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おまけ 短編集  作者: 池金啓太
アロットロールゲインafter 短編『世界の変わり目を憂う兎』
23/24

その兎は何よりも早く

 場所は変わってイタリア北部。ミラノの都市部では激しい戦闘が繰り広げられていた。


「特殊個体の群れが第三防衛線まで突破しました!グノーシス隊、ラボゥ隊、通信途絶!」


「くそ!なんだってこんな……!あいつら何を目的に動いてるんだ!?」


 イタリアの防衛線が始まったのは四日ほど前だった。ミラノの西部にあるノバラという都市で北西からやってくる数体の特殊個体の群れが発見された。


 現地防衛部隊と周辺警戒のために各地を巡視して回っていた能力者組織と、応援としてやってきた軍の混成部隊が戦闘を開始することになる。


 当初発見した数体は問題なく撃退することができたのだが、そこからが問題だった。


 次から次へと、まるで呼びよせられるかのように何体もの特殊個体が群れを成して襲い掛かってきたのだ。


 西側からどんどん数を増やしながら襲い掛かってくるその特殊個体に、二日でノバラは陥落。東にあるミラノにまでじわじわと戦線を後退させ、ノバラとミラノの間にあるティチノ川を境に徹底的に防衛陣地を構築することで何とか防衛に専念することで陣地を維持しているのだが、それにも限界がき始めていた。


 いくつもの部隊が消息を絶ち、徐々に押しつぶされようとしている。


 どれほどの数の特殊個体がいるのかもわからない。索敵部隊も懸命に相手の数と位置を報告し続け、断腸の思いでミサイルなどによる爆撃まで実行した。


 だが、それでも特殊個体の数は一向に減らなかった。むしろどんどんその数を増やしているようにすら見える。


 これほどまでこれほどの数の特殊個体は見たことがない。


 これほどの勢いをもって、ある種の結束をもって襲い掛かってくる特殊個体の群れなど見たことがない。

 何より種としての統一性があまりにも感じられなかった。


 確認してみれば、哺乳類の外見をしたものから爬虫類の外見をしているもの、鳥類、昆虫類など、ありとあらゆる生物すべてをこの場にそろえているといっても過言ではない種類が一斉に襲い掛かってきているのだ。


 何者かに操られているのではないか言われても否定できない光景に、イタリアの能力者組織の人間も、そして軍人たちも絶望の色が非常に強くなっていた。


「持ちこたえろ!ここが抜かれれば形勢は我々に圧倒的に不利になる!援軍も要請した!ここで踏ん張るんだ!」


 後方からやってきた指揮官が現場の人間を鼓舞しようと叫ぶ。指揮官までもがこんなころまでやってくるというのは相当状況が悪い。そのくらい現場の人間はわかっていた。


 既にノバラから西側、トリノなどは完全に通信が途絶した。おそらくは、特殊個体に滅ぼされたのだろう。


 もはやこのミラノも同様の未来をたどるのだとあきらめかけているものも多い。


「ですが将軍、後方からの援軍ももう使い切っています!東側の守りを薄くするわけにもいきません!このままでは……!」


「確かに時間の問題だろう。だが、それでもあきらめるな。先ほど、援軍を要請したやつから返信があったところだ」


「返信……なんと?」


「可能な限り早く行く……そうだ」


 なんとも曖昧で、いつ来てくれるのかもわからないような回答にその場にいた何人かは怪訝な表情をする。


「それは、いったいどこの?我が国にそれだけの余裕があるとは思えないのですが……」


「我が国ではない。他国の、ある能力者に頼んだ」


「他国の!?そんな……そんなの……」


 他国の能力者に救援を頼む。そんなのは藁に縋るようなものだ。


 他国から能力者を派遣する場合、様々な手続きを踏む必要がある。能力者も戦力の一つとしてみられるようになったこの時代、強力な能力者が国を超えるということはある意味軍を動かすよりも国同士の緊張を強いることになるのだ。


