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おまけ 短編集  作者: 池金啓太
J/53 after 『Kfrom0』
2/24

武藤真一の日曜日

「やぁおはよう。君にしてはずいぶんと早起きだね」


体を起こした真一に対して声をかけたのは寮で同室のネイロード・パークスだった。勉強机の上に置いてあるパソコンを操りながら、視線をわずかにこちらに向けている彼に対して真一があくび交じりにおはようと返事をすると、ネイロードは笑いながら頭を軽く指さす。


「寝癖ができてるよ?随分と個性的なのが」


「ん・・・そろそろ髪切るかな・・・?えっと・・・なんでこんな時間に・・・?」


時計を見ると、まだ七時にもなっていない早朝だった。今日は日曜日だというのに、なぜこのように早い時間に起きてしまったのか、真一は自分の記憶を探っていた。


だが寝起きということもあって頭がうまく動かない。未だ朦朧とする意識の中、再びベッドに倒れそうになる体を誰かが抱き留めた。


「マスター、おはようございます。二度寝はダメですよ?」


先ほどまでいなかったはずの人物が唐突に現れたことに対して、真一もネイロードも驚かない。


真一は目の前にいる金髪の女性を眠そうに目をこすりながら見る。夢の中にいた女性と同一人物であることは間違いなかった。


オルビア・リーヴァス。真一と行動を共にしている霊装。人ならざるもの。


さも当然のようにオルビアは真一の着替えを手伝い、あっという間に身支度が完成してしまっていた。


「オルビア、今日の真一のスケジュールはどうなっているんだい?」


「本日のマスターのご予定は、午前中は剣術の訓練、午後は人と会う約束があります」


「へぇ、真一が人とねぇ・・・それは面倒な案件かい?」


「いえ、あらかじめ決めてあった予定で、お会いする方はとても素晴らしい方ですよ?」


「オルビアがそういうなら間違いなさそうだね。ほら真一、そろそろシャキっとしないとまたどやされるよ?」


当人のスケジュールを当人に聞かずに霊装であるオルビアに聞いている時点で彼らの力関係が若干わかる中、真一は眠気がとれない目をこすりながら大きく欠伸をする。


「あぁ・・・わかってる・・・でもまだ七時にもなってないだろ?今日日曜日だぞ?昼くらいまで寝てたいんだけど・・・」


「気持ちはわかるけどね。もう予定がびっしり組まれているようだよ?マネージャーがいると忙しいね」


すでにオルビアは真一の身支度を完璧に終えつつある。あとは朝食を用意するだけなのだが、あいにく三人がいるこの寮室には食事を作ることができるような設備は搭載されていなかった。


喜吉学園の男子寮。真一たちがいる部屋から朝食を作ることができる場所までは少し移動しなければいけない。


日曜日であっても寮の食事は出るのだが、時間が決められているためにたいていはコンビニで済ませてしまうところである。


もっとも、真一のマネージャーというかメイドとかしているオルビアがそのような食生活を許すはずもないのだが。


「というか・・・なんでネイロはこんな時間に起きてるんだ?早起きすぎないか?」


「ん?いやぁ見たい生放送があってね。日曜日だってのに五時起きだよ。うるさくなかったかい?」


「夢見は良くなかったけど・・・別にうるさくはなかったぞ?爆発とかそういう音はしてたか?」


「いいや?そういう番組ではなかったなぁ。夢の中で爆撃されたのかい?」


「爆撃っていうか爆発っていうか・・・最後は殴られた。殴り返したけど」


「それはなかなかバイオレンスな夢だね。そんなにうなされていたようには見えなかったけど・・・?」


「そうか?・・・そういえばその夢にオルビアも出てきたぞ」


「私が・・・ですか?」


夢の中に自分が出てきたと言われ、オルビアとしては悪い気はしないのだろうが、爆発やらが起きていた夢に登場したということもあってその心境は複雑なようだった。


もう少し穏やかな夢に登場したかったものだと小さくため息をついている。


「あぁ・・・なんかと戦ってる夢でさ・・・変な鬼みたいなやつ」


「鬼か、いつの間に桃太郎にジョブチェンジしたんだい?犬と猿と雉を仲間にしなきゃ」


「あ、そういえば犬っぽいのが最後に出てきたな。最後にその犬にまたがったところで夢が覚めたんだよ」


夢で見た光景を思い出しながら真一はあくびを噛み殺す。夢を思い出しているおかげか徐々に思考がクリアになりつつあった。


とはいえ夢の展開が突拍子もないのはいつものことである。


「おぉ、まさかの桃太郎展開だったとは。っていうかまたがれるってことは相当大きいよね?どっちかっていうともののけ的な感じかな?」


「声は全然聞こえなかったな・・・鬼もなんか喋ってたっぽいんだけど全然聞こえなかった。それに俺の左腕機械になってたし」


「なんだかすごくハチャメチャな夢だね。夢診断にでも出してみるかい?」


「碌な結果にならないだろうからいいよ・・・とりあえず飯作ってくる・・・コーヒーとかいるか?」


「お願いしようかな。砂糖とミルクありありで頼むよ」


「あいよ。相変わらず甘党だな」


真一はオルビアを伴って部屋から出て給湯室へと向かう。同じように寮の中でも起きている寮生がいるのか、ところどころから声が聞こえていた。


能力者の専門学校、喜吉学園高等部男子寮。真一がいる場所はほかの学校と少しだけ違うかもしれない場所である。



もうすぐこの寮で生活を始めてから一年になろうとしていた。オルビアと出会ったのがちょうど一年と少し前。いつの間のにか環境も大きく変わったなと思いながら真一は自分の周りを見渡す。


