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おまけ 短編集  作者: 池金啓太
アロットロールゲインafter 短編『世界の変わり目を憂う兎』
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いざ散歩へ

「司令官、どうしたっていうんですか?ご立腹ですか?」


「怒ってるわけじゃない。急いでる。製作班のところに行くぞ」


「へ?いや、そりゃ構いませんけど……またどうして?」


「急ぎの仕事ができた」


 周介は供回りの隊員を引き連れて製作班の下へ急ぐことになる。その仕事内容を聞くよりも早く、彼らは方々へ連絡を始めていた。


「はい、司令官が製作班の下へ……はい……司令官、今日は風見所長はいらっしゃらないそうです」


「そりゃ残念だ。久しぶりに顔を見たかったんだが……」


 ずっと海で活動していたこともあって、周介はしばらくドクの顔を見ていない。そして同時に家族の顔も。


 急ぎの仕事ではあるが、せめて家族の顔くらいは見てから再び向かいたいところではあった。


「フシグロ、さっきの連絡に返信しておいてくれ」


『了解。すぐに行くの?』


「すぐは無理だ。準備が必要だろ。その準備をさせてる間に、家族サービスくらいはしないとな」


『家族サービスって歳でもないでしょうに。もう熟年夫婦の癖にいつまでたっても……子供だって自立してるんでしょうが』


「それとこれとは別問題。久しぶりに帰ってきたんだ。次もまた時間かかるかもしれないからな……少しは帰らないと怒られる」


『そう。それでどう返信するの?』


「可能な限り急ぐって返しておいてくれ。わざわざ俺のホットラインを使うくらいだ。たぶんだいぶ急ぎ案件だぞ」


『了解。返しておく』


「それと、可能な限り現地の情報を集めてくれ。方法は問わない」


『いいの?この間それで結構揉めたじゃない』


「今回はそれを向こうが求めてるんだからいいだろ。もし文句を言われたら俺の命令でやったってことにしておけ。始末書でも反省文でも何でも書いてやるから」


『……あんまりそうやって無茶ばっかりやってると、また議会を怒らせるわよ?』


「人命第一だ。俺相手に口出しする暇があったらもっと別のところで文句垂れてほしいよ。こっちはいつだって人助けしてるんだ。その結果多少書類が増えるくらいは目をつぶってほしいね」


『はいはい。情報はピックアップしておくわ。移動中にでも目を通しておいて。結構深刻な状態みたいだから』


「サンキュー、いつも助かる」


 フシグロがいつもの調子で調べ上げてくれた情報に、周介もいつも通りの調子で応える。


 この関係も長く続いたものだと思いながらも、必要事項が記載されている情報を端末から確認していく。

 その会話が終わったのを見計らって隊員が前へと躍り出る。


「司令官。車を用意させました。製作班のところへ直行できます。それが終わったらご自宅へお送りします」


「ありがとう。悪いな急に無理を言って」


「構いません。艦隊はどうしますか?」


「難民の支援を行い、それと並行して補給を済ませろ。補給が完了したら移動する。航行ルートはツクモを経由して提示する。それを確認してから各方面への調整を済ませておけ。俺は先に行く」


「先に行くって……支援と補給の方が先に終わる可能性だって……」


「俺がそこまで悠長に待つと思うか?」


「…………いいえ。思いません」


 先ほどの会話からして急ぎの案件であるということはなんとなくわかっていた。であれば周介が難民の支援や艦隊の補給が終わるまで悠長に待つはずもない。


 製作班の下に向かうのも、つまりはそういうことだ。どんなに高い地位を持ってもどんなに歳を重ねても、問題があれば飛び出していく癖は変わっていないのだ。


「艦隊には支援物資を山ほど積み込め。補給物資申請は最優先だ。他の部隊を押しのけてでも確保してくれ。医療品、食料品なんかを大量にだ」


「司令官……あまり割り込む形で大量に注文すると、キャット隊の方から文句言われますよ?ただでさえうちの艦隊はお世話になってるのに……」


「俺の名前を出せ。今度何かの形で返す」


 周りの部隊との軋轢を生む可能性もあるが、周介がこれほど強引に話を進めようとするのも珍しい。

 それだけの緊急事態なのだということを隊員も理解して小さくため息をつく。


「わかりました。方々への調整はこちらでやっておきます。ですが、先に行くといっていましたけど、まさかお一人で行くつもりですか?」


「それこそまさかだ。暴れたいやつがいるだろうから連れていくよ。大太刀の何人かに声をかけておく。暇そうなやつであれば付き合ってくれるだろ」


「付き合うって……一応聞いておきますけど、何をしに行くんですか?」


「……散歩?」


 周介が言う散歩という言葉ほどあてにならないものはない。


 今度は世界のどこに行くつもりなんだろうと、そんなことを考えて隊員は非常招集のコールを鳴らしていた。


 ラビット隊の主要メンバーに伝わる非常招集だ。彼の行動は大げさかもしれないが、正しいのも間違いなかった。


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