 特に人類にとって脅威となっている特殊個体が生まれてからは、特殊個体の襲撃から救うという目的で他国へ軍事力を展開しようとする国も多かった。


 とはいえ、そういう国ほど、特殊個体の襲撃によって痛い目を見ているのだが。


 そういった過去があるために、高位の能力者であればあるほど他国に移動するのには非常に手間がかかる。


 それこそ申請してから数カ月待たされることだってある。この窮地にそれほどの時間を持ちこたえられるとは思えなかった。


「どんなに急いだって……一カ月かそこらかかりますよ……いったいどこに頼んだんですか?アフリカですか?」


「いいや。日本だ」


「日本……まさか……?」


「あぁ。ラビット01に直通回線を使って救援を依頼した」


 ラビット01。世界に能力の存在を明らかにした、所謂能力黎明期から半世紀近くずっと活躍し続けている、世界屈指の実力者。


「そんなやばい人を呼ぶんだったら、それこそ数カ月かかるじゃないですか……それまで持ちこたえるなんて……」


「そうか、お前たちはあいつに会ったことはなかったんだったか。あいつはそんな悠長な男じゃない」


「悠長って……でも手続きしないと海外に能力者を派遣なんて……」


「あいつなら、その手順をいくつかはすっ飛ばしてくるだろうな。おそらく、一週間……遅くても十日あればあいつは来てくれる」


 一体どこからそんな確信があるのかと疑問を抱くが、将軍の目は決してあきらめていなかった。


 一週間から十日。それだけ持ちこたえれば、何とかなる。そう信じている目だ。かけらも疑っていないその目に、周りの面々も半ばやけくそになりつつあった。


「一週間……十日……!ちくしょう、ちくしょう……!弾を再分配しろ!川まで奴らを押し返すぞ!」


 どちらにせよこの場が突破されてしまうと圧倒的に不利になるのは間違いない。さらに言えばミラノでの市街地戦にまで発展するだろう。


 いや、その先のさらにイタリアの南部にまで攻め込まれる可能性だってある。この国を守るための総力戦になりつつあるのだ。この場で踏ん張らなければ恐ろしいことになるのは目に見えている。


「前線を安定させろ!航空支援まだか!?」


 人類側における防衛の利点としては、長い射程と航空での支援がある程度確立されているという点だ。


 空軍からの支援と、戦車などを使っての砲撃、そして銃撃。それらを行うことでたいていの特殊個体は倒すことができている。


 問題は、そういった攻撃でも倒すことのできない特殊個体が出てきているという点である。


 砲撃と爆撃を受けながら、何体かの特殊個体が爆炎を引きちぎって突撃してくる。それを確認して後方で指揮を行っている者たちがざわめきだす。


「突破するのが出ました!特殊個体!抜けてきます!数は三!」


「止めろ!戦車隊に近づけさせるな!川で止めるんだ!」


 現在の戦況は戦車隊による砲撃と航空支援、そして銃火器による牽制によって何とか成り立っている状況だ。


 射程の有利を維持し続けているからこそこの状況を保っていられるのであって、もしこれが弾が切れたり、あるいは射撃を行っている戦車隊や射撃部隊などが攻撃されてその機能を失った場合、あっという間に押しつぶされる。


 だからこそ、能力を使うことのできる特殊個体の中で肉体強化などを扱えるものが出てくると緊迫感が一気に増す。


 あれを近づけたら負ける。


 それがこの場にいる全員に伝わるのだ。


 それ故に動き出しは早い。


 川の水が一気にうねり、突破してきた特殊個体を包み込むと水ごと空中に持ち上げていく。


 泳ごうと必死に手足を動かしているが、そこまで泳ぎが得意ではない種族をベースにしているからか、特殊個体はやがて窒息していく。


「能力者か!ありがたい!他二体!何とか押し返せ!催涙ガス散布!連中を近づかせるな!」


 人間の戦術の優位性はもう一つある。それは化学物質を用いた特殊な効果を持った兵器の散布だ。


 人間であればそういったものをマスクなどを使って防護することもできるが相手は動物。低い知能であるが故にそれらを防御する術がない。


 そして目や鼻を一時的にでも使えなくすれば、しばらくの間停滞させられる。


 イタリアの混合軍はそういった搦め手も使うことで何とかこの状況を維持してきたのだ。


 ただ問題があるとすれば、それは残弾や彼ら自身の体力や気力といった部分である。


 もうすでに何日も戦い続け後退を余儀なくされ、なおかつ今も防戦一方の戦いを強いられている状況において、彼らの士気がどれほど維持できるのか、補給線はどこまで耐えられるのか、そして物資はもつのか。


