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東京では国会と政府が無くなったけど、今まで有るのが当り前だったモノの多くは、思いの外、当り前のように存在し続けていた。
ここ数日、お父さんと近所の牛農家は公民館に集って、今後の事を話し合っている。
そして、どうやら、スーパーやコンビニも……時々、思ってもみなかったモノが品薄になるけど……一応は営業してて、お酒も買えるので、打ち合わせの筈なのに、帰って来た時は顔が赤くなってて、仕出し屋さんも同じく営業してるみたいで、お土産に盆や正月に親類が集った時に出るような料理を持ってくる事も有る。
どうやら、農協も屠殺場も市場も一応は機能してるらしい……だから、牛を売る事も可能なようだ。
「で、どうすんの、これから?」
「近所の農家で組合を作って、牛はまとめて世話をする事になった。後は、売上の分配とか、飼料とか消耗品の仕入ればどうすっかが決まれば……」
「高校やめなくていい?」
「まぁ……当分はな……」
あたしは、仏壇に有る2年前に交通事故で死んだお母さんの位牌に手を合わせた後、自分の部屋に戻って、布団の中に入る。
「ところで、あの牛って、一頭いくらぐらいすっとね?」
うわああああッ⁉
「な……なんだよッ⁉」
目の前には宙に浮いた自称「獣脚類の妖怪」ことスーちゃんの顔。
「いやね……美味しそうやけん……」
「と……ところで……今まで何やってたの?」
「ん〜、あんたの友達の家やけど……」
「真子ちゃん家で何やってたんだよ?」
「頭撫でてもらったりとか……夜中に一緒に寝たりとか……」
「妖怪でも食べ物要るの?」
「そりゃ……実体化した時には……」
「実体化?」
「おいおい話すけん……まぁ、ウチらは、哺乳類よりは燃費は良かけん、そう大した量は……」
「大体、どうやって、お金払うつもりだよ?」
「アイデアは有るけん、大丈夫、大丈夫」
「どんなロクデモないアイデアだよッ⁉ 嫌な予感しかしないよッ‼」
「いや、ウチも人間の文化と云うのを勉強したけど……うん、今みたいな時代ならではの商売を思い付いてね」
「な……何だよ……?」
予想が付かないけど、聞いたら後悔するようなロクデモないモノな事だけは予想が付く。
でも、今、聞いとかないと、確実に後でもっと後悔する羽目になる事も予想が付く。
「そりゃ、魔法少女ならではの事たい」
「だから、何?」
「正義の味方たいッ‼」
……聞くんじゃなかった。
人間にとっての正義ならともかく、妖怪恐竜にとっての正義なんて、どんな斜め上の代物か知れたもんじゃない。