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転生彼女の付き合い方  作者: 凪司工房
転生4
33/49

4

「ビル!」


 蘇芳エルザは呼びかける。それに対して軽く頷いたのを見て、僅かに安堵の表情を見せた蘇芳エルザは振り返り、何かを探した。俺は立ち上がりながら、つい数秒前まで自分が立っていた場所に視線を向ける。そこは大きく抉れていた。アスファルトが半球状に陥没し、その中心部に見覚えのある尖った鉄の棒が突き刺さっていたのだ。


「あそこか。お願い」

「御意」


 蘇芳エルザが見たのは屋根の上だった。彼女の声に呼応するように短く頷くと、ビルギットは跳躍する。それはとても人間業とは思えず、彼女は軽々と五メートルほども自分の体を宙に持ち上げると、屋根へと飛び移り、逃げていくその黒い人物を追った。


「あの黒い奴らは何者だ? 俺はひょっとすると君らの仲間じゃないかと思っていたんだが」

「仲間、ですか。何故です?」

「俺を殺す為だ」

「信永さまを殺すなど……どうしてそんな風に思われてしまうのでしょう。わたしは言いました。あなたの問いに答えました。わたしはあなたを、信永さまをお守りする為に異世界へ、この世界へと転生したのだと。転生するということは、一度命を捨てるということです。わたしがここに至るまで、何度転生を繰り返したでしょう。それなのに何故」

「君の言葉で聞いているだけだから、それが本当のことかどうか分からないだろう? そもそもがだ、俺が狙われるようになったのは君たちが現れてからじゃないか? 守るという振りをしながら、その実、巧妙に俺が殺されるように仕向けているんじゃないのか?」


 涙が、大きくなり、彼女の栗色の瞳から零れ落ちた。


「蘇芳さん!」


 彼女は何も言わずに背を向け、俺の前から走り去ってしまう。

 俺は右手を伸ばしたが、彼女の腕を掴むほどの勢いはなく、ただ彼女が金髪を揺らしながら走っていくその背中を、黙って見つめていた。


 ――何か、間違っていただろうか。


 けれど俺の記憶の中の事象を並べてみた時に、一番しっくりきたのが彼女たちによって俺の死がもたらされたという可能性だった。黒尽くめが何者か。もし彼女たちと敵対している者ならそう答えれば済む問題で、本当に俺を守ろうというなら俺自身がちゃんと敵を認知していた方がずっと守りやすい。しかも、いつも実際に体を張って俺を守ろうとしているのはビルギットだ。彼女は姫である蘇芳エルザの衛兵のはずなのに、何故俺ばかり守ろうとするのだろう。黒尽くめは何故蘇芳エルザを狙わないのだろう。

 考えれば考えるほど目的が分からなくなる。だからこそ、ちゃんと答えてもらいたかった。


「信永?」


 未央だった。


「ああ」


 小首を傾げながら、夏服の袖を少し捲り上げた未央は鞄を後ろに持って、ゆっくりと歩いてくる。


「蘇芳さん、なんか泣いてた」

「分かってる」

「分かってない。信永、蘇芳さんの気持ち全然分かってないよ」


 未央の目が厳しく俺を見ていた。


「分からないから訊いた。けど、彼女は答えてくれなかった。それだけのことだ」

「信永はいつだって自分は論理的に正しくて、理解できない方が悪いって思ってるでしょ? けどね、人間は論理で作り上げたロボットじゃないんだよ? 感情で動く人間なんだよ? それが分かってないっていうの!」


 もう! ――と、未央の右爪先が俺の右の向う脛を蹴飛ばした。力がなくても流石に痛みは相当なものだ。どんなに鍛えても補えない弱点というものを人間はいくつも持っている。

 脛の痛みに涙が滲みそうになっているのか、走り去った幼馴染に言われたことで泣きそうになっているのか、よく分からなかった。

 最近あまり一人になれなかったが、小さい頃はいつも一人だったことを思い出す。そういえば俺は未央が隣に来てから、孤独というものを少し忘れていた。

 学校の方はまだ騒然としているようだ。ただ一台、二台とパトカーがサイレンを回しながら走り去っていくのが遠目に分かった。

 少しずつ通りに溢れていた学生たちも流れを取り戻し、登校を始めたようで、俺も重い足を引きずり、学校へと足を向けようとした。

 その背後だった。

 振り返ると、ビルギットがいた。


「どうかしたのか」


 彼女は表情なく、こちらを見つめていたが、その手にはナイフを握り締めていた。


「姫様が……殺された」

「え?」

「だから、すまない。マイロード。あなたの力を、貸して下さい」


 そう言うと、ビルギットはゆっくりと俺に歩み寄り、逆手に持ったナイフをまるで黒ひげの樽に突っ込むようにして、ぶすり、と胸に突き刺した。その場所、角度、深さ。どれもが的確に俺の心臓を捉えていたようで、痛みと同時に呼吸ができなくなった。

 何故。

 その声は声にならず、俺は白く消えゆく視界の中で、涙を浮かべているビルギットの顔に疑問を覚えながら、その意識ごと、どこかに沈んでいった。


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