独白~とある平凡な男子高校生の場合~
飯島徹は陰キャよりのフツメンだ。
清潔感を持った短めの髪。
ザ・平凡と言っても問題ないルックス。
猛勉強しても平均少し上を推移する学力。
そつなくこなすが黄色い声援が来る程でない運動神経。
歌唱力も文章力もなく、
何か強みは?と言われたら平凡力と答えられるであろう平々凡々の県立第三高校の一年男子だ。
まあ、俺のことなんだけど。
そんな俺が、6人の美少女に好意(?)を寄せられているぽい?
でも、幼い頃に結婚の約束をしたことも、誰かを助けた記憶も、周囲でいぢめられた子がいたことも俺にはない。
何故こうなっているか理解しようとしたならば
なんかの罰ゲームか、本命への当てつけか、相手を間違えたかのどれかになるんだ。
彼女たちにとっては当然のように、6人とも俺に告白した。
俺にとっては当然のように、お断りした。
友達から始めるでなく、すっぱりと・・・彼女が居る訳ではないが・・・
理由としては、6人が6人とも、仲良くしているイケメンの相手がいるんだ。
いずれそっちとくっ付くのに邪魔する気にはなれなかったし、
きっと、そっちへの当てつけとか、罰ゲームとかなんじゃないかと思ってしまったからだ。
#1 西部美鈴
西部さんは、地区で一番学力が高い 私立顕品大学付属高等学校。通称顕品学園の1年。
成績優秀。スポーツ万能な、翠の黒髪の綺麗な女の子で、1年生でありながら生徒会に入っているという才女だ。
俺との接点といえば、登下校時の電車で時々会う程度のものだった。
満員電車で助けたとか、そういう分かりやすいモノがあるなら良かったのだが
彼女が乗る駅の一つ前がオフィス街なのでそんな状況には成り得ない。
もう一つ接点があったのは、1学期の期末テスト対策で図書館で勉強をしていたときに
隣で教えてくれたのも彼女だった。
中間テストより成績が上ったのを見て、「良かったね。これ、頑張ったで賞」と言って
可愛らしいボールペンをくれた。
そんな彼女には、活動を一緒にする男性がいる。
同じ学校の一つ上の2年で生徒会長をしているイケメン、春日紅市先輩だ。
彼女は先輩に勉強を教えてもらったり、アクセサリーを一緒に買いに行ったりと
度々デートをしているみたいなんだ。
このブレザーの胸に指している貰ったボールペンも二人で選んで買ったのを知っている。
可愛い花の髪飾りと一緒に。
だから、二人はそういう関係なんだと思ってたんだけどさ・・・・
#2 北野楓
北野さんは、私立開講高等学校の2年で、ファッション雑誌にモデルとして掲載されるような
綺麗でスタイルの良い女性だ。
一寸冷たそうに見えるけど、とても優しくて頼れる先輩でもあった。
俺との接点は、幼稚園の時に一緒に遊んでいた安田俊夫が一度だけ雑誌の素人モデルとして載った事があった。
一緒に遊んでいたときに俊夫が捕まりそのまま撮影現場に行くと、そこに居たのが北野さんだった。
俊夫の載っている雑誌を買おうとコンビニに寄ったとき、雑誌が最後の一冊だったのと取り合ったのが
俊夫の友達で同級生だった飯島青汰だった。青汰は背は高いのだけど猫背で前髪で顔を隠している感じのやつ。
雑誌は青汰に譲ったんだけど「雑誌に俊夫載ってるよ」って教えたら「マジで?あいつもこっちの世界に来ればいいのに」
って言ってた。
よくよく聞いたら、青汰もモデルやっているらしく、雑誌を買う理由は、同じ事務所の尊敬する先輩が載っているからだった。
青汰が載ってる雑誌を教えて貰い見たら、顔を隠していない滅茶苦茶イケメンの青汰が載っていた。
其処から青汰とも仲良くなって、3人で遊ぶ機会も増えたんだ。
その時に、撮影場所迄付き合う事もあって北野さんと会う事もあった。
北野さんのこっち(青汰)を見る目は恋する乙女のような感じだったから
青汰にイロコイはどうなのか聞いたら、前から気になる女性は居るそう。
なーんだ、案外両片思いてオチかーって思ってたんだけどな・・・・
#3 東千沙
東さんは、西蘭女学院に通う1年生のお嬢様だ。
実家がお金持ちで正真正銘のお嬢様。
なんでも、世間との剥離を解消せんがために、立ち食い蕎麦屋に行く事になったそうで
俺の行きつけの個人経営の立ち食い蕎麦屋で呆然と佇む、イケメン-彼女の幼馴染の西玄三-がいた。
呆然と佇んでいるだけなのになぜか格好いいのはなんなんだろうか・・・。
とはいえ、邪魔ではあったので色々と聞いてみると
幼馴染をエスコートするために先んじて来たは良いが、まず現金がないとか、注文の仕組みが分からないとか
色々と困った状態だったので、一つ一つ教えた。
後日、玄三の家に招待されたのだが、玄三もお金持ちの坊ちゃんだったらしく、バカでかい家の前で呆然としてしまったよ。
まあでも、話を聞く限りはちゃんとエスコートできたそうで、良かった良かった。
ただまぁ、次回は、ハンバーガー屋、次々回は、ドーナッツ屋だそうで。
玄三に助けを求められたのでしょうがないなぁとか言いながら一緒に行った。
この時はまだ、俺は東さんとの面識はなかったけど、玄三から色々と教えられた。
玄三的には、単なる幼馴染で婚約者でも恋人でもないそうだけど、可愛い女性で家庭的なんだそうだ。
もし、嫁にするなら、ああいう女性がいい、なんて言ってたけど、すればいいじゃん!
