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黒道に白道混じらば

「んあ……。」


 レオは見慣れた天井……、顔も良く覚えていない父が道場長だったという、拳闘道場の跡地で目を醒ます。


 自分ひとりの時は同じ場所にいると警邏けいら隊にマークされてしまうので、貧民街スラムのどこかで寝泊まりするのだが、昨日は客人がいた。


 レニ=ハウスホーファーという少女……と最初名乗っていたのだが、夜に現れた【吸血鬼ヴァンパイア】を名乗るぬいぐるみが思いっきり〝リリア〟と言っていたので、おそらくこっちが本当の名前なのだろう。レオは確認のため、少女を〝リリア〟と呼んでみたが訂正してこなかった。


 ……嘘を付き慣れていない、恐ろしく強い、怪しい少女。


 何故偽りの名前を使ったのかは解らない。ただ解ることはこれだけ怪しい少女でありながら、レオを信頼しているのか、朝にも関わらず同じ屋根の下で布団にくるまり爆睡していることだけだ。


「おと…さま、ししょうさま……わたしを……」


 レニ……いや、リリアが眠りながら天井に手をかざし、苦悶の表情を浮かべだした。


「ちょっと、姉ちゃん。大丈夫?」


 レオはそのまま少女の手を取る。酷い悪夢にうなされているようだ、少女の手は年上だけに自分と同じくらいの大きさ、しかし指は細くて白く、そして美しい。少年が握った手を少しだけ見惚れていると……。


「おわっぷ!」


 そのまま毛布の中に引き寄せられ、あざが残るのではないかというくらいに強く抱きしめられた。悪戯かとも思ったが、リリアは目から涙を流しながらも、ほんのりと笑顔を浮かべた。レオはリリアから漂う女性特有の香りに陶酔しかけ、気恥ずかしさから抜け出そうとするが……


 リリアは先程の様子が嘘のように安寧の表情を浮かべており、どうやら自分を抱きしめることで悪夢から解放されたらしい。レオも誰かから受ける抱擁ほうようなど、初の経験だ。そして存外悪い気はしない。レオもそのまま、抜け出すことをあきらめ、眠りについた。


 ◇  ◇  ◇


「だーかーらー!俺は起こそうとしたのにリリアが引っ張って抱きついてきたんじゃん!」


 右頬に紅葉柄の真っ赤な手形痕をつけたレオが抗議する。幸せな夢は、ビンタの一発で現実に戻された。挙げ句〝そんな子だと思わなかった〟だの〝変態〟だの〝ロリコンめ〟だの言われれば、反論する権利だって生まれるだろう。


「それは……謝るわよ。ちょっと日が昇るまで起きてたから、多分入れ違いで寝て……。」


「え!?リリアそんなに夜更かしして何してたの!?」


「秘密。警邏隊に連れて行かれたくなければ、それ以上詮索しないことね。」


「あっそ、そうだ〝レニ〟、朝食喰うか?」


 リリアは他に誰かいるのかとキョロキョロ周りを見渡し……自分のことだと気がついて、おっかなビックリうなずいた。


「……これだけ怪しい人間に詮索するなって言われてもなぁ。」


「女の子には色々秘密があるのよ!」


「あっそ……。まぁノボラの街を案内するついでに、旨い飯屋を紹介するよ。」


 リリアは昨日の朝から何も口にしていないことを思い出し、お腹がクゥと鳴った。昨日の宿屋で提供された麦と肉の暴力的な料理が胃から消えて久しい。


「ははは、んじゃ決まりだな。」


 レオはそう言ってリリアの手を引き、繁華街へ走り出した。行きつけの安くて大盛りでおいしい料理屋を案内し、ノボラの歴史的建造物や拳闘博物館を共に巡り、夕食を食べ終え……。


 レオからすればほぼ初めてとも言える〝誰かと一緒の一日〟を満喫し、人生で指折りの充実した一日をおくり、日が暮れた頃、道場へと戻ってきた。


「あ~!疲れた~!」


 レオは心地よい疲労感とそれ以上の充実感を覚えながらも、疲れからくる眠気でうとうととしている。リリアが夜中に何をやらかしているのかも気になったが、10代前半のレオは3大欲求に勝てるほど意思が強くない。そのまま毛布も掛けず床に横となり、リリアが上から毛布を掛けた。


「さて、ヴラド。仕事の時間よ。」


『解っているさ。昨晩仕掛けた術式だが、解呪された気配はないな。』


 ヴラドはそう言って、拳大ほどしかない体から無数の蝙蝠を召喚し飛び立たせた。


「そうね……。烙印スティグマ。」


 床に赤い紋章がいくつも映し出され、そこには活動する夜盗たちの様子やマフィアの本拠地まであらゆるノボラの〝暗部〟を映し出した。


 特定の人物に刻印を付けることで、その行動を監視できる黒魔術……昨晩徹夜で蝙蝠を飛ばし、遠隔術式で各地に行った魔導だ。


『夜盗側に動きがあるな、やけに大きな麻袋……〝哀れな犠牲者〟で間違いないだろう。』


「マフィアの方に動きはないわね、奴隷商館が別にあったのかしら?ん……。」


『黒魔導師の正装だな、仲介役を行っている訳か。』


「いや、これは……」


『わたしとて阿呆ではない、何処に〝夜盗と取引〟するとき正装で臨むバカがいる。つまりは……。』


「白の教会……。」


 


 


 

師匠 「リリア、あなたは可愛いから怪しい男には気をつけなさい。」


リリア「わかりましたししょう!でも襲われたらリリアは対抗できないかもです……。」


師匠 「そうね、そういうときは……〝このロリコン!〟と叫んで大通りへ出なさい。」


リリア「ろりこん?」


師匠 「あなたは知らなくて良い単語よ。」

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