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邪知への道

 森の木々よりもなお高くそびえ、蒼い甲冑を着込み、蒼いマントをひるがえし、手には冷気で覆われた剣を持ち……せ返るほどの邪気をはらんだ高位の悪魔。氷の悪魔……サウロン。


「何じゃてあれ……。」


 ただよわせる邪気と冷気が、虹色の風を凍り付かせる。テコナの森……聖地たる神木たちの聖気は邪気と拮抗し、エルフの秘術【水の義眼】を持ってしても一般的な木々にしか見えない。


「風が凍り付いちょる……。通りで言葉も聞けないはずだて。」


「【刺突ピアシング】!」


 無数の無骨な鉄の串が木々の高さまで伸び上がり、サウロンの足を貫く。逃げることが賢明な事は百も承知だ、しかしわたしが逃げれば……ルファーさんは今度こそ人間に愛想を尽かすだろう。憎悪の火とは簡単に消すことは出来ない、憎悪は人を悪魔へと変貌させる。


 そんなルファーさんを、わたしは見たくなかった。


「ルファーさん!わたしが戦えるのは日が昇るまで……あと2時間程です!それまでに討伐を!」


 相手は氷の悪魔サウロン、神と相反する、神と同等の能力を持ち合わせた大悪魔ダークロード。それを2時間で討伐など無理難題もいいところだが、……女は度胸だ。


 サウロンは刺突された鉄串をモノともせず、向きを変えただけで地面から鉄串事引き抜いてしまった。そして……まるで踏んだ画鋲でも払うのように、足の軽い一振りで鉄串は四方八方へと舞う。


 「【風の靴】……。」


 ルファーさんは一足飛びで木々の天辺に場所を移し、槍を構えた。そのまま勢い良くサウロンの喉笛に槍の一撃を御見舞いしようとするが……。


『愚策だ。』


 ルファーさんを無数の蝙蝠が保護し、地面へと緩やかに着地させる。……保護した数百体の蝙蝠はキンキンに凍り付いており、そのまま砕け散った。


「死ぬとこじゃったぁ……。ヴラド、あいがとう。しかしあの冷たい風……冬の雪風とも違う、気配が読めん。あいは何じゃ?」

 

 わたしも気になる。ただ黒の教会にあった悪魔辞典で読んだ、【氷の悪魔】という知識しか持ち合わせていない。


『神話の英雄だ、国家を愛し、国の為に戦い、民を護り、愛する者のため剣を振るい、人事を尽くして天命を待ち、天命はヤツに味方した。……そんな何処にでもいる英雄だ。』


「英雄……?」


 おおよそただよよどむ邪気とは無縁の言葉に、わたしもルファーさんも絶句する。


『ルファーならまだしも、リリアが驚くことではないだろう。英雄とは清廉潔白でもなければ、国を護ればその後の人生が薔薇色の翼に満ちているとも限らない。……そのことを一番知っていると思ったが。』


「堕ちた聖者……。」


手垢てあかの付いた言葉を用いればそうなるな。それ故、森の聖気を糧にも出来る、結界を悪用し、自らの存在を不可視とすることも出来ている。……土偶になっている騎士団をみてみろ、何が起こっているかサッパリ解っていないぞ。』


 数百の騎士団……魔石を用いて結界を破った張本人たちは、自らが召喚した存在を認識出来て居ないようで、視線はあれほど巨大な悪魔ではなく、ボロボロとなっている私達に向けられていた。


「風も土も水も森の聖気も……今やあの悪魔の元さ有るってが。」


『そうだな、貴様からすればこの上無い絶望的な状況だ。』


「そいでもわぁはテコナの森の守護者じゃ、尻尾巻いて逃げるわけにもいかねはんで……。」


 ルファーさんが再び天へ飛び上がり、槍をサウロンの首筋に撃ち込もうとする。……しかしその動作は無為に終わり、サウロンの巨大極まる剣の一振りでルファーさんは森の彼方へと飛ばされた。


『絶望的な状況と忠告したのだがな……。』


「ヴラド!なんでそんなに悠長にしていられるの!?」


『感情的になっても、状況が変わらない事を知っているからだ。』


「……〝暗雲雷鳴ストーム〟!」


 わたしは出来る限り広範囲を暗雲でおおい、サウロンにイカズチを走らせる。……やや痙攣を起こすだけで、まるでダメージを与えた感覚がない。


『全く、二人とも命は一つなのだぞ。』


 直後、ルファーさんが蝙蝠の群れに……まるで担架で担がれるよう満身創痍で運ばれてきた。幸い息も四肢もある。


『さて、三度目の正直というやつだ。……次に挑めばまず死ぬだろう。ルファー、貴様はどうする?』


わぁには……森と神獣を護る勤めが……。」


『死人がどうやって護るのだ?墓の中から無事でも祈るつもりか?』


 ルファーさんは心底悔しげな様子で、苦悶の表情を浮かべている。


『神木は諦めろ……ただ神獣を護る間の時間稼ぎ位ならば、してやっても良いぞ。』


 ……ヴラドは何を言っているのだ?


「神獣たちをわぁの式にして森を抜けろってが。」


『理解が早いな、そういうことだ。』


「……選択肢はもう、それしがねぇ。頼む。」


 ルファーさんはそう言って、森を蹌踉よろけながら歩み始めた。


『どれ、我が輩も本気を出すか。』


 ……直後、ヴラドから紫の光が妖しくも燦然さんぜんと輝き、拳大の形がみるみると大きくなっていく。


 そこには、青白い細面、蓬髪ほうはつに髭をたくわえ、えりを頭まで伸ばした赤い裏地に黒い外套をなびかせた、おおよそ壮年の人の身を踏破した吸血鬼が……



 ……いたら良かったのに



『なんだ、何か文句でもあるか。』


 そこにはぬいぐるみから、ただ等身大の着ぐるみになっただけのいつものヴラドがいた。

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