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侍女と少女

……この世界に来て1日が経った。


目が覚めた時は元の世界に戻ってきてる事はなく個人で使うには無駄に広い豪華なベットで眠っていた事を認識すると昨日の出来事は夢ではないのだと思い知らされた。同時に良い眠気覚ましとなってくれたものだ。


メイドさんが用意してくれた柄の無い鼠色のパジャマから綺麗にしてくれた私服に着替え、既に準備が出来ている朝食をモソモソと食べ終える。最後に白涙血(シロバチ)を飲んだ所でお迎えのメイドさんがやってきた。


「おはようございます勇者様」


そのメイドさんはトュエリーさんであった。何のお迎えなのかと言えば王様の面談である。昨日の夜に王様から重要な話しを今日に行いたいと伝達として遣わされたメイドさんに言われていたのだ。特に断る理由もないし首を縦に降って承諾した。しかし面談とは言っても俺と王様だけではない。トュエリーさんも交えて話しをするとのことだ。主な内容としてはあの少女についての事であり、侍女となったトュエリーさんも聞く必要であるとの事だった。


「昨日は申し訳ごさいませんでした」


挨拶の次に出た言葉は謝罪であった。その謝罪の理由は少しばかり心当たりがある。


「トュエリーさん。顔を上げてください」


なるべく優しい口調で相手に非が無いように事を進める。なんたって謝られる理由は些細な事であるからだ。


「あなたの事は他のメイドさんや王様から聞きました。しかし責めるつもりはありません。昨日の行動は勇者の為にと耳にしてます。それに娘さんの話しで嘘を付いたのは気を使わせまいとの嘘であったと思ってます。これ以上の事情は聞きませんが気になさらないで下さい」


「……お気遣いありがとうございます」


「いえ、こちらこそ」


ひとまずこれでお互いのわだかまりもスッキリしただろう。そろそろ移動をしようじゃないか。


「では……これといった準備も無いので早速(さっそく)王様の所まで案内を願えますか?」


「はい」





┿┿┿





だだっ広い城内を歩き続けて数分。朝から鎧を着こんだ騎士やら可愛いらしいメイドやら格好いい執事やらとスレ違う(たび)に頭を下げられた。そんな長く続く廊下に歩く道を導く赤色の絨毯(じゅうたん)。それには自分の美的センスでは訳の分からない模様が描かれている。そして窓ガラスから目に刺激を与えることもない柔らかい陽が降り注ぎ、所々に置いてある花瓶に挿された花からなのか落ち着く香りが漂ってくる。昨日は考え事であまり周囲を見渡して歩くことはしなかったけども……なんだろうな、普段あまり見ない光景と空気を感じてるだけでも新鮮で楽しく思える。この場所から出る機会は無いかもしれないが城の外はどのような世界か広がっているのか物凄く興味が沸き上がる。


「勇者様。こちらの部屋となります」


更に歩いて数分。どうやら目的地に付いたようだ。トュエリーさんは足を止めて振り返ると右手の方にある扉であると教えてくれる。


「勇者様をお連れしました」


扉をノックして確認が行われると扉越しから王様の声が聞こえた。入室の許可を頂くとトュエリーさんは両開きである片方の扉を開けて、俺が先に優先して入るようお辞儀で示す。


「失礼します」


その部屋に足を踏み入れると見覚えのある部屋であり応接間であると瞬時に理解した。ソファーに近づき王様からお座りの声を貰い、テーブルを挟んで向き合った。


「一晩過ごされて何か不便はありませんでしたか?」


「特にありませんよ。寧ろ良くしてもらってこちらが畏まってしまうくらいです。王様も昨日と比べて調子は良くなられましたか?」


「ええ、お陰様で。幾分(いくぶん)かは調子が良くなったと思います。昨日は貴殿に気を使わせて貰って感謝してます」


お互い相手の心配事をあれこれと会話をしてる最中に扉のノックが聞こえた。王様はそれに対応してトュエリーさんがティーポットやお菓子を乗せた台車を中にへと運ぶ。


「サントシタード。自分の分の紅茶も用意して勇者様の隣に座りなさい」


「……で、ですが」


「今の貴方はただの使用人でない。“勇者様の侍女”です」


「は、はい」


「恐れ多いのであれば私の隣でも宜しいですよ?」


「え、や……え」


あたふたと困った顔をするトュエリーさん。ここの使用人の礼儀作法は知らないから口をだすつもりは無いけども王様の言葉は予想外だったのだろう。でもまぁ確かにトュエリーさんも話しを聞くというのであればずっと横で立ってもらうのはちょっと気になる。座って楽にしてもらいたものだ。でも失礼だから躊躇(ためら)ってるのかもしれない。ただの一般人だから遠慮しなくても良いのにと言いたいけども相手にとってはそうはいかない。かと言って王様の隣ももっと座りたくないだろう。