ある時玄三から、一寸イベントがあるから見に来ないか?と誘われたので軽い気持ちで参加した。
東家と西家の間にある神社でやるそうで
玄三は神主のような恰好をしていてなんか詔を述べていた。
そして、お人形のような綺麗な巫女さんが神楽舞を舞っていた。
二人が織成す神聖な雰囲気に飲まれ、只々静かに見入っていたのを覚えている。
儀式が一通り終わると、こちらに玄三とお人形さんが来て、挨拶をしてくれた。
この小さなお人形さんが東さんだった。
ああ、玄三が守りたくなるのもわかる綺麗で可愛らしい女性で
お似合いの二人だった。
他にも挨拶してくると二人で並んで行ってしまった。
本当お似合いだなと・・・・・・思ってたんだけどなぁ・・・・・
#4 南雲明菜
南雲さんは、県立の中では最高峰とされる県立第一高校の1年生。
顕品学園に準じるがそれでもとても優秀な高校だ。
そんな高校で学年で1,2位を争う程の才女が彼女だった。
ほわほわとした雰囲気にたわわなスタイルの眼鏡っ子な彼女は
突き刺さる男子の視線に対して恥ずかしそうにしながら背を丸めて受け止めていた。
そんな彼女を庇うように守ろうとしているのが、俺のイケメンの悪友、立花康黄だった。
康黄は、バスケ部のエースで少しチャラいように見られるけど、実際は真っ直ぐな奴だ。
頭も悪くなく、第一高校にバスケ推薦でなく学力で入っている。
バスケの推薦でも行けただろうに、
なんで学力だったのか聞いたら
「おれ、飽きっぽいから、何時バスケ飽きるかわからねーし」
との事だった。
そんな関係で、康黄の背中越しに南雲さんとも遊ぶようになった訳だけど
俺は康黄ほど立派ではないので、どうしてもそのたわわなモノを凝視してしまう。
すると南雲さんは少し困った顔をする、
そして康黄が「見すぎだ」といって俺を殴る。
という一連のルーティンが出来上がった。
出来上がりすぎて、猫背気味だった南雲さんが最近だと胸を張るようになったそうだ。
康黄曰く、『お前に見られたせいで見られすぎたせいで耐性がついたそうだ』とのこと。
そんなに見てただろうか・・うう・・見てたのかな・・見てたんだろうな。
そして、南雲さんがバスケ部のマネージャーになった。
康黄がバスケに傾向し始めたのがきっかけみたい。
ちょくちょくうちの学校のバスケ部と合同練習しているのを見かける。
そこで仲良く青春している二人を見せつけられていたと思ってたんだけど・・・・
#5 中村曜子
中村さんは、私立開講高等学校の1年で陸上部に所属する400Mの選手だ。
学校からも地域からも期待されている選手で元気いっぱいの美少女。
本人は背の小ささを気にしているようだけど、可愛らしい容姿なので男女共々に人気がある。
学校の成績は其処まで良い訳でないそうで、
中学時代、安田俊夫と共に共通の友人である近衛白人に勉強を教えて貰っていたそうだ。
白人は顕品学園に入学できるくらいの秀才らしいのだけど
開講高校の方が行きたい進路には適していたらしく、3人同じ高校に行ったそうだ。
開講高校は医大への道が広いんだって。
我が県立第三高校は、何故か校庭が広い。
部活が活発なのも要因みたいだけど(強いとは言ってない)
そんなうちの高校に遠征と称して校庭を使いに他校から色々な運動部がやってくる。
時々文化部もやってくる。
そんな訳で多分に漏れず中村さんもうちの高校によく来ていた。
転んで怪我をした中村さんを保険委員だった俺が治療したのが最初の接点で
共通の友人である俊夫が居るお陰か、彼女の人柄かすぐに仲良くなれた。
送迎は文化部の遠征で来ていた白人がするとの事だったので
それまでの間、こっそりと持ち込んでいたお菓子を食いながらお喋りしていた記憶がある。
どっぷりと夜になった頃、白人が迎えに来てタクシーに乗って二人で帰っていった。
甘いカップル未満の会話を聞かされてるなぁと遠い目をしていたんだけどなぁ・・・・
#6 浦崎昌
浦崎さんは、名前さえ書ければ入れると噂される都立第二高等学校の1年。
第二高校はピンキリが激しく、真面目と駄目で二分化されている所で
何故か警察の学校に行く人が多い
因みに浦崎さんは真面目な方。
髪の毛を染め上げ、ギャルっぽくしてても真面目な方だ。
立花康黄と繁華街に遊びに行ったとき、
