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俺をいじめていた自称高スペックな女子さん、本物高スペックな銀髪天使転校生にわからされる。

作者: めんま09


さくっとお読みくださいませ。



「うわ~またあいつアニメ小説呼んでるよ。キモいんだけど」


 金髪で濃いメイクが特徴な渋谷花蓮しぶやかれんが俺を見下しながら言った。

 登校してラノベを読んでいるだけでこの言われようである。

 しかし、これは日常茶飯事。

 誰も指摘はしないし、俺も毅然と小説を読み続けるだけだ。


「全然効いてませんよって顔してるけど、絶対むかついてるやつじゃ~ん」


「それな~っ!」


「わかるわーっ」


 渋谷の仲間たちが賛同する。

 思うに、このコバンザメたちは己の立場を守るためにいつも賛同しているのだろう。

 涙ぐましい努力である。


 もっとも、俺には関係のない話だ。

 俺はカーストにも渋谷にも興味はないし、読書と勉強に勤しむだけ。

 だというのに、わざわざちょっかいかけてくるあたり、もう俺のこと好きなんじゃないのかと思うこともある。


 否、もう思わない。

 渋谷が俺を標的にするのは、テストの成績で俺に負けているからだと知っている。

 学年一位の俺に対して、渋谷は二位だ。

 どうやらその事実がむかつくらしく、ことあるごとにマウントを取ってきて鬱陶しい。


「少し成績がいいからってすました顔してるのうざくな~い?」


「わかる~! でも花蓮はコレと違ってインフルエンサーとして忙しいのに成績いいんだから不思議~」


「そう? インフルエンサーなんて片手間でやってるだけだよ?  ま、テレビ出たりすることもあるし、コレよりは忙しくて充実した日々を送ってるのは確かだけどぉ~」


 どうも、コレこと松戸歩まつどあゆむです。

 キャハハと下衆な笑い声が響くなか、先生が入室する。

 

「はい、ホームルーム始めるぞ~」


 さきの喧騒はどこへやら、渋谷たちは鳴りを潜める。

 俺は目が閉じるほど眠気が来ていたが、ある来訪者によって完全に覚めるのだった。


 その来訪者とは──


「今日は転校生を紹介する。一ノ瀬いちのせ、入ってきなさい」


「はいっ」


 銀に輝くロングヘアーをたなびかせ、彼女は現れた。

 天使のように可愛い顔を認識した瞬間、クラスが黄色い声で埋め尽くされる。


一ノ瀬いちのせちゃんだすげえええええええええええええええ」

「なんで一ノ瀬いちのせさんがこんなとこに!!!!!」

「やばすぎる!! この高校に進学してよかったあああ」


 泣き出す者まで現れる始末。

 確かに驚くほど可愛いが、なぜ皆は名前を知っているのだろうか。

 疑問に思った俺はスマホで一ノ瀬と検索してみることにした。


 「一」と文字を打っただけで、一ノ瀬華恋いちのせかれんという人物が予測変換のトップにあらわれる-。

 まさかなと思いつつも「一ノ瀬華恋」で検索してみると、驚くことに目の前にいる転校生の写真と経歴がズラリと表示されるのだった。


 国際映画祭で新人女優賞を受賞。世界で最も可愛い顔一位にランクイン。転校前の高校は日本一の偏差値を誇る女子校でしかも主席。

 って天使どころか化け物じみた経歴の持ち主だな。


 芸能など全く興味がないとはいえ、国宝級の人材を知らなかった俺は恥である。

 歓声、悲鳴、号泣がおさまったとこで、一ノ瀬は自己紹介を始めた。


「一ノ瀬華恋です。女優してたけど、少し休ませてもらって心機一転、地元のこの高校に転校しました! 普通の高校生活に慣れてないけど、よければ仲良くしてやってください!」


 一ノ瀬が喋るだけで教室が沸いた。

 仲良くしたくない者などいるのだろうか、という疑問はあったが、クラスで一人だけ暗い顔をしている生徒がいる。

 それは今日で二番目の「かれん」に成り下がった渋谷花蓮だ。

 いつもはクラスの女王をしていたが、知名度、容姿、頭脳が全て上回った一ノ瀬の台頭でそのプライドはへし折られたらしい。

 現に休み時間になって皆が一ノ瀬を取り囲むなか、渋谷は拗ねたように頬杖をついている。

 周りにいつものコバンザメはいない。


 俺は渋谷の執拗な嫌がらせで友達を失ってぼっちになった。

 珍しく渋谷が独りでいるのを見ていい気味である。

 逆に、一ノ瀬が転校してこようと、俺の日常に変化はない。

 いつものようにぼっちで過ごすだけ、と思っていたのだが──


「キミ、ちょっと来て!」


「え、俺?」


「そう、キミだよキミ!」


 なぜか一ノ瀬に指名されて腕を引っ張られる。


「何事!?」


 俺は一ノ瀬にものすごい勢いで手を引かれ、迫りくる追っ手を吹っ切り、気付けば体育館の用具室にいた。

 とても走った。超疲れた。

 というのに一ノ瀬は全く息を切らせていない。


「ここなら誰も来ないね!」


「多分。そもそも普通は鍵かかってるし」


「よかった。やっと落ち着ける~!」


 至近距離で見る一ノ瀬はびっくりするくらい可愛かった。

 毛穴やシミはないし、髪はキューティクルが凄くて輝いている。


「それで、いったいどうして俺が連れてこられたんだ?」


「多分キミ、わたしのこと知らなかったでしょ?」


 ギクッ。


「申し訳ない。芸能に疎くて知らなかった」


「それでいいよ。ちょっとむかつくけど、対等に接することができると思って連れてきたんだしさ。名前は?」


「松戸歩だ」


「歩くんに折り入って聞きたいことがあるんだよね」


「どうぞどうぞ」


「わたし、静かに学校生活を送るのが夢なの! でもあの騒ぎようを見て、やっぱわたしじゃ無理なのかなって。そこでね、クラスでもとびきり静かそうなキミを見つけたから、コツを教えてもらいたいってわけ!」


