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おまけ 短編集  作者: 池金啓太
J/53 after 『Kfrom0』
4/24

指導者

「中学三年の段階で能力に覚醒した人というのは聞いたことはありません。もともと運動はやっていたのでしょうが、能力と運動能力というのはまた違うものです。マスターは筋がいいと思われますよ?」


「そういわれると悪い気はしないけどさ・・・運動能力的には微妙だぞ?戦闘向きな動きはあんまり・・・俺もともとバレー部だしさ」


能力者という存在が生まれてからもスポーツというものは続いていた。能力による妨害や反則を考え、能力者は観戦もできないような状態である。


そのため、霊装の所有者になったことで自動的に真一もバレーをやめざるを得なくなった。


といっても部活のように公式戦に出られないだけで、普通に楽しむことはできる。


あの頃が無駄だったとは言わないが、バレー部だった時の経験が今も役立っているとはいいがたい。


反射神経的な意味では多少はましかもしれないが、それでも攻撃すべてを躱すことなどできないのだ。


「運動能力というのは鍛えればそれだけ上達します。静希様もマスターと同じ年の頃はそこまで強いというわけではありませんでしたよ?」


「へぇ・・・どんな感じだったんだ?」


「どんな感じ・・・と言われましても・・・良くも悪くも平凡な身体能力ではありました。ですが鍛えることで少しずつ向上していったのです。ですが同じチームに前衛の方がいたのですが、その方にはかないませんでした」


