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硝子の金糸雀

ーーー金糸雀カナリヤさえずりは人を安心させる、そこは安全な地帯であると証明してくれるから。


ーーー金糸雀カナリヤさえずりをやめたとき、人々は恐怖する。それは危険地帯を意味するものだから。


ーーー金糸雀カナリヤは、自らの死をもって危険を知らせる。それが金糸雀の意思でなかったとしても。


ーーー例えそれが、既に手遅れであったとしても。



 ◇  ◇  ◇


「結界が破られとる……。それに、風の言葉が聞こえない。」


 ルファーさんの表情は驚愕に彩られ、即座に木製の短筒を取り出したかと思えば、白い輝きを放つ細い長槍へ変化した。……今朝方、金色竜王を一撃でほふった槍で間違え無い。

 

「結界が破られるって……。さっき生半可な結界を張ってないと豪語してませんでした?」


「んだ、普通だば〝認識することも出来ない〟結界じゃ。触れた時点で正反対さ転移する。」


「……侵入者の気配は?」


「解んねぇ、風が何も教えてくれん。」


『結界が破られているというよりも……結界を悪用されているように感じるな。』


「ヴラド!?」


 先程まで病人の様に横たわっていた小さなわたしの式が、活気を取り戻しふよふよと浮かんでいる。森の【聖気】によって死にかけていた姿は既にない。……意味するところは。


「テコナの森の神気……じゃない、聖気が消滅したの?」


『いや、神木や聖獣の影響はまだ大きい。しかし、聖気を打ち消すだけの〝邪気〟が入り込んで相殺されている。』


「……邪気?」


「魔神さん、……いんや、ヴラドさん。わぁにもその話し聴かせてくい。」


 わたしはルファーさんにほどこされた魔導……おそらくはエルフの視界を借りる術式【水の義眼】で森を見渡す。煌々と輝く木々から立ち籠めている白いオーラが【聖気】というものだろう。幼い天馬や土鯨、一角といった神獣からも同じ気配が見て取れる。


 ……だが邪気というのが一切感じられない。それこそ【黒魔導師】であるわたしならば、一番に感知して然るべきものであるにも関わらず。


『話す暇は、まずこいつらを倒してからだな。』


 ヴラドは体から無数の蝙蝠を飛ばし、蝙蝠が感知した……曰く人間が耳に出来ない〝超音波〟で形を成した映像を魔導陣に映し出す。色も付かない荒い映像で、正確な情報は得られないが、解ることはある。


 形からして、魔導銀の甲冑を着込んだ、斧を持つ数百人の軍隊。それが森の入り口に押し寄せていた。


「あいは何じゃ?人間がわぁの結界を!?」


『しゃべる時間は惜しいぞ。斧で神木を切り倒される。貴様は森の守護者であろう?』


「それもそだ、……リリア、なぁも行がべ!【風の靴】!」


 ルファーさんの足に強力な風の加護が付加され、一足飛びで目視出来ない範囲まで飛び立っていった。わたしも全身を蝙蝠に変化させ、跡を追う。


「……ヴラド、白の教会の聖遺物に、天馬の亡骸があったわね。200年前この森を襲ったのは。」


『神が敬虔な信徒にたまえた、聖なる奇跡の産物で間違いあるまい。』


「じゃあ今回も……。」


『どうだろうな、あのエルフ……並の腕ではない。如何にヤツらが〝奇跡の再来〟を望もうと、こう簡単に結界を破ることなど難しいと思えるが。』


「じゃあ何者が?」


『さぁな。』


 わたしは蝙蝠へ変化していた体を再構築し、森の入り口……ルファーさんと対峙する魔導銀の鎧を纏った数百の騎士たちを見やる。


「……その斧ば置いて出て行ってくれんかね?無駄な殺生は好きでねぇば。」


 ルファーさんは言葉の一言一句に殺気を込めて説得を行っている。しかし騎士団は一向に引く気配が無い。わたしも戦闘になれば【刺突ピアシング】【暗雲雷鳴ストーム】を撃ち出せるよう準備を整える。


 そして騎士団の一人が剣を握った刹那……。


「【土の服】!」


 騎士団はまるで土偶のように、地面から這い出る土で固められてしまった。


「デタラメな強さね……。」


『森の中で、相手はエルフだ。如何に強い獅子が群れを成したとて、水中で鮫に敵うはずもあるまい。』


「さで、どうやって結界ば破ったか聴かねばなんねぇ。貴様きさんらの正体もじゃ。」


 ルファーさんは槍の一閃を放つと、土で固められた騎士の顔だけを砕き、表情をあらわにさせた。……その風貌は西王国の民と少し違う、独特の高い鼻、黒い目、緑髪の癖毛。


「旧東王国の……。」


 それは、さきの大戦で敗戦し、現在は西王国と合併を余儀なくされている東王国民の特徴そのものだった。


「旧……か、我々は認めていない、屈しない。偉大なる祖国は、いずれ復権を遂げるだろう。」


『革命家か、くすぶる火種の象徴とも言うべき存在だな。何処で知識を得たのか知らんが、テコナの森に宿る神木や神獣目当てだったのだろう。これほど戦力になるものは世界を探しても早々無い。』


「褒めたかてなんも出んよ、ヴラドさん。……そいで、結界を破った方法からじゃな。手足と口と耳と目が無事な内に吐いてくい。〝無駄な殺生〟は嫌いじゃが〝必要な殺傷〟はもっと嫌いじゃ。」


 そういってルファーさんが槍で魔導銀製の斧を真っ二つにする。


「木の槍で魔導銀を……。」


 ああ、そうか。【水の義眼】を受けていない彼らには、あの光の塊とも言える神木の槍がただの木槍に見えているのか。


「……?鉄鋼如きが神木さ敵うはず無かとぉ。何を言っとる。」


「……魔石を使った、召喚の魔石だ。この森の存在は、燃えた王宮に残っていた古書室から運び出した中に載っていた。曰く〝聖獣の森〟〝神木の森〟と。我々が国を奪還するためには、必要不可欠と考えた。」


 召喚の魔石……。数ある魔石でも最高位に位置する、術師が〝悪魔〟や〝疫病神〟を退治しきれず封印する際使うことも多い禁忌とも言える魔石だ。


「ヴラド!?」


『ああ、新しい客人だ。二人ともよろこべ、中々骨が折れそうだぞ。』


 森が冷気と暗雲に包まれる。木々よりもなお高くそびえる存在は、蒼いマントをひるがえし、手には冷気で覆われた剣を持ち……せ返るほどの邪気をはらんでいた。


「なしたんて!?何じゃ、何者じゃ!?」


「氷の悪魔……サウロンね。」


 わたし一人ならば逆立ちしても勝てない超弩級の高等悪魔である。正直……ヴラドとルファーさんが居ても、〝逃げる〟が一番の選択肢かもしれない。でもわたしは……


「【刺突ピアシング】!」


 ……考えるより先に、戦闘を選んでいた。

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