十二
# 十二
鷹見の意識は、データの流れを追っていた。
情報保全隊で培った分析眼が、神経同調試験装置の特性を読み解こうとする。電流パターン、神経伝達の経路、そしてフィードバックの構造。全てが、従来のシステムとは異質だった。
「同調開始します」
最初の信号が、彼女の神経を伝わる。その瞬間、情報保全隊での経験が警告を発した。このデータストリーム、あまりにも生々しい。まるで―
「同調率、8パーセント」
「力を抜いてください」整備班長の声。「分析しようとしすぎです」
その指摘が、彼女の中で反響する。確かに、全てを理解しようとする習性が、かえって同調の妨げになっている。
「データは」主任教官が静かに言う。「時として、理解を超えて存在する」
情報分析の限界。それは情報保全隊でも、時として直面する課題だった。全てを分析し、理解することは不可能。時には、ただ情報の流れに身を委ねる必要が―
「同調率、19パーセント」
体が、データそのものになっていく感覚。情報の海に溶け込むような、しかし決して主体性を失うわけではない。
「29パーセント。上昇傾向」
見えてくる。これは分析の対象ではない。対話のための、新たな言語。情報保全隊で扱った暗号解読に近い。しかし、それは単なる符号化された情報ではなく、生きた意思との。
「同調率、51パーセント。安定しています」
試験装置から解放された時、鷹見の分析眼は新たな視点を得ていた。標準機を、単なる分析対象として見ることはもはや不可能だ。
中村准教官が三人を見渡す。「それぞれ、興味深い同調パターンを示しました。通信、施設、情報。異なる経験が、異なる対話を生み出す」
整備班が記録を確認している。データこそ異なれ、三者三様の同調は、いずれも基準を満たしていた。
「標準機との対話に、正解は一つではない」主任教官の言葉が、朝の空気を震わせる。「むしろ、その多様性にこそ、可能性が」
整備班が新たな準備に入る。これは始まりに過ぎない。実機との対話は、より深い理解を求めてくる。