「そういえばオルビア、人に会うって言ってたけど、それって誰だ?誰かと会う約束なんて俺してたっけ?」


朝食を食べ終え、ネイロードに砂糖とミルクをたくさん入れたコーヒーを届けた後、真一は自分の机に座って自分のスケジュールの書かれているカレンダーを見ていた。


そこには今のところ今日は何も予定は書かれていない。


「いえ、マスターは約束はしていません。あらかじめ決まっていた予定ですね」


「え?先生とかからか?やっべ、全然覚えてない」


呼び出しや大事な用事を忘れていたのだろうかと真一は自分の脳内にある記憶を探っていくのだが、どうしてもその約束を思い出すことができなかった。


もしその約束をオルビアが忘れていたらと思うと背筋が寒くなる。


面倒なことが多いとはいえ、ある種の仕事のようなものであるために忘れてしまうとかなり大変なことになるのは目に見えていた。


「いいえ、教師陣からの要請でもありません。あえて言うのであれば・・・私個人の約束のようなものでしょうか」


「約束?オルビアが?いつの間に?」


オルビアは基本的に真一と一緒にいる。表に出られない時も真一の持つ霊装『歪む切札』の中に入っているのだ。


オルビアと出会ってからもうかなりの時間が経つが、真一は一日の内、二十四時間ずっと一緒にいる状態をずっと続けているようなものだ。


そんな常に一緒にいるはずのオルビアがいつの間にか自分の知らない誰かと約束をしていたというのは驚きである。


「へぇ・・・じゃあ俺が行く必要はないのか?」


「いえ、実は先方もぜひマスターにお会いしたいと・・・なので申し訳ありませんが一緒に来ていただけると」


「ふぅん・・・まぁいいよ。特にやることもないし。会いたいって言ってるのは俺だけ?ほかのやつは?」


「そうですね・・・ネイロード様、良ければ一緒にいらっしゃいませんか?良い出会いがあるかもしれませんよ?」


「ほほう?良い出会いとな?それはなかなか興味深いじゃないか。そういわれたら行くしかないね。僕も一緒に行こう。場所は?」


「ここからそこまで時間はかかりません。昼食を食べながら向かうことにしましょう。それまでは訓練です」


「あ、訓練なのは変わりないのね・・・ネイロ、どうせなら訓練も一緒に」


「すまない、午前中は録画したアニメを消化しなきゃいけないから忙しいんだ。午後から一緒に行動するよ」


「この野郎、どうせなら一緒に汗を流せよ」


「今日は日曜日だよ?何が悲しくて休みの日にまで汗を流さなきゃいけないのさ。僕は今別世界の女の子たちに夢中なんだよ」


堂々とそんなことを言ってのけるネイロードに真一はどう返答すればいいのかわからなくなってしまっていたが、他人の趣味にとやかく言う権利は真一にはない。


とはいえ、同じ班の人間としてやはり一緒に訓練しておいたほうがいよいのではないかという気持ちもある。


「マスター、時間が惜しいです。早く参りましょう」


「わかったから引っ張るなって。っていうかなんか妙に今日はテンションが高い気がするんだけど、気のせいか?」


「気のせいです。どうかお気になさらず」


オルビアはそういうが、いつもより少しだけ勢いがいい気がする。今日会う人物がそんなに気がかりなのか、それともその人物に真一を会わせるのが嬉しいのか、どちらにせよ真一にとってはやることが変わるわけではないためそこまで気負う必要がないように思えてならなかった。


「オルビア、いつも俺がお前をもって訓練してるけど、たまには違う武器とか使わせてくれないのか?」


「マスターは、私ではご不満ですか?」


「いや、ご不満ってことはないけどさ、たまには別のものを使ってみたくなるというか・・・基本剣ばっかりじゃん?」


「私の本体が剣ですからね。それも致し方ないかと」


真一は基本的にオルビアを使って戦っている。この戦闘方法はこの一年で作り上げたものだが、その体の技術的な成長は何も訓練だけで培ったものではないことを真一は何となく理解していた。


今朝も見たあの夢。夢を見るたびに真一の動きが洗練されていく。かつてオルビアの主だった人物、その夢ではないかと別の霊装の所持者は言っていた。そういった人物の経験を抽出し、自分のものにすることがあるともいっていた。


もしそうだとしたら、真一はかつての英雄の技術を身につけつつあるということになる。


あのような炎の化け物と戦うようなことはしたくないが、それだけの力を見につけなければ自分が危ないのではないかとそう思えてしまう。


「さぁマスター、構えてください」


真一とオルビアは修練に良く使われる体育館に到着するとそれぞれ準備を進めていた。


「これから人と会うなら少しは手加減してくれると嬉しかったりするんだけどなぁ」


「それはそれ、これはこれです。それに負傷を気にする必要はありませんよ。怪我をしていても隠せばいいだけの話ですから」


最初はもっとおとなしかったのに何でこんなにアグレッシブな気質になってしまったのかと、目の前で騎士姿になり、木刀を構えたオルビアを見て真一はため息をつく。


生きた霊装。この世に一つしかない騎士の剣。真一はオルビアの本体である剣を構える。


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