 後方支援にだって限界がある。自分たちはいつまで戦えるのかという不安もある中、それでも戦う以外の選択肢は彼らには与えられなかった。


「もう一体撃破しました!あと一体!」


「倒せ!どうにかして倒せ!近づかせるな!」


 川を渡り切り、一気にこちらに近づいてきている特殊個体に向けて砲撃が集中する。


 何発もの砲撃を受けてわずかに突撃の勢いが削がれたところに、数人の能力者が一気に距離を詰めた。


 襲い掛かる爪と牙を防ぐと思い切り殴りつけて空中に弾き飛ばすと、その特殊個体めがけて黒い弾丸のようなものが大量に襲い掛かっていた。


「突出した敵はこちらで対処します!砲撃続けて!川まで突っ切られると面倒です!」


「どこの部隊だあれは!?まぁいい!砲撃続けろ!相手の足を完全に止めてやれ!射撃部隊!考えて撃て!雑にばらまくんじゃあない!相手は獣だ!確実に当てろ!」


 人間相手であれば牽制射撃などにも意味があるが、相手は動物。銃が危ないという知識など持ち合わせてはいないのだ。


 そのため弾をばらまくよりも確実に当てるということの方が重要になってくる。


 徹底して相手を倒すことを目的としているのに、一向に数が減った気がしないのはどういうわけだと、何人もが思っていることだろう。


 このままではいずれ。


 全員の脳裏に絶望が這いよる中、観測を行い続けていた隊員が叫ぶ。


「なんだ!?どうした!?」


「じゅ、十三時の方角!きょ、巨大な特殊個体!大きさ……およそ十メートル!」


「なんだと!?撃て!狙い撃ちにしろ!それだけデカければいくらでも…………!」


 報告のあった地点を見ると、その場所には土煙が上がっている。しかもそれは一匹ではなかった。


 群れを成しているのか、何匹もいる。何発か砲撃が直撃しているようだったが、意に介することもなくこちらに向かってくるのが見えた。


「……ダメだ……無理だ……!」


 隊員から漏れた言葉に、誰もが同意していた。能力を使う獣。それがこれほどの脅威となると半世紀前の人間は理解できなかっただろう。


 強力な肉体を持ち、特異な能力を操って襲い掛かる動物たちに、人間の科学力は、敗北しようとしかけている。


「違う!ダメじゃない!無理じゃない!ここが正念場だ!この場所を守るんだ!気合を入れなおせ!ここが」


『よぉ、演説中失礼』


 自分たちの墓場であると言おうとした瞬間、川の向こう側に何かが落ちてくる。それを見たものは数人だ。何せそれは高速で飛来し、地面に叩きつけられ辺りに衝撃波と轟音をまき散らしたのだから。


