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おまけ 短編集  作者: 池金啓太
J/53 after 『Kfrom0』
6/24

その建物は

「見えてきました、あの建物ですね」


「・・・あれ?・・・あれなのか?」


真一たちは最寄りの駅で電車を降りてから徒歩で移動し、その場所にやってきていた。

目に映ったのは何とも異様な建物だった。


ただのマンションのように見えなくもない。二棟の建物で、途中の中間部分に連絡通路らしきものが存在している。


片方は建物全体に至るまで改築やリフォームなどをしているため新しそうに見える。だがもう片方の建物に関してはかなり歪な改修が施されているように見えた。


「ワォ、話には聞いてたけど、なんかすごい建物だね・・・テーマパークとかのアトラクションとかでありそう」


「お前能力者なのにテーマパークとか行ったことあるのかよ」


「あるよ。僕の場合は実家でいろいろと手を回してもらって貸し切りにしてもらったことがあるよ」


「あぁそうだった。お前んち金持ちだったな」


「金持ちっていうか、まぁそういうことがしやすい会社だってだけの話さ」


ネイロードの実家はある会社を経営している。この世界に存在している能力者たちを集めた会社だ。


能力者と無能力者の確執が強くなっている昨今、親に捨てられる能力者の子供は多い。そういった捨てられた子供たちを導く組織。それがネイロードの実家の稼業とでもいえばいいのか。


真一も一度ネイロードの実家の稼業の依頼を受けたことがある。日本の委員会にも直接話をできる程度には大きな企業になっているため、ある程度融通を利かせることができるのだろう。


「確か『アイガース』だったっけか?今結構な規模になってるんだろ?」


「うん、それがいいことなのかって聞かれると微妙だけどね・・・それだけ路頭に迷う能力者が多いってことだから」


ネイロードとしてはそのあたりが複雑なようだった。実際アイガースの社員の九割が能力者だ。


捨てられた能力者を拾い、育て、社員として一人前に教育したうえで運営する。慈善事業のようなことをしているがやっていることはあまり口外できないようなことも多い。


能力の向き不向きにもよるが傭兵のようなこともしている。特殊部隊の集まりのようなものだとネイロードは語っていた。


「オルビアもネイロの実家のことは知ってたんだよな?名前聞いたときに結構気にしてたし」


ネイロードが初めてアイガースの名を口にした時、オルビアはいろいろと気にしているようなそぶりをしていた。


今の経営状況だとか社員の様子だとか、そこに特定の誰かの一族がいるかどうかなど、いろいろと質問していたものだ。


長い間霊装の中に入っていたこともあって外の様子がわからなかったため心配でもあったのだろう。


「はい。私はアイガースの創設時も知っています。その始まりは、ネイロード様のご先祖様、エドモンド・パークス様です。そしてその同僚カレン・アイギス様、そしてその支持者五十嵐静希様。この三人なのです」


「そうだったのか。ネイロはそのこと知ってたのか?」


「うん。五十嵐静希と、うちのご先祖様が懇意にしていたっていうのは知ってるよ。だからこそ僕も親の世代から日本に住んでたんだと思う」


かつての五十嵐静希とエドモンド・パークスの関係を知っている者は一部のものに限られる。


この二人の関係性に関しては実際の記録自体も少ないため、今ここにいるオルビアが知っていること以上のことが真実として取り上げられていることはない。


ほとんど虚偽と噂程度のものばかりで、どれが本当なのかわからないといったことも挙げられていたほどだ。


「もともと、アイガースの名前もその三人のファミリーネームから取ったものなんですよ?『五十嵐』『パークス』『アイギス』それらを合わせたのがアイガースなのです」


「そうだったのか。でも支援者って?直接運営にはかかわってなかったのか?」


「はい。静希様はあくまで社長はエドモンド様であると譲らず、融資だけを行っていました。幸いたくさんの稼ぎがあったからと。奥方様もそれは納得されていましたし、静希様に続いて出資をする方も多くいました。イギリスの王室などもその一つですね。かつて静希様はイギリスのある姫君と懇意にされていましたから」


「そうだったのか・・・なんでうちの会社の出資者リストにイギリス王室がいるのかと思ったら・・・そういうことだったのね」


ネイロードも長年の疑問が解消したのかすっきりしたような表情をしていた。真一は話が大きすぎてなんとも複雑な気分だった。


そんな人の力を受け継いでいるといわれて、いろんな人に会ってきた。頑張れという人もいればふさわしくないという人もいた。


肯定的でも否定的でも、真一にとってはどうでもよいことであった。選ばれたからこの場所に連れてこられた。そんな考えを今でも持っている。


選ばれなければきっと、自分はただの高校生として生活していただろう。剣を持つこともなく、戦うこともなく、ただ平凡に、ただ安穏と。


そんなことを考えていると、オルビアが真一の手を取り、目の前にある歪な建物に向かって歩を進める。


「さぁ行きましょうマスター。あそこで、お会いしてほしい方がいます」


真一をここまで導いてきた騎士が、再び真一を導く。この手を取ったから自分は今ここにいる。

それがどのような意味を持っているのか、真一は考えながらオルビアの後についていくことにした。


マンションの中に入ると、そこには警備員が二人立っていた。


通常の建物を守るような警備員とは違うことを真一とネイロードは即座に理解していた。


たたずまいやその装備からして明らかに普通の人間ではない。おそらく能力者であるだろうと予想していた。


「オルビア・リーヴァスです。本日は我が主武藤真一様とそのご友人、ネイロード・パークス様と一緒に古賀様とお会いする予定となっております」


そんな普通ではない警備員に対して、オルビアは全く臆することなく話しかける。正規の手続きを踏んでいるというその考え故か、それともあらかじめ知っていたのか、まったくもって動じた様子はなかった。


