十三
# 十三
「整備班、安全確認」
格納庫の重厚な扉が、ゆっくりと開いていく。外光を遮断された空間に、三機の標準機が静かに佇んでいた。先ほどまでの試験機とは異なる、実戦配備型の漆黒の装甲。整備用の作業灯が、その表面で冷たく輝いている。
「これが、訓練用実機です」
中村准教官は三機の前で立ち止まった。
「型式番号、X-07-TR」
綾瀬が思わず息を呑む。施設科の技術者として、この機体の異常さが直感的に理解できた。表面的には人型を模しているが、その構造力学は従来の工学理論を明らかに逸脱している。
「質量分布が」彼女は思わず呟く。「これ、立っているはずがない」
「その通りです」整備班長が応じる。「従来の力学では説明できない、自重支持能力を持っています」
鷹見は黙って機体を観察していた。情報保全隊での経験が、通常とは異なる電子機器の存在を示唆していた。電磁シールドの配置、センサーアレイの構成、そのどれもが既存の戦術データベースにない。
「霧島曹長」
主任教官の声に、彼女は我に返る。
「通信システムについて、何か気づきは?」
「はい」霧島は機体の特徴的な突起を指さす。「あれは通信アンテナに見えて、実は違う。むしろ...」
「むしろ?」
「神経繊維のよう。機体全体が、一つの巨大な感覚器官として」
沈黙が落ちる。
その観察は、標準機の本質に触れていた。
「三機とも、微妙に特性が異なります」
中村准教官が説明を続ける。
「先ほどの神経同調試験の結果に基づいて、仮の適合機を」
「待ってください」
鷹見が声を上げた。
「この反応パターン」
彼女の携帯端末には、三機のシステムログが表示されている。そこには、人間の意図を超えた何かが。
「機体が」彼女は端末を見つめたまま言う。「パイロットを、選んでいる」
主任教官の表情が、わずかに変化する。
「気づきましたか」
「これは」綾瀬も端末を覗き込む。「まるで共鳴現象。でも、単なる機械的な共鳴じゃない」
「私たちの神経同調パターンと」霧島が言葉を継ぐ。「機体独自の...波長、とでも言うべきものが」
三人の視線が、漆黒の巨人たちに向けられる。そこには、単なる兵器を超えた、何かの意思が宿っているかのよう。
「整備班」
主任教官が静かに命じる。
「第一次コンタクトの準備を」