ある日の魔城
今日は週に一回の報告会。
魔城の全ての部署長がその週にあった事を報告書にまとめ、それを元に宰相が魔王に報告する日であった。
「宰相、私の眼は疲れているようだ。諜報部の報告書にスライムの文字がみえる。」
「魔王様、安心して下さい。ちゃんとスライムと書かれています。」
「優秀な諜報部から何故スライムという単語が出てくるのだ!!」
取り乱す魔王に宰相はヤレヤレとため息をつく。
実際、宰相の元にこの報告書がきた時に同じ反応をしたのだが、それを棚に上げ宰相は魔王の事を困った方だと呆れた様子でみていた。
「魔王様、私も部長を呼び出し確認し、更に諜報部にも足を運びましたが、事実です。」
「では、本当に、清掃員やペットではなく…スライムが諜報部で働いていると言うのか。」
「その通りです。」
魔王は報告書を机に乱雑に投げるとイスの背もたれに体重をかけ窓の外に広がる青空をみた。
未だかつて魔王の報告書にスライムなんて存在はしなかった。
報告書どころか魔王の視界に入ったことも無い、そんな存在がいきなり諜報部という魔王の近くに現れた。
しかも、きちんと働いているとかもう事件だ。
「宰相!諜報部に確認にいく!」
「お待ちください。魔王様が直接行かれては誰も仕事など出来ません。」
宰相の言葉に納得しながらもどうしても自身の目で確認したい魔王は透過の魔法で自身の姿を消した。
「魔王様?!」
宰相は目の前で消えた魔王に姿を現すよう必死に問いかけるが、そんな宰相を無視して魔王は諜報部に向かった。
諜報部に着くと窓口のサキュバスが口を開けて寝ていたのでクビにしようと心に決めて中に入った。
「まて~。」
「ポヨンポヨンきもちいい。」
魔王が最初に入った部屋は子供たちはスライムを追いかけたり、抱きしめたり楽しそうにしていた。
それを見た魔王は酷く納得した。
「なんだ…諜報部で働いているって子供達の面倒を見ているだけか。」
魔王はとても安堵した。
最弱のスライムが諜報活動なんてしていたら天地がひっくり返る程の大事だ。
魔物たちのプライドが傷つき大変な事になる。
杞憂に終わった事で気持ちが軽くなった魔王は諜報部を見て回る事にした。
次に開けた部屋は資料室のようだった。
たくさんの本が並んでいるがきちんと整頓されており魔王は関心した。
そこに何かを調べに来たのか一人な吸血鬼が部屋に入ってきた。
するとスライムが近寄った。
「なっ?!もしやココでもスライムが何かしていると言うのか?!」
スライムは吸血鬼と話をし本棚に身体を伸ばすと一冊の本を渡した。
「まさか司書でもしている…のか?
スライムにそんな知能が?」
魔王は軽いショックを受けた。
自分は魔王様なのに配下を正しく認識出来ていなかったのかと。
フラフラその場を出てまた別の部屋に入った。
すると今度は魔道具保管庫に来たようで棚にたくさんの魔道具が並んでいた。
そしてまたスライムの姿を確認した魔王は今度は何をしているのだとスライムを観察した。
スライムは魔道具を綺麗にすると魔力を流し動作確認を始めた。
「もしや…魔道具の管理…も…?」
魔王の頭の中にはポヨンポヨン跳ねるだけのスライムの姿があったがそれが崩れ去った。
魔王はその場を離れ先程まで宰相の報告を聞いていた執務室に戻ると椅子に座ってボーっとしていると、宰相が戻ってきた。
「魔王様!一体何処に行っていたのですか!!」
宰相は魔王に説教し始めたが魔王はそれを右から左へスルーしボーっとしていた。
「宰相…私たちも……スライムに仕事をさせようか……」
「え?」
その日、宰相にスライムについての調査という仕事が新たに増えた。