「なんだ!?何が起きた!?」


「何かが落ちてきました!状況不明!」


 何が起きたのかを理解していないものが多いが砲撃は続く。その中で、その声を聴いたものが一人だけいた。


 あんな言葉をぶつけてくるものは一人しかいない。


「おい……なんでお前がここにいるんだ……!」


『なんでって、お前が呼んだんだろうが。わけわからん奴だな』


「まだ要請してから二日と経っていないぞ!いったいどうやって来たラビット01!」


「ラビット01!?あれが……!?」


 衝撃波とともにあたりを吹き飛ばし、土煙の向こうで何かが動いているのがその揺らめきと影から分かる。


 地面から伝わる振動と、断続的に続く轟音がこちらにも届いている。いったい何が来たのかと疑問を続けている他の兵士たちもその姿を見ていた。


「おい!あれ見ろ!」


「あれは……!ロボット……!?ラビットだ!!」


 土煙が薄れていく瞬間、その場にいた誰かがそれを見た。土煙を引き裂いて現れたその物体を。


 鉄でできた巨大な人型兵器。巨大なロボット。それを実戦運用できているのはこの世界において一人だけだ。


「お前……手続きはどうした!ありがたいが!お前が出てくるということがどれだけ問題になるかわかっているのか!?」


『だから、急ぎで来るって伝えただろ。細かい手続きとかは後回しだ。書類上の日付だけ遡っておけば辻褄合わせられるだろ?』


「それは不正というんだ……!というか、お前だけ来たのか?」


『んなわけあるか。やばそうだったから先に俺だけ突っ込んできたんだよ。他のは上から随時降下中だ!』


 次々に土煙の中から現れる鉄の巨人たちが辺りにいる特殊個体たちを薙ぎ払っていく。


 踏みつぶし、叩きつけ、銃砲の乱射で一気に形勢を変えていた。


 巨大な特殊個体に掴みかかり、その拳を叩きつける度に肉と鉄がぶつかり合う異音が辺りに轟く。


 巨大な特殊個体の肉体は能力で作り出されているようで、巨大ロボットの一撃を受けてもまったくひるむことなく立ち向かってくる。


『ダメだな、出力を上げるぞ。あのデカい奴の周りに兵士がいたら引かせろ!巻き込まれるぞ!』


 周介からの無線が入ると同時に、巨大な特殊個体に向かっていたロボットたちの外装に青い体毛が生え始めている。


 やがてその全身を包み込み、巨大な二本足の獣の姿へと変わっていく。


 そして完全にその肉体が変貌したところでその動きが明らかに変わる。


 先ほどもそこまで鈍重といえるような動きではなかったが、青い体毛をまとった瞬間、その動きが一変する。


 殴る、蹴る、掴み上げて叩きつける。その速度が明らかに増した。


 まるで怪獣同士のぶつかり合いを見ているようだと兵士たちは歓声を上げていた。


「ラビット01!川を起点に防衛している!あまり突出するな!」


『俺の機体が出たんじゃ射線をふさいじまう!俺が最前線で間引くからお前らはうまく後ろで撃ちまくれ!当てても文句言わねえよ!そろそろ俺が連れてきた連中も降りてくる!上のほうだけは撃ってやるなよ!』


「上?」


 上空にはいくつか落下傘が開いていた。どうやらあれが増援のようだった。いったいどういう手段を使って空輸したのか想像したくない。


 だが、そのパラシュートよりも早く何かが落ちてきた。


 それは獣の姿をした、あるいは人間の姿をした何者かだった。


 上空からの落下をものともせず着地し、一斉に戦闘に参加していく。


 そんな中前線に突っ込んでいった黒い体毛をした獣のような能力者が、最前線の方から何人かの負傷者を連れて下がってきていた。


「負傷者の回収をします!息がある人間だけ連れてきますから後送してください!」


「あ、あぁ、頼もしいが……最前線は危険だぞ!」


「うちの司令官が暴れ散らかしてるんで大丈夫です。全員あの人に引き付けられてる!」


 引きつけられている。その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。


 少なくともその言葉の意味を理解できていたのは直接やり取りをした、かつて周介とともに行動したことがある人物だけだった。


 周りに存在感を放ち続け、誰もその存在を無視できなくなるのだ。強く発すれば威圧となり、弱く発すれば存在感になる。


 実際に活躍しているかどうかは重要ではない。そこにいるだけでそれを無視できなくなってしまう。


 その証拠に、先ほどまで川を越えようと向かい続けていた特殊個体の群れは周介を目指しているように見える。


 それと同じ状況を見たことがある。多くの能力者犯罪者が周介めがけて襲い掛かり、それをすべて回避して囮として活動し続けるその姿を彼だけは知っていた。


 そんな中、次々と日本の能力者たちが上空から降り立ってくる。


「司令官!頼むからよぉ!一人で先行してんじゃねえぞ!俺らが叱られるだろうが!」


『お前らが遅いのが悪い!現地部隊のフォロー急げよ!川沿いで防衛してるそうだ!ここの防衛ライン作り直す!全員戦闘開始!』


 周介の叫び声に、日本の能力者たちは即座に行動を開始していた。








「よぉ、久しぶり。随分と大変なことになってるな」


 川沿いでの戦闘が激しくなっている中、青い体毛をまとった六腕四脚の獣が将軍の前に現れる。


 一瞬特殊個体ではないかと何人かが警戒して銃を向けるも、将軍はすぐにそれを下げさせた。


「お前というやつは……いや……まずは救援に感謝する。だが、まさかこれほど早く駆け付けてくれるとは思わなかったぞ。手続きは本当に大丈夫なのか?」


「文句は後でちゃんと聞いてやるさ。さすがに国同士の取り決めを破ると後々面倒だからな」


 さすがの周介もそのあたりはわきまえていたのかと、将軍はため息を隠さない。必要な書類の日付を遡って作らせている時点でだいぶアウト判定なのだが、周介はそのあたりをまったく気にしていないようだった。


