十五
# 十五
「神経接続、終了」
コンタクトスーツから解放された体が、微かに震えていた。それは疲労というより、何か根源的なものに触れた後の余韻。
霧島は自分の手を見つめる。その手は確かに人間のものなのに、14メートルの感覚がまだ残っている。通信科での経験も、この感覚を説明するには不十分だった。
「これが」綾瀬が呟く。「標準機との、本当の」
言葉が途切れる。施設科で経験した機械との一体感とは、まったく次元の異なる何か。それは操縦でも制御でもない。より本質的な。
「興味深いデータが」
鷹見は携帯端末を凝視していた。表示された波形は、従来の脳波にも神経伝達パターンにも属さない。
「これ、三機とも異なる反応を」
「その通りです」
主任教官が近づいてくる。
「標準機は、パイロットごとに独自の対話を構築する」
整備班が黙々とデータを記録している。その表情からは、これが通常のパターンとは異なることが読み取れた。
「標準機との関係は」中村准教官が補足する。「従来の兵器システムにおけるような、一方的な支配関係ではない」
「共進化」
霧島が口にした言葉に、周囲の視線が集まる。
「通信における、適応的な関係性に似ています。送信側と受信側が、互いに影響を与えながら」
「工学的に言えば」綾瀬が言葉を継ぐ。「非線形な成長曲線。でも、それ以上の何かを感じる」
「情報保全の観点からも」鷹見がデータから目を上げる。「これは単なるフィードバックループではない。むしろ...創発的な」
沈黙が落ちる。
三者三様の表現が、しかし同じ本質を指し示している。
「記録係」
主任教官が声を上げる。
「今日の報告書に、特記事項として記載を」
彼の視線は、格納庫に並ぶ三機の標準機に向けられていた。漆黒の装甲が、作業灯の下で微かに脈動しているように見える。
「三者三様の対話パターンの出現。これは、標準機開発における重要な転換点になる」
整備班の一人が小声で告げる。「各機のシステムログ、通常とは異なる反応を示しています。まるで...学習しているような」
その言葉に、誰も直接の反応を示さなかった。しかし、全員が同じことを感じていた。標準機は、単なる兵器ではない。そして人間との関係も、単純な使用者と道具の関係を超えている。
「明日からは」中村准教官が告げる。「実機との直接対話訓練に入ります。今日の経験は、その基礎となる」