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ヴラド=ドラキュリア

「して……〝白金の徽章〟まで持ち出して一体何を望む、生きながらに悪魔と化し、死後地獄からも拒絶された稀代の大罪人にして大虐殺者……ヴラド=ドラキュリア伯爵。」


 目の前の少女……燃えるような赤い髪のショートカット、黒いローブ姿に似合わぬ貫禄は、虹色に気配オーラを揺らめかせ、並々ならぬ迫力を突風の如く吹き付けた。魔力が膨大すぎて聖も邪も読みとることが叶わない。それこそよろずの式を持ち合わせ、目の前の少女が伝説を継ぐに相応しい召喚術師であることを証明させる。


『ふん、白々しい。伯爵位などとっくの昔に捨て去っている。ここに居るのはヴラドというリリアの式だ。』


「ならば何と呼ぼうか?貴様の行った悪行は今も語り草じゃ、戦乱期において弱小国ブラム公国を30年にわたり護り通した〝奇跡の護国卿〟……。同時に、敵兵・捕虜を鉄串にて生きたまま臀部から口まで貫き、幾多の屍体と鉄串の森を築き上げた〝串刺し公〟〝人食い伯爵〟。」


『公王陛下も暗殺され、公爵・侯爵位の人間はブラム公国を裏切り敵国へ寝返ったものでな。我が輩以外に、兵を操る者が居なかっただけのこと。』


 ヴラド・ドラキュリア……。ヴラドの生前の姿であり、まだ人間であった頃の名前。当然今のような八重歯がチャームポイントの綿玉のぬいぐるみ姿ではなく、絵画に描かれるのは青白い細面、蓬髪ほうはつに髭をたくわえ、えりを頭まで伸ばした赤い裏地に黒い外套をなびかせた壮年の人物。文献で生前のヴラドを調べた時は唖然としたものだ。


『貴様に協力してもらいたい。愚かな革命家どもが、魔石を用い大悪魔を召喚させた。氷の悪魔サウロン。最早理性は残っておらず、ただ破壊のみを行う修羅だ。』


「なるほど、サウロンと言えば、元を辿たどると聖なる正統派の英雄、使う能力は銀に近しい高純度の氷、そそぐ風……。弱点もそうであるが、奇襲・夜襲を本分とする貴様にとっては天敵に等しい存在であるな。場所は?」


『テコナの森……神獣の聖地だ。』


「随分と面白いカードばかり切るではないか、興味深い。しかし疑問が残るぞ、ヴラド……。」


 ウィリアムを名乗る幼い少女は、年齢不相応の鋭い刃に近しい眼光をわたしたちへと向ける。


「わたしは大悪魔を調伏出来る上、その気になれば神獣を式とする契約を森の守護者と結ぶ交渉が出来る。大いに興味をそそられる話しだ。だが、お主に何のメリットがある?今更だが、人助けや正義感で動く存在でもあるまい。」


 ……確かに最もな指摘だ、この問題のキーパーソンは森の守護者たるルファーさんであり、わたしたちは言ってしまえば〝他人事〟。わたしにとってルファーさんは命の恩人なので、助けたい気持ちは強いが、ヴラドが命を張る理由にはならない。


『そんな事簡単ではないか。……我が輩は力及ばず契約者に敗走させた。〝宵闇の皇帝〟が宵闇の中、動きを封じるのが精一杯だったのだ。それが悔しくてならん、このまま敗走を続けてサウロンの思うがままに事態が動くとなれば、我が輩は嫉妬に狂い憤死してしまう。そこで矮小わいしょうな我が輩は数少ない友軍を用いてリベンジを果たそうという訳だ。実に取るに足らぬ悪魔らしく馬鹿馬鹿しい理由だろう?』


 一拍置いて、少女の口角がぴくぴくと震えた。


「あははははは!なるほど、なるほど。実に高尚極まる理由で安堵した。よもや始祖様さえ調伏叶わなかった伝説の悪魔が、冒険活劇の主人公へ鞍替えしたのかと不安になったわ。良かろう、貴様の〝友軍〟になってやる。魔石へ再封印なんぞ阿呆な真似はせん、灰も遺さぬ殲滅じゃ。貴様にも復讐の好機くらいはくれてやる。精々わたしの活躍に嫉妬して、狂死しないよう振る舞うことじゃな。」


『礼を言う……。』


「では、テコナの森へ行くか。守護者は何処におる?」


「わたくしが取った宿で、死んだように眠っております。どうやら乗り物酔いしやすい方みたいで。」


「急ぐか?」


『我が輩が動きを止めた、あと四日は持つだろう。だが急ぐに超したことはない。』


「ではもう出発で良いな。さっさと森の守護者を連れてこい。話しもしたいのでな。」


『死神、叩き起こして連れてこい。』


「はい、喜んで。」


 ルボミーはそのまま応接室を出て、ルファーさんを迎えに行った。


「……しかし、始祖様と貴様の殺し合いは知っているが、友情の杯を交わした仲であるとは意外じゃ。」


『もうそんなに時が経つか。時間とは様々な事象を忘却させるものだな。ヤツも顔に皺を刻んだ老体となって、17度目の殺し合いをした後に、この白金の徽章を渡された。結局ヤツは我が輩を討伐出来なかった、我が輩もヤツの血を吸えなかった。』


「…………。」


『何か言いたげな顔をしているな。』


「このローブ……。テグレクト=ウィリアム継承者にのみ着用を許される一級品の魔道具だが、こんな記述がある。【種族の壁を越えた友人・好敵手より、おくり物をたり】と。 剣の前では鋼鉄以上に硬くなり、魔導の前では自身の魔力を増大させ弾き返し、炎や雷でも焼けず、猛毒を吸収し、状態異常への耐性が全てそろっており、流血すれば回復を促す。……吸血鬼の外套と余りに能力が似ていてな。」


『ああ、我が輩が贈った物だ。不満ならば今回収してもいいが?』


「個人的には叩き返したいが、ご先祖と貴様の友情に難癖付けるなど、バチが当たる。」


 ……この系譜とヴラドの間に流れる感情というのは余りに複雑で、若いわたしには想像も察することも叶いそうにない。これほど強い敵愾心と尊敬心の混合とは初めての経験だ。しばし気まずい沈黙が流れていると、コンコン とノックの音がした。そこにはルボミーに連れられた、白髪に精悍で中性的な顔立ちの人物、、、騒動のキーパーソンルファーさんが立っていた。酔いもスッカリ醒めたようで、その足取りに不安は無い。


「くん度はわぁの森さ、かまさってくいで、おおなんぎだんし。なぁが森のまに悪めにけぇこったがおもへごとねぇ。ヴラドのはしだばそぉん死神がらじゃがくぅにか聞ぅらで、わぁもリリアもはっちけてくいんだし、はねっこさが!」


「……うむ、すまんがエルフ語は疎くてな。王国語で話してくれ。」


 その瞬間わたしは初めてウィリアムという少女の困惑した苦笑いを見た。

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