路地裏から言い合いしている声が聞こえた時があって
覗いてみたら、大学生4人から2人の女子を護るように浦崎さんが説教していた。
その浦崎さんと大学生の間にも1人、背が高く、一寸だけ悪そうな(喧嘩も強そうな)男子高生もいた。
中に入ろうとした瞬間、残念ながら、大学生側からの喧嘩がスタートしてしまい
嬉々として康黄も参戦しやがった。
浦崎さんも参戦しているぽく、ショウガナイので後ろで震えていた女子生徒2人をイソイソと逃がす役をやった。
路地裏から2人を逃がしたタイミングで大学生達が「ああ!」とか「てめえ!」とか喚き始め
こっちに来ようとしたけど、1人以外は康黄達に抑え込まれていた。
最後の一人を俺は背負い投げをしようとして、出来なくて、「はっ!だっせぇ」とか言われて
嘲笑われている間に、河津掛で脳天を壁にブツケテやった。
結局、最後に残った女子、浦崎さんを捕まえようとしてたけど男子生徒に阻止されて
「ちっ。気分が冷めちまった。」とか「あーあツマンネ」とか言い残して、逆方向に逃げて行った。
で、康黄がその男子生徒と仲良くなったぽく、俺も紹介してくれた。
彼は第二高校の1年で熊野銀司。
まあ、若干駄目側の生徒らしく、浦崎さんに付きまとわれてて辟易しているらしい。
とはいえ、浦崎さん含め3人の同校の女子が大学生に路地裏へ押し込まれていくのをみて割って入ってたそうだ。
浦崎さんは、他の2人と連絡がついて無事を確認出来たようで、ホッとしていた。
そんな縁で平日、康黄と銀司とつるんで昼下がりにファミレスで駄弁っていると
浦崎さんが銀司を探しに乱入してくる事が多くなった。
そして、デザートを食ってから学校に帰っていく・・・。銀司連れて
まあ、なんかかんだ言いつつ、仲の良い凸凹コンビだなぁって思ってたんだけどなぁ・・・・
§
各々に何故か告白され、お断りしたときに
「誰か好きな人いるの?」と聞かれた。
当然居ないし、お相手が居そうなのは
そっちじゃないの?と回答したら
辛そうな・不思議そうな顔した後、「確認することが出来た」と言い残して
6人とも帰っていった。
学校の近くの公園で、ドカッとベンチに座り
はぁ・・・・・と大きなため息をつく。
最近あの6人とは会わない。
断った手前、会うのも若干辛いけど・・。
もし、誰かと付き合う事になったとしても、相手が俺じゃ、納得しない奴も嫉妬する奴も多いだろう。
逆に、相手があいつ等であれば、きっとお似合いのカップルだと回りも納得してくれそうなんだよな。
さらに辛いのは、男女12名で集まって何かしているようだってことだ。
まあ、元よりあの中では異物というか不純物であった感じはしてたけど
こうやってハブされるのは精神的につらいなーと思ってしまう。
空を見上げながら、きっとあの告白も一種の遊びだったんだろうと結論付けた。
はぁ・・・・・と大きなため息が隣のベンチから聞こえた。
隣のベンチを見ると第三高校の制服を着たお下げの女子がまるまっていた。
視線をまた空に戻して、ぼーっとしていると、
また、はぁ・・・・・と大きなため息が
次は、俺と女子とで同時だったぽい。
女子の方を見ると、相手もこっちを見ていた。
少しバカバカしく、可笑しくなり、二人で笑った。
隣のベンチの女子を改めてみてみる。
同時に相手も俺を見ていた。
お下げの黒髪。平々凡々な顔立ち。
相手に悪いけど、俺と一緒のザ・モブって感じ。
多分同じ学校だから見たことあるんだけど、記憶に残ってないのかな・・・。
ん?あれ?
あの花の髪飾り見たことあるぞ。
彼女のコロンの香り、青汰が探してたやつな気がする。
バッグのお守り、玄三のとこのじゃなかったっけ?
白人が図書館で勉強を教えていた中にも居た気がする。
銀司が俺を良く見つける子ってこんな子だって言ってたなぁ。
あ、思い出した。
うちの学校のバスケ部のマネージャーの一人じゃん。
俺の中で違和感が強くなる。
何故この子は、これほどあいつ等と接点があるんだ?
何故この子は、俺と同じでため息ついているんだ?
何故あいつ等は、集まって行動してるんだ?
自分の状況と彼女の状況を重ねて想像する。
・・・少し苦い顔になってしまった。
彼女を見ると、同じく苦い顔をしている。
あー・・・
頭の中で『第二ラウンド』の鐘が元気よく鳴り響いた気がする。