「オルビア様、お話は伺っております。本日は武藤様だけと伺っておりましたが?」


「えぇ、せっかくですのでネイロード様もご一緒にと。問題ありますか?」


「一人くらいならば問題はないでしょう。くれぐれもご注意ください。ではこちらにサインをお願いします」


「ありがとうございます。それでは行きましょう」


今のが受付の代わりだったのだろうか、オルビアがサインをすると警備員はマンションの上に続く階段への道を示してくれる。


かなり大きい建物のようなのだが、エレベーターは動いていないようだった。


「なぁオルビア・・・こんな建物に住んでる人って・・・どんな人なんだよ・・・古賀・・・さんって言ってたけど」


「あー・・・オルビア、そろそろネタ晴らしをしてもいいんじゃないかな?」


「そうですね。マスター、ここはとある霊装を管理している建物なのです。今日はその霊装を使わせてもらうためにここに来たのですよ」


霊装。真一がもっている歪む切札も霊装の一種だ。能力の込められた物体、道具などがそれに当てはまる。


特定の人物しか使うことはできず、触れることもできない。


真一が最初に触れたこの霊装、歪む切札も、真一以外の人間は振れることができなかったのだ。


「でも霊装は使う人間を選ぶだろ?俺が使えるかどうかなんてわからないじゃないか」


「ここで管理している霊装は少々特殊でして・・・使用者は先ほど話にも出ました古賀様。正確にはその一族の方ですね。そしてその霊装の効果は、おそらくこの世界でも一つしかないほどに貴重です」


「そんなに貴重なのか・・・それだと奪いに来るような人間もいるんじゃ・・・」


かつて霊装の保管庫でもあり、展示場でもあった博物館に強盗が押し入った時のように、貴重な霊装を奪おうとするような輩がいても不思議はない。


霊装の管理を行っている機関がどのような考えを持っているのかは不明だが、それほど貴重な霊装を警備員二人の体勢で守っているというのは少々不安が残る。


「それに関しては大丈夫だろうね。ここの霊装はそもそも盗むことが極端に難しい」


「そうなのか?ものすごく重いとか?いや、霊装に重さはないからそれはないか・・・」


「ふふふ、それは見てのお楽しみさ。僕も実物を見るのは初めてだからすごく楽しみなんだよ」


貴重な霊装と言われても具体的にどのようなものなのか、そしてどんな能力が込められたものであるのか。それらの話を全くしていないために真一は疑問符を飛ばすことしかできなかった。


少なくとも現時点ではあまりいい印象はない。霊装は貴重だ。無能力者でも能力者と同等の力を持つことができる。


あくまで低い可能性ではあるが、そういったものがこぞって霊装に触れようとした。さらに言えば霊装は存在そのものが貴重である。


金持ちは金を払って霊装を自らの手元に置こうとしている節さえもある。そういった者たちは多少荒っぽい手段をとってもそれらを手に入れようとしてきた。


真一の持つ歪む切札も同じような被害に遭いかけたことがあるだけに、こんな状態での警備で何とかなるとは思えなかった。


「にしたってこんなボロボロのマンションにしまわなくてもいいだろうに・・・なんかこう、金庫とか保管庫とかさ、そういうのにしまったほうがいいんじゃないのか?」


階段を上っている間も真一の視界には亀裂の入った壁や天井が入り込む。何十年と回収されていないのではないかと思えるような状態だ。


とても霊装を補完するべき場所とは思えなかった。


「まぁ理想としてはそうなんだろうけどね・・・さっきも言ったけど、ここの霊装は少々特殊なんだよ」


「特殊って言われても物は物だろ?そりゃ触れる人間が限られてりゃ運ぶのも大変だろうけどさ、能力を使えば運べなくはないんだから」


「そうですね。やりようによっては運べるでしょうが、それでもかなりの苦労があります。それほどのことをして運ぶだけの利点がないのですよ」


オルビアの言葉に真一はさらに疑問符を浮かべることになる。


貴重であり、おそらく世界に一つしかないであろう程の能力を持っているにもかかわらず厳重に保管するだけの利点がないという意味が分からなかったのだ。


貴重なものなら厳重に保管しておけばよいものを、それをしないだけの意味があるのかと真一は首をかしげる。


「まぁもうすぐ答えもわかるさ。えっと確か・・・この階だっけ?」


「えぇ。マスター、到着です。ここが今日お会いしてほしい方がいる場所ですよ」


オルビアとネイロードの案内でやってきたその階は、他のマンションの階層とほとんど同じ内装をしていた。


そんな中で、一つの扉の前にだけ椅子とテーブルが置いてあるのが目についた。


そしてテーブルの上に一冊のノートと、ペンがあるのに気づく。一体あれは何だろうかと思っていると、奥の方から一人の女性がやってきた。


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