ノーマルスライムの場合
ノーマルスライムの族長、ノーマルは自身の集落への帰路にあった。
ファイヤースライムに言われた言葉が気になり注意力が散漫な状態だったノーマルは、意図せずに冒険者と遭遇してしまった。
「なんだスライムかよ…驚かせやがって。」
戦闘モードに入ったノーマルを前に冒険者は剣を鞘に戻して去って行った。
自分には殺す価値もないのかとショックを受けたノーマルは落ち込みながらもトボトボと歩き始めた。
ノーマルは暫く森を歩き続け集落のある大きな木にたどり着くと、その根元の小さな穴の中へ入って行く。
行き止まりにはノーマルスライムが一匹、槍を持って立っていた。
「長、お帰りなさいませ。」
「門番ご苦労。変わりは無いか?」
ノーマルは門番から異常が無いことを確認すると一見何の変哲も無い最奥の壁の四隅を押した。
すると壁が右へ動き中には大量のノーマルスライムが綺麗に整列してノーマルを出迎えた。
「ただいま戻った。まず、皆に報告がある。」
ノーマルが会議での事をスマートに話し共有すると、各所でファイヤースライムに対しての抗議の言葉が出たがノーマルはそれを黙らせると良い案がある者は自身の家へ来るよう伝え解散した。
「長、お疲れ様でした。」
ノーマルの側近の一人、ルルが自室に戻ってきたノーマルにお茶を出すと、ノーマルは悩んだ様子でルルに問いかけた。
「お前はどう思った?」
「私はまず魔物の中での地位を上げるべきかと思っています。」
「それは策がある事か?」
「最近、魔城の隠密部隊で雑用係を募集しているようです。好感度をあげつつ有益な情報が集まるのではないかと。」
ノーマルはルルに更に詳しく調べさせ、試す価値があると判断し募集をしている魔城の人事へ話をしに行くことにした。
「は?貴方達が雑用係に?冗談でしょう。」
諜報部窓口のサキュバスがノーマルを馬鹿にしながらでで追い払う仕草をした。
その様子に同行したルルが飛びかからんとするのをノーマルは制し食い下がる。
「きっと役に立てることがあります。どうか私たちにやらせて下さい。」
「執拗いわね~。諜報部はエリートばかりなの!雑用とはいえスライムなんかには無理よ!!」
「お試し下さってから判断して下さい。」
「これ以上ここにいると踏み潰すわよ…」
ノーマルはサキュバスの脅しには屈さずガンとしてその場を動かず、その様子にサキュバスは苛立ったが「勝手にすれば…」と書類だけ渡しノーマルを追い払った。
ノーマルとルルは書類を受け取ると内容をチェックし、募集している本人に一人一人会いに行き「雑用係をやらせて下さい。」と頭を下げてまわる。
当然どこでもスライムはお呼びじゃないと追い返されるが、それでも数カ所で受け入れてくれる場所が見つかり次の日から総勢30匹、各5匹のチームをつくり働き始めた。
「ルル、現状はどうだ。」
「はい、
本棚整理班は本棚の分類を全て記憶し問われれば直ぐに用意すると評判です。
魔道具管理班は魔道具に整備必要か否か判断可能になり使いたい時にきちんと使えるようになったと好評です。
子守り班は見た目が可愛いと子供たちに概ね人気です。しかし、強い種族の子ばかりで一日に二匹は負傷者がでるとの事。
潜入サポート班は擬態技術の高さから本職にスカウトを受けています。
データベース管理事務班は隠密部隊の隊員について知りすぎた為に南京をされております。
以上。」
途中までルルの報告上機嫌で聞いていたノーマルは最後の報告に青ざめながら最初に窓口で貰った書類に目を通し
募集されていた内容を確認したがどれも簡単な作業で機密など全く関係しないものばかりだった。
「潜入サポートやデータベース管理事務など募集されていないぞ?!どういう事だ!!」
「実は…サキュバスの嫌がらせを受けたようで二チームが予定していない場所に向かわされました。
サキュバスはすぐに追い出される姿を笑いものにしようとしたようですが…」
「なるほど……」
ノーマルとルルの間に沈黙が流れた。
次の日、諜報部で働いているノーマルスライム達に封筒が届けられた。
中には家族からの手紙とノーマルからの手紙が入っており、嬉しそうにそれを読む者の中に一部暗い表情の者がいた。
暗い表情をした数匹に届けられた内容は「君たちの事は誇りに思います。いつか集落に戻ってきてね。」
数匹は泣き叫びながら自分の部署へ戻っていきました。