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わかりやすい現代語訳シリーズ その12 「舞姫」(森鷗外)

作者: マボロショ

新聞で、平野啓一郎が、「舞姫」を褒めておりました。(2019/6/7 毎日新聞 )

1、サイゴン港に停泊する船の中で、ドイツから帰国する途中の主人公、太田豊太郎(モデルは作者、森鷗外自身)は、もの思いに沈みながら、自分の経験を手記として記録してみようと筆をとる。(以下は、その手記)


2、自分は幼いころから、いつも成績がよく、19歳で大学を出て、エリート役人となり、上役の引き立てで、ドイツに留学することになった。


3、ベルリンは、観光名所も多いし、美人も多い所だが、自分はわき目もふらず、仕事と勉強だけに打ち込もうと思った。


4、ベルリンに3年間いたが、その間、自分は、政治家や法律の専門家には向いていないで、歴史や文学の研究に向いているのではないか、と思い始める。


5、勉強ばかりで、留学生仲間の付き合いもしないので、留学生仲間からは、つまはじきされるようになる。


6、ある日の夕暮れ、古い教会の扉に寄りかかって、忍び泣きをしている美しい少女を見かけて、「なんで泣いているの? 」と声をかける。


7、少女は、「父が死んで、明日、葬式をしなきゃならないのに、お金が少しもないの」と泣くばかり。


8、「あまり泣くと人に見られるよ。家まで送ろう」と、少女をアパートまで送り届ける。


9、少女の母は、最初、誤解して、自分を締め出そうとしたが、少女の説明で納得し、家の中に入れてくれる。


10、「私は、ビクトリア座の踊り子(舞姫)なの。だけど、明日の父の葬式の費用を、座長に都合してもらおうとしたら、おれの女になれ、と言うの。母も、そうしなさい、と言うの。お願いですから、なんとかして、助けて下さい」


11、「時計をあげるから、これを質屋に持って行って、少しでも融通してもらいなさい」というと、少女は大変感激する。


12、その、お礼に、少女(エリス)が、私(太田)の下宿をたずねて来て、それ以来、彼女は、私の所へ、よく来るようになった。


13、私が踊り子と付き合っているといううわさが、留学生仲間に知られて、ある男が私の上司に知らせたので、本省の上司は、公使館を通して、「おまえを首にする」と言って来た。


14、そのころまで、私とエリスとの交際は、清らかなものだった。踊り子の仕事は派手で苦しいのに、給料は安く、売春婦になる者も多かったが、エリスは、本人も父親もしっかりしていたので、そんなことはなかった。エリスが読書好きだったので、ほんを貸してやったり、むつかしい言葉を教えてやつたりするだけであった。


15、私が首になった時、自分のことのように悲しんでくれるエリスを見ているうちに、たまらず好きになって、離れられない仲になってしまった。


16、親友、相沢の尽力で、私は、ある新聞の通信員となり、ドイツのことを記事に書いて、多少の収入を得られるようになったので、下宿代を節約するため、エリスの家に一緒に住むことにした。


17、通信員としての仕事をしていると、大学の勉強は進まないが、かえって、ドイツの実社会のことは、だれにも負けないほど、よくわかるようになった。


18、そのうち、エリスが舞台で倒れて帰って来た。実は、つわり であった。


19、静養しているころ、親友 相沢から手紙が来た。「今、天方(あまがた)大臣(モデルは山縣有朋・やまがたありとも)についてベルリンに来ている。大臣が君に会いたいと言っているので、すぐに来い」とのこと。


20、エリスが、(やまい)を押して、私に服を着せ、ネクタイを結んでくれた。そして、エリスに見送られて、大臣と相沢のところに会いに行く。


21、大臣から、「重要な書類を緊急に翻訳してくれ」と頼まれ、帰りに相沢と食事をともにする。その時、相沢からは、「大臣に腕を見せるチャンスだ。女とは早く縁をきれ」と言われる。


22、頼まれた翻訳は、一晩で出来た。それを大臣に届けに行き、それから、ちょくちょく大臣のところへ行き、話をするようになった。


23、一月後、大臣に「わしは、明日、ロシアに出発する。ついて来ないか」と声をかけられ、つい、「はい」と返事をする。


24、そのころ、エリスは、踊り子を首になっていたので、エリスに生活費を渡して、私はロシアに出張することにした。


25、ロシアでは、宮廷で、通訳として、さっそうと活躍した。


26、ロシアまでも、エリスからは手紙が来たが、その中には「寂しい」とか、「捨てないで」とか、「ただ、お待ちしています」とか書いてあった。


27、ベルリンに帰ったのは、寒い元日の早朝であった。エリスは表まで迎えに出て、抱きつくと、「お帰りなさい。もしお帰りにならなければ、わたし、死んでしまったでしょう」と言う。


28、部屋には、産着(うぶぎ)や、おむつなどをたくさん用意して、「生まれてくる赤ちゃんは、あなたに似て、きっと黒い瞳でしょうねえ」などと、母になる日を楽しみにしている。


29、数日後、天方大臣から迎えの使者が来た。行ってみると、大臣はとても喜んで、「わしと一緒に日本に帰らないか」と言う。相手の貫禄に負けて、私は、つい、「そうさせて下さい」と言ってしまった。


30、その帰り道、捨てなければならないエリスに何と言おうと、あれこれ考えながら、長い間、雪の夜道をさまよい歩く。


31、ガタガタ震えながら、やっと帰り着いた時、夜遅くまで、私の帰りを待ちながら、おむつを縫っていたエリスは、「あっ、どうなさったの? 」と叫ぶ。私が、顔色はまっ青、帽子もなくして、髪も、服も、雪で濡れ、泥でよごれていたからであった。


32、私は、その場で床に倒れ、意識不明のまま、数週間、寝込んでしまう。


33、やっと意識が回復した時、エリスは、目をまっ赤にして、やせ衰えていた。それは、ある時、私を見舞いにきた相沢が、熱心に看病していたエリスに、「太田君は、あなたをドイツに置いて、日本に帰ることになった」と言ったので、くやしさのあまり、発狂していたからであった。


34、あとから聞いてわかったのだが、発狂した時、エリスは、「豊太郎さん、豊太郎さん」とさけび、髪をかきむしって、何かを探しているようであった、という。


35、母が、その近くにあるものを取ってやっても、片っ端から投げ捨てたが、おむつを取ってやると、それを自分の顔に押し当てて、むせび泣き始めたという。


36、それからは、騒ぐことはなくなったが、パラノイア(偏執症)という精神病になったので、おむつを見ては泣き、見ては泣きするだけで、あとは、ただ、ぼーっとしているだけの状態になってしまった。


37、やがて、健康を回復した私は、気の狂ったエリスを抱いて、何度も涙を流した。


38、その後、大臣と共に日本に帰る時、相沢の協力を得て、エリスの母に、小さな商売が始められるだけの金を渡し、エリスの胎内に宿る子供の養育もよろしく頼むと言って、ドイツを離れて来た。


39、相沢は、私のことを心配してくれる またとない友人だと思う。しかし、その相沢を恨む気持ちが、今日も消えずに、私の心の中に残っているのは、彼が、私とエリスの仲を引き裂いたと思っているからである。


現代語訳を読んで、それに相当する原文を読む、という作業だと、楽をして、理解できるでしょう?

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