 書面の記録上は問題ないように書類を作るだけの話だ。おそらく後程イタリア側には一か月以上前の日付で救援要請の書類を作るようにと指示が飛んでくることだろう。


「それにな、こんな話を聞いて俺がそんなに悠長にしてると思ったか?」


「……思わなかったがな。思っていたよりもずっと早かった。日本の誰かしらに止められただろう?」


「もちろん。いろんな人にやめておけって言われた。けど個人的に散歩に行くのを誰も止められないだろ?」


「散歩?」


「一日で帰ってこられる距離なら、十分散歩っていえるだろ?」


「随分と遠い散歩だな。お前にとっては外国に行くのも散歩か」


「同じようなもんだよ。うちの若い連中引き連れて、ちょいとハイキングだ。レクリエーションとしてはなかなか興が乗ってると思わないか?」


「……爆炎と轟音が響くハイキングはこちらとしては遠慮したいところなんだがな……」


「そういうな。とにかく巻き返すぞ。俺らが前を請け負っている間に立てなおせ。そうしないと、全部俺たちが倒しちまうぞ?」


 最前線の衝撃がこちらにも響いてくる。相当な能力者を連れてきたのだろう。そして何機もの巨大兵器を持ち込んだのだろう。それだけで大問題になりそうな構図だが、それが今は助かるのも事実だった。


 そして、このままだと本当に特殊個体の群れを一掃してしまうという言葉に偽りがないこともわかってしまう。


「総員!日本からの援軍が、ラビット01が手勢を率いて現着した!立て直しを図り畜生どもを押し返すぞ!奮起しろ!こここそが我々の最終防衛線と知れ!」


 将軍の言葉にイタリア軍の士気が上がっていく。


 自分たちだけではなく日本の、しかも世界屈指の能力者が仲間を率いて助けに来てくれたとなればそれも当然だ。


「ラビット01、前に出ているそちらの人間と無線をつなぎたい。中継できるか?」


「そっちの無線機介入していいなら直通でつなぐぞ。砲撃のタイミングだけ教えてくれればうちの連中はうまくやる。あのデカいのは俺の機体だから、あの辺りにはうちの連中はいない。好きにぶちかませ」


「いいのか?壊してしまうかもしれんぞ?」


「壊せるものならどうぞ?うちの最大戦力でも壊せない代物だ。通常兵器で傷一つでもつけられたら褒めてやるよ」


「くそ生意気な……その言葉後悔するなよ?総員!連携を取って押し返せ!あの獣どもを全員肉塊に変えてやれ!」


 将軍の言葉に、態勢を整えたイタリア軍や能力者たちが一斉に攻勢に移る。


 押しつぶされそうになっていたところを一気に押し返し、川沿いの部分まで取り戻しつつあった。


「ラビット01!お前はどれくらいここにいられるんだ?」


「正直そこまで長くはないな。さっきも言ったけど日をまたぐと面倒だ。そっちの書類作る人間がさっさと裁決してくれるなら、正式に援軍として活動できるけど」


「うちの政治家連中がそこまで仕事が早かったのなら、俺たちはもっと楽ができていたんだがな……おそらく今日中には無理だろうよ」


 国を超えての申請というのはそう簡単に行えるものではない。いくら一大事とはいえそれを決議するのに必ず何人か通さなければいけない部分があるのだ。


 だからこそ時間がかかる。普通に考えて国の一大事なのだからそのあたりをすっ飛ばすべきなのだろうが、それができる個所とできない箇所があるのだ。


 むしろ周介の行動は本来の流れから逸脱した行為だ。屁理屈を言ってこの場にやってきたことそれ自体が、普通に違法行為に他ならない。何せ勝手に他国にやってきているのだ。不法入国と言われればそこまでである。


「なら、今日中には一度帰らなきゃいけないな。あいつらの侵略は昼夜問わずやってくるのか?」


「さすがに夜は勢いが衰える。夜行性の特殊個体だけになるからな。だがそれでも面倒なことには変わりがない」


「なるほど……じゃあ今のうちに数を減らしておかないとな。もう数機出すか。一気に叩き潰す……キャット、あと五機ほど出すぞ。あの辺り一帯更地にしてやる」


「……自然破壊をあまりしてくれるなよ?」


「そうも言ってられるか。少なくとも三十六時間は攻めてこないように徹底的に潰しまくるぞ。お前ら、機体増やすからな!巻き込まれるなよ!」


 無線の向こう側から周介を非難する言葉が飛んでくるがそんなものは聞いていられない。


 ラビット隊たちとイタリア軍の奮闘により、一体に出没していた特殊個体の巨大な群れはひとまずある程度殲滅に成功することとなる。


 当然、その後周介に対して方々からクレームと感謝が届くことになるのだが、それはまた別の話である。


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