。彼らの視線が、一瞬、三人に集中する。軽蔑でも好奇心でもない。むしろ、ある種の緊張感のようなものだった。


「あの人たち、古谷三佐の部隊の人たちね」綾瀬が小声で言う。「施設科の先輩から聞いたけど、北方総監部の精鋭だそうよ」


「ええ」鷹見も頷く。「情報保全隊の資料で見たことあります。標準機の実戦配備を最初に受けた部隊の一つ」


配膳カウンターには、すでに彼女たちの分が用意されていた。通常の自衛官用とは明らかに異なる、高カロリー・高栄養の特別メニューだ。


「おはようございます」


声をかけてきたのは中村准教官だった。制服の胸には、一期生としての記章が輝いている。


「基礎訓練の前に、皆さんには知っておいてもらいたいことがあります」彼は三人の前に立ち、続けた。「標準機のパイロットに求められる能力は、必ずしも従来の戦闘技能とは一致しません。皆さんがこれまで積み上げてきた経験は貴重です。しかし...」


彼は言葉を切り、整備格納庫の方を見やった。


「あの巨人を動かすのは、全く別の技術なんです。今日から、皆さんには新しい基準が課されます」


三人は黙って頷いた。彼女たちの前には、これまでのキャリアとは全く異なる挑戦が待っていた。

Type - 11 この機体は2040年ローンチの新機体で、本作中では登場しません。

もし、個人的にスマートなロボットkに期待されているなら、見ないことをお勧めします。

そして、今後はビジュアルは提供しません。自由に創造してください。


Image Prompt:

"A colossal 16.5-meter tall humanoid combat machine, featuring sleek matte-black bio-mimetic armor with angular geometric patterns. Its proportions suggest both power and agility, with a diamond-shaped torso housing an advanced cockpit system. The armor plates show subtle iridescent patterns indicating quantum-state sensitivity, while maintaining a menacing military aesthetic. Neural interface connectors create faint blue lines across the surface, integrated seamlessly into the stealth coating. The head unit features minimal sensor exposure through angular armor segments, while the limbs demonstrate advanced articulation points designed for precise combat movements. The overall silhouette emphasizes its evolution from mechanical to bio-digital hybrid nature, maintaining clear military origins while suggesting unprecedented technological advancement."


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