『坂の上の十字路をぬけて』
「このまえ職場の人にな、関西の方じゃないですよねって言われてん」
「は? お前たしか生まれも育ちも関西やろ」
「そうや。でも、その人が言うには、俺のつこてる関西弁がおかしいらしいんや」
「あー、それでか。たしかにお前の関西弁て、なんか変なとこあるからな」
「そない言われても俺にはなんのことやらサッパリや。まあ、もとから人と話するんは苦手やったし、言葉遣いがおかしい言われても納得できるっちゃできるけどな」
「せやけど関西圏から除外されるレベルか。お前、ほんまに関西人なんやな?」
「当たり前や。お前さっき言うとったやんけ」
「いやでもよくよく考えてみたら、お前の言葉だけで確たる証拠はないからなあ」
「俺が関西人やなかったら、俺は何人になんねん」
「奇人、変人、人でなし、ろくでなし、童貞」
「しばくぞ」
「それや。そのノリができるんやったら、お前は関西人や」
「どっちか言うたら大阪人やろ、それ。まあええけどな。話戻るけど、その時にふと思い出してん。そういえばずっと前に、親にも同じこと言われたなぁって」
「お前、親にも言われたんか。奇人、変人、人でなし……」
「そっちやない。関西弁がおかしいってことをや」
「まあ、べつにええやんけ。最低限のコミュニケーションがとれるんやったら。それにおかしいんは、関西弁だけやないしな」
「……おい、まてや。他におかしいとこあんのか?」
「前から言おうおもとったけどな、お前、歩き方おかしいねん」
「それ、何年か前にも職場で言われたわ。愉快なアヒルみたいって、笑顔でな」
「世界的に有名なあのアヒルをリスペクトしとるんですよって言うたらよかったのにな」
「さすがにそこまで頭が回らんかったわ。まさか、歩き方がおかしいとまで言われるとは思わんかったからな。完全に不意打ち食らって、思考が止まってもうたわ」
「いうたら悪いけど、なんかお前ずれとんねん。一人だけ作画がちがうアニメキャラみたいに、妙な違和感があんねんな」
「ちょ、言わせてくれや。俺はな、べつに意識しておかしな関西弁つことるわけでもないし、愉快なアヒルみたいな歩き方しとるわけやないんや。ただ、自然に、ありのままに生きとるだけやねん。せやのになんで、おかしいおかしい言われなあかんのや。そんなんおかしいやんけ」
「まあ、言葉にしろ歩き方にしろ、生まれ持ったもんやろうからな」
「普通に生きとるだけで、自分を否定されるっちゅうんは、なかなか辛いことやで」
「お前は昔っから、人と少し変わったところがあったからなぁ。そのせいでだいぶ嫌な目にもおうとったけど」
「人とちがうってことは、それが個性ってことで、大事にせなあかんことやと、学校の先生はよう言ってはったわ。せやから俺は、まわりになに言われても、なにをされても、自分のスタイルは変えへんかった」
「そういうとこ、ほんまに今も昔も変わらんからな」
「俺は俺のやり方で生きていく。俺のやり方で生きていけるようになる。それが目標やった。小説家目指したんも、そういう動機があったからなんやろな。名実ともに一流になったら、おかしい関西弁も、おかしい歩き方も、俺ならではの個性ってことでプラスになるやろ」
「一芸に秀でたやつは、そういうおかしなところがあって当たり前みたいな風潮があるからな」
「まあ、結局はすべて過ぎ去ったことなんやけど」
「まわりに何か言われたから、ってわけでもないやろ」
「結局のところ、自分を変えられるんは、自分だけっちゅうことやな」
「……望むなら、いくらでも、何度でも、自分は変えられるやろ。お前、いつかいうとったやんけ。死なへんかぎり負けやない。生きていればいくらでも勝機はあるて」
「自分から捨てん限りはな」
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