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転生彼女の付き合い方  作者: 凪司工房
転生7
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2

 エルザたちの「蘇芳」という名字は、今では使われていないとても古いものだそうだ。

 彼女たちはメモワール王国という名が示すように、メモワールという王族の一員であり、正式に呼ぶ場合はエルザ・メモワールというらしい。姉二人はそれぞれシルヴェリア・メモワール、ロゼリア・メモワールである。

 王国は険しい山に囲まれた谷間に細長い城下町を築き、周辺の国々を植民地とすることで成長してきたという。かつては作物が育ちづらく、水も鉱物汚染により飲料水には適さないという土地柄だったこともあり、何でも周辺諸国から強奪しないと民を養えなかったという事情もあったそうだが、転生の技術の解明が進み、多くの犠牲者を出したものの、その転生の力によって水は清水へと、作物の実りも多い土地へ改変され、王国はどんどん力をつけていったと、エルザは語った。

 風景や城の造り、城下町の様子を伺うと、どうもこちらの中世ヨーロッパ、特に古城の多いドイツの印象に近い、と俺は感じる。そのことを彼女たちに話すと、是非一度見てみたいというので、いつか旅行に出かけることになるかも知れない。

 それはそれとして、転生の力を手に入れたメモワールはどんどん強大になり、周辺諸国を呑み込んでいった。気づけばその世界のおよそ六割をメモワールの属国が占め、連合国家として圧倒的地位を築き上げたのだ。


 けれど転生の力による強制は世界の歪みを生み出していた。

 いつ頃からか分からないが、最古の記録では最初の転生を試した頃に既にその兆候があったと書かれている。

 世界の一部が消える。

 それはまるでそこだけが消しゴムで消したみたいに綺麗に時空が消えているのだという。実際にエルザは一度だけ、時空の谷間と呼ばれている消失エリアの視察に行ったらしいが、その視察隊も十人以上がエリアに近づきすぎて消失してしまったそうだ。まるでブラックホールのようにその世界の有りものを吸い込み、消し去ってしまう。

 気づくと村どころか、小さな国が一つ、二つと消えていた。

 世界がどんどん小さくなり、それに伴ってメモワールの養える民の数も限られるようになり始めた。


 王室の賢者たちは集まって対策を考えたが、やはり転生の術を使う以外にないという結論になり、再び何人もの犠牲者が出ることとなった。

 転生による世界の再生は一時的には効果があったものの、転生する者の能力が足りておらず、世界縮小の早さの方が修正よりも早くなり、結果、世界の寿命を縮めることになった。これ以降、一般人の転生による世界修正は諸刃の剣とし、禁忌にされてしまう。


「ですが姉たちは諦めていなかったのです。いえ、それ以前に転生による世界再構築以外の術を見つけ出すことができませんでした」

「そこからどうやって俺に至るんだ? そもそも俺の祖先は遥か昔に君たちの世界とは袂を分けたのだろう?」

「実は、わたしたちが異世界転生という力を試すより遥か前、およそ五百年ほど昔と聞いておりますが、一人だけ、異世界転生をした者がいたそうです。わたしの何代も前の女性だと、聞いております」

「前にも転生した人間がいた、というのか。その人物はどうなったんだろう」

「何一つ分かっていません。そもそも転生というものは単なる哲学や神話のように捉えられていたのです。ですから本気で自分たちが転生できる、しかも異なる世界に人間として転生できるなんて誰も考えなかったんです」


 民話や神話として伝わっていることが事実だとは誰も考えない。何かしらの出来事を元にして、それが口伝や書物といった形で後世に残されるが、例えば古事記では崇神天皇は百六十八歳まで生きているし、創世記でもアダムは九百三十歳まで生きている。それをそのまま事実と信じることはないし、あくまでフィクションとして捉えるだろう。

 けれど彼女たちの先祖の誰かに一人だけいたのだ。神話が事実だったと考えた人物が。


「その方が残した資料に記載があったのです。始祖の転生者と呼ばれる存在がいた、と」

「それが俺のご先祖様な訳か」

「はい。そこには“マイロード”と書かれていました。そのマイロードは転生族の中でも特異な存在だったらしく、転生による世界創造の力は歴代でも見たことのないほど強力なもので、小さな世界なら同時に二つ三つと創造してしまえるほどのものだったと書かれています」

「じゃあ神話の時代に、そのマイロードなる大ご先祖が君たちの世界から俺たちの世界へと転生したということか。それから二つの世界が別々に存在し続けていた、と考えていいのか」

「本当はもっと多くの世界が同時に存在していて、ただわたしたちが認知できないだけなのかも知れないのですが、ともかく学者や研究者たちはその文献と神話の時代の伝承を調べ上げ、こう結論づけたのです。わたしたちの世界が縮小し消滅するのは、かつてマイロードにより創造された異世界の残り香だったものが、いよいよ寿命を迎えているのだ、と」


 世界の寿命。そんなものがあると云われても何とも実感がない。ただ理論的には太陽はおよそ百億年の寿命で、残りは五十億年ほどだと考えられているし、一説では宇宙の残りの寿命も千四百億年ほどだと計算されていたりするから、世界に寿命があってもおかしくはない。そもそもこの世界が何によって構築、維持されているのか、よく分かっていない。全てをエネルギーだと捉えれば、そのエネルギーが存在している間は世界は維持されるだろうし、エネルギーの消失により世界は消えることもあり得るだろう。


「それでマイロードの力が必要、か。けれどそれならマイロードである俺に頼めばいい、とはならないのか?」

「マイロードがどんな人物か分からない。しかも協力してくれたとしても一度のことならまた次の世界の終焉がやってきます。姉たちはそうならないよう、自分たちがマイロードになる方法を探させ、辿り着いた結論が『マイロードの精神の器を砕き、そこに新しい精神を移植する』というものでした。その為に短期間に転生を繰り返させ、加えてメモワールの能力で記憶を混乱に導くことで廃人としようとしたのです」


 トロッコ問題は五人の命か一人の命かという単純な命の重さを問う問題ではなく、五人助ける為に一人を見殺しにしてもいいのかという道徳的な問題、また人数の大小によってどちらかを決めるという主観的な価値判断の問題、更にはその判断に自分の行為が関わってくるという自身の行動への倫理観といった諸問題を問いかけている。けれどそこには五人と一人がそれぞれどんな人物なのかという具体性はないし、自分との関係性についても不明なままだ。


「つまり君の姉たちは自分たちを助ける為にマイロードである俺一人を犠牲にする方を選択したという訳だ」

「そうなりますね」


 エルザは淡々と答えた。


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