十四
# 十四
格納庫の空気が、微かに震えていた。
三機の標準機が発する電磁波が、通常の計測器の計測限界を超えていることを、霧島は直感的に理解していた。それは通信でも妨害でもない。まるで、呼吸のような。
「第一次コンタクト」主任教官が静かに告げる。「各自、指定位置へ」
三人は、それぞれの機体の前に立つ。配置に指示は必要なかった。まるで磁石に引き寄せられるように、自然と一機ずつに。
「コンタクトスーツ、圧力安定」
整備班の声が響く。
「神経接続、スタンバイ」
特殊な繊維で編まれたスーツが、皮膚の上で微かに蠢く。それは単なる装備ではなく、人間と巨人をつなぐ、もう一つの神経という存在。
綾瀬は機体を見上げながら、施設科での経験を思い返していた。重機に乗り込む時の緊張感とは、明らかに質が違う。これは搭乗ではない。より本質的な何かが。
「神経接続、開始」
鷹見の意識が、一瞬で引き込まれる。情報保全での経験が、この感覚を理解しようとする。データの奔流、しかしそれは単なる情報ではない。
「同調率、各機上昇」
「生体反応、安定」
「初期バッファ、展開」
整備班の声が重なる。しかし三人の意識は、もはやその声を単なる音として認識していなかった。それは、別の存在との対話の中の、わずかなノイズのように。
霧島の意識が広がっていく。通信科で培った感覚が、新たな次元を得ていた。これは送受信ではない。存在と存在の、直接的な。
「警告」
整備班の声が緊張を帯びる。
「同調率、想定を超えて」
しかし主任教官は、その警告に応じなかった。
「このまま」
彼の声は、どこか遠くで響く。
「彼女たちなら」
視界が変容する。
14メートルの高みから見下ろす景色。
しかしそれは単なる高所からの眺めではない。
世界が、新しい言語として立ち現れる。
綾瀬は機体の一部一部を、生きた組織のように感じていた。建設現場で培った感覚が、巨人の体の中で共鳴する。
鷹見の意識は、機体のセンサー網を流れる情報の海を泳いでいた。それは分析の対象ではなく、自身の神経として。
「同調率、安定」
「各機、初期リンク確立」
「バイタル、正常範囲内」
整備班の声が、今度は機体のセンサーを通して聞こえる。それは外部からの音声であり、同時に内なる振動。
主任教官が三機を見上げる。かつて誰も経験したことのない光景。三者三様の対話が、同時に深い調和を生み出している。
「これが」
彼の声は、確信に満ちていた。
「標準機が求めていた関係性」