仕方ない……ならばこうしよう。


「隣に座ってもらっても平気ですけど……なんなら僕が王様の隣に座ってトュエリーさんがこっちに座るのはどうです?」


「そ、それだけは御勘弁してください!」


中々良い助け船を出したつもりが何故か必死の表情で断られた。……そんなに嫌だったのかな。肩書きは勇者と王様だけど見た目はくたびれたオッサンと風格のあるオッサン二人に向き合うだけだぜ。日本で例えると総理大臣に天皇様と向き合うもんか。何喰わぬ顔して座れ…………ないね。簡単に言っちゃってごめんなさい。


そんなトュエリーさんは色々と考えた末、俺の隣に座ることになった。紅茶とお菓子をそれぞれに用意すると恐る恐るとソファーに腰掛ける。


「では。揃いましたので昨日の続きを含めて話しをしましょうか。その前にサントシタード。貴方にも昨日の事を粗方(あらかた)言っておきましょう」


俺もお復習(さらい)として耳を傾けた。何故裏召喚が行われたのか。その裏召喚の切っ掛けは王様の我が儘から始まった出来事であると全てを伝えた。


「不甲斐ない王で本当に申し訳ないと思ってます」


そして最後に頭を下げた。俺に対してではなくトュエリーさんに向けてだ。


「お、王様! お止めください!」


勿論それを使用人にである彼女は全力で止めに入った。それでも(かたく)なに王様は顔を上げる様子はない。それに困惑するトュエリーさんはこちらを見て助けを求めてきた。


「どうか謝罪を聞いてあげてください」


そう言ってあげると諦めた表情となり姿勢を(ただ)して王様と向き合った。きっとケジメをつけたいのだろう。だから聞いてあげようよ。


「私は王として間違った選択をしているのだと理解していました。勇者様に助けを求める民がいるのに……それなのに私は拒んで勇者を誕生させず終わらせるつもりでいました。それがこんな結果に導くだなんて。愚かな王と言われても返す言葉もない」


「そんな……愚かだなんて決してございませんよ。王様が選んだ道は必ずしも間違いとは言い切れません。ですからそう悲観になさらないで下さい」


「それでもこうして謝りたいのです。私の思惑を止める為に妻が身を削ってまで(おこな)った裏召喚を無視して国民に真実を伝えるだなんて……今の私にそんな気力はありません。優柔不断で身勝手だって分かってます。これで許されるとは思ってません。ですから王の元で働く使用人ではなく一人の民として耳にして欲しいのです」


……当初の王様は国民に非難されようと他の国に何を言われようと全て受け止めて前を歩く覚悟があったのは知っている。けれど今はもう違うのだろう。既にそのような意思が感じられない。残っているのは虚脱感と自分のやるせなさに違いない。


「本当に申し訳ございませんでした」


だからこそ許す許さないを関係無しに謝罪をしなければ気が済まないのだと思う。


「……侍女になってから覚悟は決めていました。王様の(おこな)ったことは口にするつもりございません。ですが……お願いがございます」


「なんでしょう?」


「勇者様がこの国に生まれなくとも国民を良い方にへと導いて欲しいのです。このご時世で難しいことを口にしてしまいますが出来るだけ人々を辛い思いをさせないで頂ければと」


「……心配しなくとも元よりそのつもりです。ですが今ここで約束しましょう。だれも不幸にはさせないと。辛い思いをさせないと。そして……貴方にあった過去の出来事を繰り返さない為にも身を尽くしてやるつもりです」


王様のその返事にトュエリーさんは感謝を口にして頭を下げる。傍らで見ていた俺はどうなるのかと不安になっていたが丸く収まって安心した。昨日の事もあって二人とも豹変して怒鳴りあったらどうしたものかと恐い思いをして眺めていたのは誰も知るまい。


