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序章

序章


2035年1月28日。陸上自衛隊広報資料「人型戦術車両(標準機動戦闘車両)配備5周年報告」より抜粋。


極東アジア地域における準戦時体制の長期化に伴い、本土防衛力の質的向上は喫緊の課題となっていた。その中で、地形追従性と戦術的柔軟性を両立する新世代戦闘車両の開発は、防衛計画の核として位置づけられた。人型戦術車両(SCTV: Standard Combat Tactical Vehicle)、通称「標準機」の正式配備から5年。導入時には「徒歩戦闘員の巨大化に過ぎない」との批判も存在したが、その戦術的価値は年を追うごとに実証されている。


記:防衛省 装備施設本部


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2035年2月15日。陸上自衛隊 北部方面隊 第1機械化連隊 戦術評価報告書より。


実施された冬季演習において、標準機動戦闘車両は-40℃を下回る極寒環境下でも安定した作動を示した。特に、従来の装軌車両では対応が困難であった急峻地形における展開能力は特筆に値する。一方で、熟練パイロットの高齢化と後継者育成は喫緊の課題である。現行の教育体制では、年間の新規資格取得者数は必要数の約60%に留まっている。


付記:女性自衛官の人型戦術車両操縦資格取得に関する検討委員会の設置を提言する。


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2035年3月1日。「標準機をハックする」著者:山田真琴(元陸上自衛隊技術将校)より抜粋。


標準機、いや人型戦術車両と呼ぶべきかもしれない。この兵器の本質を理解するには、まず「なぜ人型なのか」を考える必要がある。答えは意外にシンプルだ。人間の脳は人型の動きを直感的に理解できる。つまり、操縦者の意図を最も効率的に具現化できる形状が、人型なのである。


もちろん、それだけではない。日本の国土、特に都市部における運用を考えた時、人型という選択には明確な合理性がある。狭隘な道路、階段、さらには建物内部への進入。これらすべてが人型であることのアドバンテージとなる。


しかし、その代償として求められる操縦者の技量は、従来の戦闘車両とは次元が異なる。標準機の操縦席に座る資格を得るまでの道のりは、あまりにも険しい。


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2035年4月1日。北海道機甲教導学校 入校式における校長訓示より。


諸君は本日より、我が国の防衛の最前線を担う存在となるための第一歩を踏み出した。この門をくぐった者の多くは、その過酷さに押し潰されていく。しかし、それを乗り越えた者だけが、あの巨人を動かす資格を得る。


今期の入校生には、3名の女性自衛官が含まれている。我が校として初の試みである。しかし、ここでの訓練に性別は関係ない。求められる基準は全く同じだ。それを承知で志願してきた諸君を、私は心から歓迎する。


さあ、始めよう。君たちの戦いを。


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2035年4月2日。北海道機甲教導学校 第1教練場。早朝。


雪まじりの冷たい風が吹き抜ける中、巨大な人影が静かに佇んでいた。全高14メートル。漆黒のマット塗装を施された装甲は、わずかな朝日を吸い込むように艶を消している。


その足元で、一人の女性訓練生が首を傾げていた。制服の襟には、機甲教導学校初期訓練課程の徽章が光る。


「これが...私の、標準軌道...」


彼女の言葉は、明け方の風に溶けていった。


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2035年4月2日。同日。防衛省 内部文書。機密指定。


極東地域における準戦時体制は、予想を上回るペースで緊迫化している。人型戦術車両の戦力化を急ぐ必要がある。現場からの報告通り、パイロットの確保は喫緊の課題だ。


しかし、北の方面隊が提案する女性パイロットの育成には、慎重な検討が必要だろう。既存のパイロットたちの反発も考慮せねばならない。


だが、時は我々を待たない。


全ては、彼女たちの双肩にかかっている。

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