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気の許せる場所(幼馴染たち)

「…まだ気付かないの? 龍くんは本当に私の事が好きなの?」

「…へ?」


 美嬉ちゃんと帰路を歩きつつ,こっそりと周囲を見渡していると美嬉ちゃんが僕の顔をまじまじと見つつ口にする。

 だが,その言葉遣いは何時(いつ)もの美嬉ちゃんとは異なり,何方(どちら)かといえば美花ちゃんの(しゃべ)り方だ。

 上目遣いで僕を見て来る美嬉ちゃん (?)に,僕は嫌な予感がして背中に冷や汗を大量に掻く。

 まだ春なのに,僕の背中は汗でべっしょりだ。

 では何故(なぜ),僕がこんなに冷や汗を掻いているのか? というと…。


「もしかして…美花ちゃん?」


 僕は恐る恐る美嬉ちゃん (?)に自分が思っている事を伝える。

 すると,美嬉ちゃん (?)は真剣な眼差しを変える事なく,更に僕に畳み掛けるように告げる。


「龍くんはどっちだと思う?」

「………」


 その問い掛けに僕は完全に言葉を失った。


 言い訳をするつもりはないが,美嬉ちゃんと美花ちゃんは本当に瓜二つだ。

 それは,彼女らの実の両親でさえ“演じられたら”区別がつかないレベルで。

 そんな難問を,幼馴染というだけのポジションである僕が判断出来ると思う?

 いや,以前に美嬉ちゃんがこっそりと教えてくれた事を確認すれば,彼女が何方(どちら)かは分かるのだけど…。

 ただ,それを確認するのもかなりハードルが高いというか。


 「確認出来るならさっさと確認しろよ」って? それが簡単に出来たら此処(ここ)まで苦労していないよ。

 だって,美嬉ちゃんが教えてくれたのは“胸の谷間付近の乳房(脇と同じ位置)にある黒子”だから。

 美嬉ちゃんは「龍くんが見たいなら見せてあげる」と襟を指で伸ばして見せてくるけど,実際に確認した事はない。

 まぁ逆に言えば,胸の谷間を覗こうとしてビンタなどが飛んでくれば美花ちゃんだ。

 いや,相手が美嬉ちゃんだとしても嫌われたくはないから覗かないけど。


 などと,僕がどつぼに(はま)っていると,帰路の途中にある人気のない公園からもう一人の方(恐らく美花ちゃん)がやってきた。

 隣には翔の彼女である姫路さんと一緒に。




「入皮くんを(からか)うの本当に好きよね? 美嬉…」


 頭を抱える僕を見た姫路さんは,一瞬にして状況を理解したのか?