「やっぱ努力だけじゃなくて才能も必須ってことか・・・世知辛いな」


「そういう意味ではマスターは才能にも恵まれているように思えます。能力がない状態ではかなりのものではないでしょうか?」


「そりゃこんな重いもの着て走ったりしてるんだから少しは鍛えられてないと困るんだけど・・・俺の努力なんなのってことになっちゃうよ」


細菌が体の中に入り、鎧を出すことができるようになってからというもの、鎧を着た状態でのランニングが真一の日課になりつつある。


これをやるように言ってきたのはほかならぬオルビアである。鎧を着た状態でいつもと同じように動くことができなければ意味がないというのがオルビアの言葉である。


かつてオルビアがまだ生きていた頃、鎧を着て走ったり剣術の訓練をしたりというのが当たり前だったという。


それと同じ訓練をやらされているというわけなのだが、やらされる本人からすればスパルタすぎて泣けてくるほどである。


だがその甲斐あってか、筋力も持久力も増した。そういう意味では無意味だったわけではない。

時々うるさいと苦情を受けることもあるが、それはある意味仕方のないものである。


「剣術的にはどうなんだ?やっぱり英雄様とは違うか?」


「そうですね・・・同年代の頃に比べると・・・ほとんどレベル自体は同じなように思います。これは私の指導不足もあるのですが」


「いや、オルビアはよくやってくれてるよ・・・ただ単に俺が追い付いてないだけっしょ」


「いえ、実は静希様の剣術指南役は私だけではなかったのです。静希様の姉君・・・といえばよいのでしょうか、その方も一緒になって静希様を鍛えてたのです」


その話を聞いて真一は首をかしげる。確か英雄である五十嵐静希は一人っ子だったはず。兄弟などはいなかったと記録の中では残っていたはずなのだがと疑問符を飛ばしていた。


オルビアの姉と呼べばいいのかわからないという表現から、おそらく微妙な家庭環境があったのだろうと納得することにした。


よくよく考えれば普通の家庭環境にあるような人間が英雄などと呼ばれるようになるとは思えなかったのだ。


「その姉の人も剣術はすごかったんだ」


「私などほとんど防戦一方でした。あの方のあれは能力の補助もあるのでしょうが、本人の努力もあるのでしょう。素晴らしい技術と力をお持ちでした」


「へぇ・・・でも能力相手に防戦でも対応できてるオルビアもすごいじゃんか。俺なんて守り一辺倒でもまだオルビアの攻撃を捌けないぞ?」


「ふふ、私も少しは上達していますから」


長年剣術に関しては研鑽を重ねてきたオルビア、今もなおその技術面に関しては成長を続けているらしい。


身体的には成長することのできない彼女だが、技術面における成長は未だとどまるところを知らない。

そのうち鉄でも何でも一刀両断するのではないかと少しだけ期待している真一である。


「前々から思ってたんだけど、オルビアって剣以外の武器は使えないのか?槍とか斧とか刀とか」


「そういった類の武器は使ったことはないですね・・・あ、ですが短剣でしたら多少心得があります。体術の延長線のようなものですが」


そういってオルビアは腰を落として何かを持っているような構えを作る。その右手に開いたわずかな空洞が、そこにナイフを持っているのだということを想起させる。


軽く拳を突き出し、踏み込むと同時にナイフを持っている想定の手を素早く振るう。剣を振るう時の動きとはまた違う。鋭さと手数を重視した動きのように見えた。


「とまぁこんなものです。私も短剣に関しては少しかじった程度でしかありませんが」


「へぇ・・・それって誰に教わったんだ?」


「先ほどお話しした静希様の姉君に。あの方はナイフも扱えましたので、いろいろと使えそうなものは教わっていたのです」


かつての光景を思い描きながら、真一は自分が握るオルビアの本体である剣を見つめる。


その当時のオルビアがいったいどのような生活を送っていたのかを気にしながら、真一は剣を鞘に納める。自分がオルビアの主でよいのかと自問しながら。








「お帰り二人とも。真一は汗だくだね」


訓練から戻った真一とオルビアを迎えたのは部屋でくつろいでいたネイロードだった。


如何に午前中を優雅に過ごせたのかを見せびらかしたいのか、その手元には淹れたてのコーヒーがあり、今もなお部屋の中にその香りを充満させていた。


その香りがまた真一の神経を逆なでする。


「くそ、一人快適に過ごしやがって・・・そろそろ出かけるから準備しておけよ。俺シャワー浴びてくる」


「はいはい。オルビア、場所だけ教えてくれるかな?下調べだけしちゃうから」


「かしこまりました。ここから約一時間ほどの場所にあります。地図で言うと・・・」


真一がシャワーを浴びている間、ネイロードはその場所について調べ、オルビアがいったい何をしようとしているのかを察していた。


「なるほど・・・でも大丈夫なのかい?ここって確かかなり厳重に管理されているんじゃなかったっけ?」


「はい、調べた限りかなり限られた人間でない限り立ち入りもできないでしょう。ですが問題ありません。すでに予約はしてあります」


「おぉ、さすがオルビア。そのあたりはぬかりないね。やっぱり昔からのコネってやつなのかな?」


「似たようなものです。幸いにして、まだ私のことを人伝いでも知っている者が多くいます。そういった方に話をすればすぐですよ」


いつの間にそんな根回しをしていたのだろうかとネイロードは驚いているが、普段からして何をしているのかよくわからないオルビアだ。真一たちが授業を受けている間、ずっとトランプの中に控えているわけではない。


そういう意味ではオルビアの行動は非常に読みにくいのだ。


その行動が基本的に真一が成長するために必要なことだとわかっていても、どこか不安になることもある。


「ところでオルビア、一ついいかな?」


「なんでしょう?」


「オルビアは今こうして真一と一緒にいるけどさ、自分で何かしようとか、何かしたいとかは思わないの?いつもいろいろ助かってはいるんだけど・・・なんか無理をさせているような気がしてさ」


オルビアは基本的に真一に尽くしている。それは戦闘面でも生活面でもそうだ。貢献度だけで言えばおそらくこの世界で誰よりも真一に尽くしているだろう。


それほどの忠臣っぷりを見せつけているオルビア、もはや騎士なのかメイドなのか秘書なのかよくわからなくなってきてはいるが、本人がそれを望んでやっているとしても、他に何かやりたいことはないのだろうかと思ってしまうのだ。


「マスターにも同じようなことを言われました。嬉しいけれど自分の好きなことをやってほしいと」


「あぁ、やっぱり真一も同じようなことを言ったんだね・・・で?君はいいのかい?このままで」


「はい。私はこれでよいのです。私は生まれてから死ぬまで、最後まで結局この生き方を変えられませんでした。私が消えるその時まで、きっと私は私を変えられません」


オルビアがこうして真一に仕えるようになったのも、もとはといえばかつての所有者の願いでもある。


当時はその家族や子孫を守りたいと考えていたが、かつての主の願いを聞き、その想いを聞き、オルビアはこの道を選んだ。


いうなれば、真一に尽くすことが、今オルビアのやりたいことになっているのだ。


「それに、普段から私はかなり自由にさせていただいています。そういう意味では今の生活に不満は一切ありません。私は昔から主には恵まれるのですよ」


「そう、真一に不満がないのなら何よりだ」


「いいえ、不満はたくさんあります。もっと女性に対してデリカシーを持っていただきたいとか、衣服は裏返しで脱がないでいただきたいとか、私を持っているときは別の武器を使わないでほしいとか」


「あはは、結構いろいろたまっているんだね。そういうことは口に出しているのかい?」


「もちろんです。ただ従うだけが尽くすということではありません。なかなか直していただけませんが、少しずつ改善はしていますよ」


そんなことを話しながらオルビアは笑う。まるで出来の悪い息子を見ているかのようだとネイロードもつられて笑ってしまっていた。


「あーさっぱりした。ん?なんだ二人ともニヤニヤして。なんかあったか?」


シャワーを浴び終えた真一が部屋に戻ってくると、笑みを浮かべている二人を見て不審そうな表情をする。


そんな真一の反応に二人は再び笑ってしまっていた。


「いいや、何でもない。何なら当ててごらん。名探偵みたいな名前してるんだから」


「名前のことは言うんじゃねえよ、真実二つにされてぇのかこの野郎」


昔から名前のことでからかわれていた真一からすれば、面白くないからかわれ方にムッとしながらも、とりあえず外出の準備を始める。


どこに行くのかまだわかっていなくとも、オルビアが誰かに会いに行くという必要があるというのならそれは必要なことなのだろうと真一も理解していた。


「ほれ、お前もついてくるんだろ?さっさと準備しろよ」


「はっはっは、どうしたんだいジョニーそんなに慌てて。デートに遅れそうなのかい?」


「誰がジョニーだこの似非白人。相手を待たせるわけにはいかないだろ?」


「その心配はないと思うけどね」


そういいながらもネイロードは真一に促されて外出の準備を始めていた。


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