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不穏の火種

「どんだ?」


「これは確かに……。まるで景色が違うわね。」


 片眼鏡モノクルを右目に装着したわたしは交互にまばたきし、テコナの森を交互に見やる。片眼鏡モノクルにはルファーさんによってエルフの秘術【水の義眼】が強く宿されている。フレームは黄玉色の樹蜜で出来ており、草で編んだ細い若草色の紐が付いた逸品だ。


 これによってわたしは〝聖気〟と呼ばれる本来生粋のエルフかルファーさん程腕のあるハーフエルフ、若しくは白の神殿大神官クラスでなければ見ることすら出来ない気配を読み解ける。日が昇り眠りに付いたヴラド曰く、白の教徒や神官の力を見抜くことも出来るという。


 

「ふむ、成金貴族の令嬢にも見えるな。伯爵を使役する執行家司しぎょうけいしとしても格好がつく。中々似合っておるぞ。」


「ヴラドとテグレクトさんは、一々余計な事言わないと死ぬんですか?」


「あんなマスコットと一緒にするでない。フレームを純銀に変えてやろうか……。お、来たか。」


 テコナの森上空をカラスが横切り、テグレクトさんに丸めて縛った幾つもの紙束を落としていく。彼女はそのまま紐を解き切り株にちょこんと座って目を通し始めた。


「あの……それは?」


「見ての通り新聞じゃ、黒魔導師なのだから文字くらい読めるだろう?」


「いえ……え?新聞って、個人で購読出来るんですか?」


「は?」


「いえ、リーフ村に居たときは、黒の教会機関紙をわたくしの管轄で教会に張り出しておりましたし、ニュース紙は村長の家に届いておりましたので、そういうものだとばかり。」


「はぁ……。」


 わたしとテグレクトさんの間に生まれた齟齬そごへ、ここぞとばかりにしゃしゃり出て来たのは死神行商人ルボミーだ。


「王都やカリフは識字率が高く、新聞を個人で購読することは珍しくありませんが、辺境の村や開拓村ではそもそも文字を読める者が少ないのです。それに週刊で購読するには相応の収入が必要、食うや食わずの生活をしている戦後の民には遠い品でしょう。実際白の教会機関紙、黒の教会機関紙、東西統一王国お膝元の半官僚の新聞、民間運営の王国報道通信、この4つがメジャーな情報媒体は週刊購読と村に配布する月刊購読で値段と情報の量が変わっているんです。」


「田舎娘にご高説ありがとう。」


「いえいえ、とんでもございません。」


 皮肉を言ってもこの笑顔だ、本当に腹が立つ。……情報は力だ。そんなことは解りきっていたし、ヴラドからも再三再四に渡って言われていた。無知とは罪であると実感する。


「ふむ、どれも一面は変わらんな。大幅な法改正……カジノの撤廃、酒の販売禁止、麻薬取り締まりの強化じゃ。白の教会の圧力だろうな。」


「ほう、良いこどもすんでねぇが。」


「そうでもないぞ?麻薬は別として、需要あるモノを急激に取り締まれば、裏組織の暗躍を許す。法は【設備】を禁止することは出来ても、人間の【欲】まで取り締まることはできん。」


「素晴らしいですね。麻薬は兎も角として、お酒の製造など個人で容易に行えます。値段は一気に高騰し安酒に破格の高値が付くでしょう。また、カジノなんてサイコロひとつ、コイン1枚あれば可能なのですから、場を提供するだけで、どれほどピンハネ出来るか。」


「あなたが目を輝かせているということは、碌でもない事ってのは理解したわ。」


(現在の聖王猊下は禁欲派閥……。しかし200万を超える信徒を誇る白の教会でも、内部は一枚岩ではない。そんな組織が今後国を操っていく……。この王国はどうなっていくの?)


「まぁ宗教屋が為政者となった国が長く続いた歴史は……実はそんなにない。しばらくはこの国も荒れそうじゃな。」


 切り株に座り足をぶらぶらさせながら新聞を読むテグレクトさんは、何処か達観した様子で鼻を鳴らした。

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