『駅前ロータリーの木漏れ日の下』
「このまえ例の魔法少女アニメ見たんやけどな、なんかもう、いろいろやばかったわ」
「ほう。お前にしては珍しいな。何年か前に俺が見てみい言うた時はえらい拒否反応示しとったのにな」
「まあな。せやけど今作は俺の好きな声優さんが出演しとるから、ちょっと気になって見てみたんや。いや、見てしもたんや」
「で、どうやった?」
「いやもう、見る前からやばかったで。レコーダーの番組表にその週のサブタイトルがのっとったんやけど、それ見た瞬間に腹に一発ぶち込まれたみたいなダメージ受けたわ」
「そら女児向けアニメやからな。アラサーのおっさんが『わあ! とっても楽しみワックワク!』みたいになるほうが怖いで」
「それでも俺は視聴を決めた。なんだかんだで十年近くその声優さんの声に癒されとったからな、それを励みに女児向け魔法少女アニメという異空間にも耐えられる思て、挑んでみたんや」
「で?」
「俺の声優さんへの愛は、十年保ち続けてきた愛は、完全に打ち砕かれた」
「たった三十分のアニメでか。儚い十年やったな」
「誤解してほしないんやけど、俺はべつにあのアニメがつまらんとか言うつもりはないんや。ただ、根本的に合わんねん。あのアニメも十何年とシリーズが続いとるわけやから、そら面白いし魅力もあるやろ。せやけど、お前も言っとったように、女児向けや。アラサーのおっさんは対象外や。ほんで俺は、まあ平凡なアラサーのおっさんや。その感性とあのアニメの魅力が合わんかったっちゅう、ただそれだけのことや」
「お前みたいな変態の人格異常者が、平凡?」
「ええねん、そこは」
「いうたら、カテエラが起こったみたいなもんか」
「そういうこっちゃ。例えるなら、ええ年したオッサンに女児用のひらひらした可愛らしい下着を身に着けさせたみたいなことが起こってしもたんやな」
「地獄絵図やな。真顔のおっさんが女児用下着着て突っ立っとるとか、表出たら警察案件やで」
「オッサンは悪くない。女児用下着も悪くない。ほんまの悲劇っちゅうんは、悪もんが一人もおらんところで起こるんやなて思たわ」
「異質なもの同士が組み合わさることでパワーが生まれる。それがええもんか悪いもんかはわからんけどな」
「まあ、アイディアづくりの基本やな。で、アニメを見終わったあとに思てん。これはいけるんちゃうかって」
「なにがや?」
「ほれ、都市伝説であるやろ。童貞は三十歳になったら魔法使いになれるてやつが。その魔法使いを魔法少女に変えたらどうやろなってな」
「おっさんが魔法少女になるんか」
「タイトルは『童貞のまま三十歳になった俺は魔法使いではなく魔法少女になってしまった』ってなもんにして、なんのとりえもない非リア充の三十歳童貞が魔法少女になって様々なバトルやらドラマやらを繰り広げながら失った夢や希望を取り戻すっていう、そういう話とかおもろいんとちゃうかって思ったんや」
「ほう。ええやん。それで一本書いてみたら」
「でもあかん。あかんかった。ネットで調べたら、もうとっくにいろんな人らが書いとった。このくらいのことなら、誰でも思いつくってことなんやろな」
「べつにええやろ。それで金とろかいうわけやないし」
「せやけど、この話はあの作品のパクリやろって言われるんは嫌やねん」
「言うてくる人、おるんか?」
「おらんな。そもそも俺の作品を読む人なんかおらんっちゅうに」
「ほな気にせんと書いたらええやないか」
「俺が気にするんや」
「難儀やな」
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