一段落ついた所で俺は紅茶を一口飲んだ。


「……では本題に入りましょう。今日呼んだのは裏召喚によって呼び出された勇者様についての事です」


緊張感が漂った。主に隣の方からだ。チラリと横を見ると先程よりも真剣な目付きになってらっしゃる。


「あの勇者様なのですが……勇者として力を授かりこの世界に過ごすべきではないかと」


「そ、それは一体どういう事ですか!?」


「まずは落ち着いて聞いてください。その考えに至る理由をイチから話します」


トュエリーさんと同様に俺も驚いた。巻き込みたくないと勇者としての力を与えてしまうのは嫌がっていたはずなのに。


「当初は私も元の世界に帰すつもりでいました。しかしこのまま本当に帰すのは良いのかと疑問に思ったのです。その理由は二つあります。ひとつは亡くなられた親族の方についてです」


亡くなられた親族。それは少女と共に来た老婆の事だろう。一日経っても未だにあの光景は脳に鮮明として焼き付いてる。


「誰によって殺されたのか。それが問題なのです」


「ま……まさかとは思いますが私達の誰かが手を下した方が存在すると言うのですか?」


「いえ、その可能性は低いでしょう。私が治療する際に近づいた時の勇者様の反応は極度に人に怯えて誰も近づけないように遠ざけようとしました。それはきっとこれ以上誰かに傷付け無い為の行動だったのでしょう。それに亡くなられたお祖母様の遺体を調べた所、鋭利の様な刃物がお腹よりも背中に幾つもありました。もしかすれば召喚する前に何かあったのかもしれません」


それを聞いて何処か安堵するトュエリーさん。自分達のせいであったらどうしようかと不安を抱えているのを知っていたので俺も少し安心する。しかし……可能性が低いという言葉が引っ掛かる。王様達の誰かが殺した可能性が僅かばかりあるという事になる。


「そこで貴殿に聞きたいのですが。昨日も聞いた通り貴殿の世界は平和なのですよね? あのように誰かを傷付ける輩はいるのですか?」


「ええ、いますよ。平和と言っても争いが完全に消えた訳でもありませんし悪人がいなくなった訳でもありません。僕の住む国は他と比べて治安は良い方ですけどそれでも犯罪は起きます」


「なるほど。そうなるとあの勇者様は余計に帰しづらくなりますね」


「何故ですか?」


「帰したとしても勇者様のお祖母様を傷付けた人物に狙われるかもしれないと危惧してるからです」


場の空気が少し変わる。トュエリーさんもあの少女の状況が把握したからだろう。王様の言う通り確かにこのまま帰すのも躊躇(ためら)われる。


「だからですね。勇者の力を手にしなければいけないとご判断なされたのは」


「どういうことですが?」


そこで王様の考えを理解したトュエリーさんに疑問を投げた。


「現在勇者様は体調が悪くなられないよう白涙血(シロバチ)を口にしてらっしゃると思います。勿論あの幼き勇者様にも体調を崩さぬように多くの栄養を摂取をしてられますが幼い故に白涙血(シロバチ)や私達の魔法だけでは長い期間で(やまい)を防ぎきる事は難しいのです。過去にそういった文献がありまして命を落とした者が多くいたと記されていました。ですが……勇者として力を手にすれば話しは変わっていきます」


確か全盛期以上の力だったよな。具体的にどんな力を与えられるのかはしらないけども仮の勇者から真の勇者として力を得れば(やまい)によって死ぬ事はほぼありえなくなるらしい。元の世界に帰れるまで残り四日は残しているが例え体が幼くともそれまでは余裕で耐えきれるという話しだ。……でもそうは簡単に事を進めることは出来ない。少女が帰った所で親族であろう老婆を襲った人物にまた狙われかねないからだ。


「でも……勇者の力を手にしたとしても魔王が倒されるまで元の世界にへと帰ることが出来なくなる。確かそんな条件がありましたよね?」


「ええ。それも頭を悩ませてるのです。一、二年で片を付けれる問題でもありません。十年……二十年と長い時間を費やすことになるかもしれない。勇者様とは言えまだ何も知らない小さな女の子です。私達の都合で争いに巻き込ませるのは残酷でしょう。出来れば貴殿の平和な世界に帰したいものです」


しかし……元の世界にも危険性がある限りそういう訳にもいかないのが今の現状。


「何か他の方法があったりは?」


「……現時点では幼き勇者についての情報が不足してます。ですから勇者として力を与えて私達の元で守るという選択肢が一番マシという考えになっています」


その言葉で皆は口を閉ざして思考に耽る。他に何か道はないのか手はないのかと頭を捻ったとこで良い案が浮かばない。


「……先程も言いましたが情報が不足してます。元の世界で何があったのか。本当に誰かの手によってあのような事が起きたのかは本人から聞き出せば対策や別の方法があるのかもしれません」