 遠回しにディスられていた。

 だけど、コツも何も、渋谷の逆鱗に触れたら勝手にこうなっていただけだ。

 一応、俺の過去を伝えておこう。



 俺が過去のあらましを伝え終わると、一ノ瀬はなぜか納得したようだった。


「なるほど。その渋谷って女子に成績が上だと伝える、嫌われる、慎ましやかな生活を送れるようになる、というわけだね!」


「まあそんなところだ」


 慎ましくという表現が最適かは怪しいが。


「わかった。キミが言うなら実践してみる。それじゃ嫌われてくるね!」


「おう、いってらっしゃい! って、今実践するって言ったか? お~い!」


 俺が全て言い終わる前に彼女は走っていった。


 一ノ瀬って頭いいんだよな?

 もしかしたら学業はよくても、どこかおかしいやつなのかもしれないな。


「まあでも気になるよなあ」


 事の行方が気になった俺は、教室に戻ることにした。


 




 俺がちょうど自分の席に着くタイミングで、一ノ瀬が渋谷に語りかける。


「えーと、あなたが渋谷花蓮さんだよね?」


「……え、うん、そう!  知っててくれてるの嬉しい。同じ芸能人同士仲良くしようね~!」


 渋谷は名前を知られていたからか、それともクラスで一番に話しかけられたからか、どこか嬉しそうだった。

 さきほどの暗い顔はどこへやら、ある種の優越感に浸っているらしい。


「渋谷さんって芸能人なんだ。知らなかった!」


「あ……知らなかったんだ。ユーチューブも十万人の登録者いるんだけどな~。テレビも二回出演したことあるし」


 渋谷は少しでも自分を凄く見せたいようで、うろたえながらも芸能人アピールを続ける。

 だが、一ノ瀬の感覚とはズレていたらしい。


「それ、芸能人って言えるの?」


 渋谷のアイデンティティが粉砕された音がした。

 化粧の濃い顔が面白いようにひきつる。


「……う、うん、言えると思う。もちろん華恋ちゃんほどじゃないけどさ…………」


 公開処刑とはこのこと。

 自らのアイデンティティだった芸能人ブランドはことごとく砕け散った。

 圧倒的上位互換の一ノ瀬に反論できるはずがない。


 軽いジャブを打ったところで、一ノ瀬が本題に入る。


「んーと、渋谷さんって成績いいって聞いたんだけど」


「え、そんなにあたしのこと知ってくれてるんだ。ちょっと嬉しいかも~」


「うん、歩くんにさっき聞いた。割と成績いいってね。確か歩くんの次に成績いいんだったよね?」


 俺の名前が出された瞬間、渋谷が苦虫を噛み潰したような顔をした。


「あーそりゃあ松戸はオタクだし、勉強しかすることないんだろうからね~。ほんとキモいよね。でも模試ではわりと僅差だったし」


 たしかに直近の全述模試は十点しか結果が変わらなかった。

 俺が600点中450点で渋谷が440点だったはずである。


「全述ならわたし560点だったけど、渋谷さん何点だったのかな?」


「え、440点だけど……」


「あ、なんかごめん」


 一ノ瀬は俺を見つけると、笑顔でサムズアップした。

 どうやら成績優位アピールができたので、夢の慎ましやかな生活が訪れると本気で思っているらしい。

 だが渋谷は俺の時のように言い返さない。

 否、言い返せるわけがない。

 渋谷はただ劣等感に苛まれているだけで、言い返す気力なく、恥ずかしそうに顔を背けていた。


「歩くん~」


 一ノ瀬が俺のもとへやってくる。

 

「全然強く言い返されなかった。話と違うよ~!」


「あのな、人には人の乳酸菌と言ってだな」


「なるほど、ヨーグルトを食べようってことだね」


「文字通り受け取るんじゃない。ケースバイケースってことだ」


「じゃ、今のは無意味だったってこと?」


「いや、静かに学校生活を送るという意味ではあながち間違いじゃない。今を見てみろ」


 クラスメイトは話しかけづらそうにこちらを見ている。

 

「静かで心地いい!!!」


 どこがだよ。

 しかし有名ということはどこでも話しかけられて落ち着かないわけである。

 これが一ノ瀬が望むものなら俺がとやかく言えることではない。


「どうしてみな話しかけてこないんだろ 」


「そりゃあ俺なんかと仲いい感じ出してたらそうなる」


 一ノ瀬の表情がぱぁっと明るくなった。

 

「なーんだ、最初から渋谷さんに回りくどいことせず、ただ歩くんと一緒にいるだけでよかったんだ!」


「俺は魔除けのお守りかよ」


「うん。わたしを守って!」


「守るも何も、俺は普通に過ごすだけなんだが」


「だったら、学校ではわたしの近くにいること。これはルールだからね!」


「ええ……」


「絶対だから!」


 かくして銀髪天使転校生とカースト底辺な俺がニコイチになったのだった。

 俺的には嫌味ったらしかった渋谷がクラスの二軍のように静かになって清々しかったが、一転、天然で高スペックな天使が隣に引っ付いてきて困っている。

 どうにかして引き取り手を探すのがこれからの目標になりそうだ、と思いながら小説を取り出すのだった。

 

 少しでもいいなと思っていただけたら、評価☆☆☆☆☆のほどよろしくお願いいたします~!




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