十一
# 十一
「重機との違いは明確です」
綾瀬は試験装置に固定されながら、施設科での経験を思い返していた。大型重機のコントロールは、確かに繊細な技術を要する。しかし、それは常に「外側からの操作」だった。
「神経同調開始します」
最初の電流が、背骨を上っていく。施設科で培った筋感覚が、違和感を察知する。これは機械を操作するのとは、根本的に異なる何かだ。
「同調率、12パーセント」
「意識を広げてください」整備班長の声が響く。「重機の感覚は、一旦忘れて」
それは簡単なことではなかった。数年に渡って染み付いた体の動かし方、機械との関わり方。それらが、むしろ同調の妨げとなっている。
「同調率、11パーセント。低下傾向」
焦りが生じる。しかし―
「綾瀬二曹」主任教官の声。「あなたは施設科で、何を学びましたか?」
その問いが、彼女の意識を揺さぶる。
施設科。そこで彼女が学んだのは、単なる機械操作ではなかった。重機との共同作業。地形との対話。そして何より―
「同調率、23パーセント。上昇に転じました」
環境との一体化。それは施設科の基本であり、真髄だった。機械は、人間の意思を実現するための手段であり、パートナー。
「35パーセント」
体が溶けていく感覚。しかしそれは、決して不快なものではない。むしろ、長年待ち望んでいた感覚。重機では到達できなかった、完全な一体化。
「48パーセント。安定しています」
「十分です」中村准教官の声。「初動試験としては、良好な数値です」
装置から解放された綾瀬は、自分の手を見つめた。そこには確かに、新しい可能性が宿っていた。重機では得られなかった、本質的な「共同」の予感が。
「次、鷹見曹長」