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第6話『のっしのっしと歩いておるぞ……!』




「おお……熊だ……のっしのっしと歩いておるぞ……!」


 俺は唐突な野生動物の出現に驚いていた。

 まあ、山に囲まれた田舎なので熊が出没することは稀にあるっちゃあるのだが。

 あの熊、やたらとデカくねぇ? 遠目だけど体長十メートル以上あるような……。


 アレが村に近いこの辺をウロウロしている。

 そいつは冷静に考えてとってもデンジャラスだった。

 しゃーない、ここは魔法でサクッと撃退しておくか。


 人を襲うようになっているなら放置するのは危険だ。


 追いかけられてるパーカーの人もヨロヨロで今にも転びそうだし……あ、転んだ。


「ふんぬばっ!」


 俺は掌を掲げて氷の槍を精製。


 それをぶん投げて熊の頭部を狙い撃つ



 ぐさっ!



 氷の槍は熊の右目を貫いて頭部に突き刺さった。



『ギャウオオォオォオォオゥゥオォオォオォオゥッ!!!!!!!』



 熊は大声で唸ると、踵を返して山林に消えていった。

 ま、あそこまで深々と槍が刺さったのなら長くは持つまい。

 深追いせずとも勝手に息絶えるだろう。


「おーい、大丈夫ですかー?」


 熊を撃退した俺は地面に突っ伏すパーカーの人に声をかける。


 そして手を差し伸べると、


「こ、怖かっ……じゃない! どうして助けたんですかッ! 余計なことを!」


 甲高い声で怒られ、パシンッ! と手を叩かれてしまった。

 ええ……助けてゆーとったやん……。

 どういうことだってばよ。


「なんでもいいですけど、こんな夜に森に入るのは危ないんでやめたほうがいいですよ」


 ワケがわからんが、これだけは確かだと思ったことを言っておく。


 すると、


「い、いいんですよ! わたしは死ぬつもりで森に入っていったんですから!」


「でも、熊から逃げてましたよね?」


「そ、それは怖くてつい……」


 パーカーの人は言い訳じみたことをのたまう。

 顔はフードで隠れてるけど、声からして女の人かな?

 活舌がいいというか、よく通る声だ。


「とにかく! わたしはもう死ぬつもりなんです! 放っておいてください!」


 パーカーの人はやけっぱち気味に叫んで立ち上がった。


「ごほごほっ……」


 咳をしながらフラフラと歩き出す。

 熊から逃げて疲れてるのか?

 いや、そもそも生命力が著しく低下していないか?


 魔王の記憶を取り戻したからなのか、俺は気配とか魂の強弱みたいなものが何となく察せられるようになっていた。


「どっか具合でも悪いんですか?」


「…………」


「どうして死にたいんです? よかったら話してみてくれませんか?」


「あなたには関係……いえ、もうこの身体じゃ夢を追えないからです」


 パーカーの人は諦観した声で答えた。

 話すつもりがなさそうだったのを転換したのは誰かに愚痴りたくなったからか?

 行きずりの相手なら体裁を気にしなくて済むって感じか?


「夢を追えないって、病気か怪我か何かを……?」


「はい、薬を飲んで安静にしていれば命に関わることはないそうですが。夢は諦めなくてはならないんです。これまであんなに頑張ってきたのに……」


「…………」


「ただ、目標もなく生き続けるだけ、そんな無意味な人生を続けていくくらいなら……」


 パーカーの人は拳を強く握りしめながら嗚咽を漏らした。


 夢か……。


 彼女の夢が何かは知らないが、すぐ死ぬわけでもないのにここまで絶望を感じてしまうということは相応に人生を懸けて打ち込んできたことなのだろう。


 将来のことをまだ深く考えていない俺には、そこまで強く思えるひとつの事柄があるということが少し羨ましい気がした。

 

 敬意を覚えたといってもいいかもしれない。


「ゴホッ、ゴホッ……」


「ほら、これ飲んでどうぞ?」


「あ、すみ、ません……」


 俺は咳き込み出した彼女に水の入った小瓶を手渡した。


 ちょっとでも注意していれば、手ぶらだった俺が一体どこから小瓶を取り出したのか疑問に思ったはずだ。


 だが――


 ゴクゴク。


 少女は瓶のなかの液体を疑いもなく飲んだ。


 きっと細かいことを気にする余裕がなかったのだと思う。


「…………」


 さあ、効果は如何ほどに――



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