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召喚術師の館 

 月が煌々と照らす夜。ルボミーの運転でカリフを抜け、小高い山を登った先にあったのは古びているが、王宮にも引けを取らないのではないかと錯覚する巨大な洋館だ。


「ここが〝テグレクト邸〟?……召喚術師ってことは黒魔導に関連があるの?」


 召喚術とはそもそも黒魔導における奥義の一つだ。魔なる者を自らの式として契約を結び、人ならざる力を手にする高等技術。


「いいえ、テグレクト一族は代々〝召喚術〟に特化した一族です。カリフの街も影響を受けておりまして、黒魔導とは別枠に、黒の教会に属さない〝召喚術師〟という専門職が少なからずおります。……もっとも式にするのは微弱な精霊や低級魔物の類ですが。」


「白の教会が憤死しそうな話しね。迫害はないのかしら。」


 魔なる者を式にするなど、白の教会が坐視するとは思えない。少なくとも王都やわたしの故郷であれば首をねられる。


「それ程テグレクト一族は影響力が大きいのです。国は貴族階級を、白の教会は聖人などの地位をちらつかせて協定を結ぼうとしていますが、それすら断る変わり者の一族。もっとも断るに見合うだけの財力と実力を持ち合わせ、手足も出せませんが。」


『我が輩も近況は全く知らん。戦争では英雄を気取っていなかったのか?』


「積極的に戦争参加はしておりませんが、カリフの街に降りかかる厄災を一網打尽にしていますね。東王国の軍勢を先代の第38代テグレクト=ウィリアムが1人で討ち滅ぼしたのは有名です。カリフの街があれだけ栄え平和なのも、白の教会の影響力が少ないのもこの館有ってのことです。なので白の教会からすれば目の上のたんこぶ……いえ、そびえ立つ壁とも言うべき存在です。」


「それは痛快な話しね。ただ、わたしたちを歓迎してくれるとは思えないけれど……。」


 わたしはテグレクト邸正門に配備されている8つの大きな石像を見やる。座り込んだ竜の石像にも見えるが、内包する魔力は龍族の最高峰、金色竜王にも等しいそれだ。


『ガーゴイルか。いい、相手をしてやれリリア。』


「ただのお客さんとして入る方法は無いってことね。わかったわ。」


 ガーゴイル……ドラゴンかたどった石像として作製される悪魔の眷属けんぞくとして名高い魔物。門や宝の番竜として配置されていることが多く、侵入者を察知すれば、生身となり鋭い牙と爪・ブレスで攻撃してくる高位の魔物だ。しかしここまで強大な力を感じるガーゴイルは初めて見る。これが人工だとすれば、なるほど普段のわたしなら逆立ちしても敵わない高位の術師だ。


 しかし今は月が高く上がる夜、ヴラドが最も力を発揮する時間。一つでも吉の目があるならば、乾坤一擲には絶好の機会だ。わたしは魔力を込めて8体のガーゴイルを見やる。


刺突ピアシング!」


 地面より無数の無骨で巨大な鉄串が超高速で隆起し、ガーゴイルを捉える。2体は石像のまま砕かれるが、残りの6体は魔物として具現化し、わたしたちへ襲いかかって来た。


投擲刺突ヴェアフピア!」


 細い鉄串を宙に広げ、喉笛に向け射出する。射出された鉄の串は5体のガーゴイルの龍球を砕き、一体の目を潰す。そのままたたみ込むように串刺しにすれば……


「おお!お見事お見事!」


 ルボミーは微笑みを浮かべパチパチと拍手をしている。一瞬安堵で脱力するが、一拍置いて、わたしは気を引き締め直す。それこそドアをノックしただけに過ぎない。これから相手にするのは、街一つを1人で護りきった英雄であり、わたし達は館へ不穏な侵入をしているのだ。命を取られても文句は言えない。


 正門がバンと盛大な音を立てて開き……、その姿に目を丸くする。


「なんじゃやかましい!わたしのガーゴイルに何をしてくれておる!」


 そこに居たのは赤い髪のショートカット、黒いローブを羽織った、可愛らしい童女だった。


『貴様が今代テグレクトの末裔か。なるほど、やつに顔が似ている。』


「貴様ら何者じゃ?ここが何処かも解らん盗賊ではあるまい、自殺志願者ならば毒薬をくれてやるのでとっとといね!」


『何者とは大層な言い草だな、名札は持ち合わせていないが、これならば十分か?』


 ヴラドは綿玉のような手を蝙蝠に変化させ、一つの徽章を取り出し、少女へ投げつけた。徽章を受け取り眺めた少女は血相を変え、わたしたち3人を改めて見直す。


「……始祖様の刻印。何故貴様がもっておる!?」


『長い話しになる。客間で茶でも出してくれれば話してやろう。血ならばもっと歓迎する。』


「黒魔導師、宝の死神、そして……。いや、わかった。案内しよう、血は出せんが茶と茶菓子くらいならば出してやる。」


 そうしてわたしたちは〝テグレクト邸〟内部へ案内された。


 ◇  ◇  ◇


 絢爛豪華な調度品が並ぶ応接室。香り高い茶と、お茶菓子をもってきた少女は倚子に深々と腰を掛けて鋭い目付きでわたし達を睨む。ルボミーは相変わらず仮面じみた微笑だ。


「随分と変わった組み合わせじゃな。貴様らは何故こやつに導かれた?」


「ヴラドはわたしの式なの、それこそ話せば長くなるけれど……。力を借りたくて!」


「は!力を借りたい人間が大層ご丁寧な訪問をしてくれたものじゃ、それにこやつが貴様の式!?……正気か?」


『なんだ、文句でもあるか。』


「いやはや滑稽でな、国王代理から悪魔に身を窶したかと思えば、今度は小娘のマスコットか。全く始祖様も報われぬな、17度殺し合い、最後まで討伐出来なかった稀代の悪魔が、今やこんなザマとは。」


『いまここで18度目の殺し合いをしても構わんが?』


「まぁ戯れ言じゃ、それにしても〝白金の徽章〟を貴様が持っていたのは驚きだ。それも始祖様……初代テグレクト=ウィリアムからとなれば、片手の指で数える程しか持ち主は居るまい。」


 見た目に不相応な貫禄と老齢じみた言葉を用いる少女は、ヴラドに対し敵愾心と尊敬心を混在させた複雑な様子で話しを進める。


「さて、〝白金の徽章〟とは何で御座いましょう?ウィリアム卿。」


「〝卿〟はやめろ下級の死神。わたしは貴族でも何でも無い。……〝白金の徽章〟は友情の印。言わばわたしの先祖と友情の杯を交わした仲である証明じゃ。」


「なるほど、ウィリアム…様のご先祖様。それも初代様とヴラド卿は並々ならぬご関係であったと。」


「そうなるな。それで、こんな徽章まで持ち出して一体何を望む、生きながらに悪魔と化し、死後地獄からも拒絶された稀代の大罪人にして大虐殺者……ヴラド=ドラキュリア伯爵。」

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