 僕が欲しかった答えを一言で的確に言い放つ。

 ただし、それが正解かは美花ちゃんと美嬉ちゃんにしか分からないのだが。


「姫路さんは美花ちゃんと美嬉ちゃんの区別がつくんだね…凄いなぁ」

「入皮くんが分からないんだから…本気で演じられたら私なんかが分かるわけないでしょ? 長年の勘よ」

「…さいですか」


 普段は聞き手で滅多に喋らない寡黙な姫路さんが,僕の問いに珍しく説明文で(しゃべ)ってくれる。

 初対面や付き合いが短い人は,姫路さんが何を考えているか分からないと怖がるが,幼馴染である僕らには普通に接してくれる。

 まぁオカルト好きで,気を許さない相手には「(しゃべ)り掛けるな」というオーラを放っているので,気持ちは分からなくはないのだが。

 ただ,仲良くなると最初の取っ付き(にく)い印象はガラリと変わり,ここぞとばかりに僕と双子の恋路を応援するお節介な性格を露わにしたり。


「そんな事より…私が美嬉を引き受けるから入皮くんは美花に告白しなさい」

何時(いつ)も思うけど姫路さんってド直球だよね(汗)」

「じれったいのが見ていられないだけよ…今日中に告白しないなら私は美嬉の味方に付くから」


 そう言い残すと姫路さんは美嬉ちゃんへ近付き,有言実行とばかりに僕から美嬉ちゃんを引き剥がしていく。

 同時に,姫路さんは美花ちゃんの背中を押して僕に近付け,姫路さんは僕だけに見えるように親指を立てた。

 本当,味方に付けると心強く敵に回したくない相手だよ姫路さんは。


 とは言え,姫路さんは告白しろと簡単にいうけど,そんなに簡単に出来たら苦労はしないよね。

 出来ないから今も幼馴染という関係から何も進めていないわけだし。

 まぁ姫路さんが土台を作ってくれたから,告白は出来ないにしろ少しでも距離は縮めたいかな。

 そんな事を思っていると…姫路さんに連れていかれる寸前で,美嬉ちゃんが僕の耳元で一言だけ呟いた。

 「龍くんでも私と美嬉の区別がつかないのね…ちょっとガッカリ」と。


『…え? 本当に美嬉ちゃんが美花ちゃんだったの!?』


 その一言が僕を混乱させ,その帰路に美花ちゃん・美嬉ちゃん・姫路さんと何を(しゃべ)ったか? は何も覚えていない。

 そう,僕の頭の中は美花ちゃんと美嬉ちゃんの事(演技)でいっぱいだったのだ。



 その日の夜―――


「美奈から聞いたよ…お膳立てしてもらったのに告白出来なかったんだって?」

「姫路さん怒ってたよね? 申し訳ない事したと思ってるよ…」


 夕食を終えた僕は,泊まりでやってきた翔と一緒にゲームをしながら帰路での出来事について(しゃべ)っていた。

 何時(いつ)もの事ながら翔は悪気もなく遠慮なくツッコんでくる。

 まぁこういう性格だから姫路さんと上手くやれているのだろう。


「【美嬉に何を吹き込まれたか分からないけどチョロすぎだわ】って美奈が御立腹だったぞ?」

「…返す言葉もございません」


 姫路さんが怒るのも分かる。

 僕が姫路さんの立場でも,間違いなく苛立っていたと思う自信がある。

 だって,協力してもらったのに成果をあげられなかったし,傍から見れば完全に不甲斐ない部分しか見せていないから。

 でも,言い訳をさせてもらえるなら「告白は唐突過ぎ」だと思うのは僕だけでしょうか?

 とは言え,そんな事は口が裂けても言えないけど。


「…なぁ龍?」


 思い出したら握り拳に力が入り,己の不甲斐なさに苛立ちを覚える中。

 タイミングを図ったかのように翔が,僕の目を真剣な眼差しで見つめながら口を開く。

 若干,口角があがっていたような気もするが…僕の見間違いだろう。


「もしも高嶺美花と高嶺美嬉が一瞬で区別出来れば告白するか?」

「美花ちゃんと美嬉ちゃんが本気で互いを演じたら区別出来るわけ…」

「それが出来るとしたら? 龍は高嶺美花に告白するか?」


 実の親ですら区別が出来ない高嶺姉妹の本気の演技を認識出来る?

 そんな事が本当に出来るのなら,翔の言うように間違える心配もせずに美花ちゃんに告白出来るだろう。

 でも,悲しい事に提案してくる当の本人(翔)は,高嶺姉妹の本気の演技を8割強で間違える。

 翔を疑うわけではないがそれが本当に可能なら,翔が高嶺姉妹の本気の演技を間違える筈がない。

 そんな疑問を浮かべる僕を他所に,翔は何処(どこ)からその自信が出て来るのか? 真顔で見分けられると豪語する。


「本当にそんな事が出来るなら…ねw」

「そうか! 男に二言はないよな龍? じゃあこれをやる!」


 そう言って翔は,僕にあるものを渡してきた。

 あまりにも真剣に言う翔に,圧倒された僕は疑心暗鬼になりつつも断り切れず。


「分かったよ…でも本当に美花ちゃんと美嬉ちゃんの区別が出来るんだよね?」

「嗚呼…それがあれば龍なら出来る筈だ」

『本当にこんなので美花ちゃんと美嬉ちゃんの区別がつくのか?』


 そんな都合のいいモノがあるわけないと思いつつも,あまりにも翔が真剣に言うもんだから,僕は翔が渡してきた物を拒む事も出来ず,素直に受け取った。

 それが,まさかあんな事になるなんて…この時の僕は想像もしていなかった。

 いや,それを想像出来る人間が果たして存在するのか?


23.10/16 サブタイトル&一部重複している文章があった為,訂正しました。


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