自ら作った沈黙を王様自身で破り、会話が再開する。ずっと黙った所で何か進展するわけでもないから仕方がない。それにこうやって俺やトュエリーさんを呼んだという事は自分の考えより良い案を聞き出すつもりだったのかと思えばそうではなさそうだった。


「ですが……親族を失ったショックがデカいせいかあまり口を開いてくれません。何とか食事はしてくれますが私達の事をずっと警戒してる様子。そこでなのですか……貴殿とサントシタードに手を借りたいのです」


「力になれるのでしたら快く手を貸しますよ」


「私も何か手伝えることがあるのでしたら是非とも」


「ありがとう」


昨日あったばかりの子かもしれないが……手を貸せる所は幾らでも手を貸そう。俺みたいな駄目な中年よりも若い子の将来を守る方が価値があるってもんさ。


「手を借りるとは言っても少女との会話に同席して欲しいのです。同性であるサントシタードが居てくれれば多少の警戒は解けるかもしれませんし同じ世界の人族である貴殿が居るのであれば安心して喋ってくれるかもしれません。私一人でなると恐がられてしまうと思うので」


少し恥ずかしげに言う王様。男性から見て王様は格好いいし寧ろ俺を見て恐がられないのかと不安に思う。


「……本当は子の扱いが手慣れた方と行くつもりでしたが、そう言った方はほとんど年配ですし亡くなったお祖母様を連想させるのも酷じゃないかと思いました。もう少し若い方に頼むとは言え……少女と話しを交えるのであれば裏召喚の起きた真実をうやむやに誤魔化すのも難しくなります。今はまだ真実をバラしてさらに周りを騒ぎにさせる状況にするわけにはいけません。そこで信頼出来る方を勇者様の侍女となってもらって会話に同席してもらおうと考えていたのですが……勇者様の侍女という大役は練れ者の使用人でも躊躇(ためら)います」


ベテランの使用人でも勇者の侍女をするのを躊躇(ちゅうちょ)する仕事。それをトュエリーさんに頼んだのは俺だが王様は渋っていた様子に見えた。でもこうして侍女となってるのは認められたのだろう。


「本当は訳ありなサントシタードにやらせるつもりはありませんでしたが……侍女をやりたいという意思が強く少女を想う気持ちは本物であると思いましたのでお願いしました。何より……貴殿の推薦でもありましたからね」


……いや、うん。確かに推薦したよ。でもその時は娘さんが亡くなってたなんて知らなかったんだよ。こうして王様の話しを聞いて思ってたよりも事態は複雑だなんて予想してなかった。この先で過去を抉るようなことにならなければ良いけど。


「トュエリーさん……本当に侍女をやられて良かったのですか?」


心配になって俺は聞いた。侍女をやったことに後悔されたら頼んだ俺の責任でもある。


「大丈夫ですよ勇者様。ここまで知った以上私は逃げるつもりははございません。ですからご安心ください」


昨日と同じように可愛い笑顔を見せる。それを見せられるとこれ以上何も言えなくる。美人スマイルは卑怯だよな。


「……ひとまず幼き勇者様の部屋に向かうのは全て話しを終えてからのつもりです。先に二つ目の理由も言いましょう」


王様は紅茶を飲んでから間を見て次の話しを切り出した。


「これは主に貴殿に関係ある話しです。昨日の事件後に説明を始める際に確認したかったのですが……」


ここで王様は言うか言うまいか俺の顔を伺いながら悩む。しばらく見つめられた後に口が開いた。


「突拍子な質問をしますが貴殿はこの世界に来る前に……死んだ覚えはありますか?」


「……どういう事ですか?」


唐突に言われたその言葉に理解が追い付かなかった。


「説明をする前に貴殿がこの世界に来る前の状況を教えてもらいたい」


「……わかりました」


こうして動いて生きてるのに死んだって意味がわからない。でも冗談を言ってるわけでもなさそうだ。言われた通りに俺はここに来る前の行動を思いだしながら王様に伝えた。


「昼食を食べようと買い物に行く途中でした」


車に乗る必要もないほどに家から近いコンビニにへと徒歩で向かっていたのは覚えてる。天気は良好で晴れやかだったさ。けれど景色は急に変わった。


「その時でした。気づけば周囲は暗闇に包まれてその空間に自分一人だけ取り残されていました」


「その空間なのですか貴殿にウツシ玉の取り扱いを教えてた使用人から中に入った空間と似ていたと報告があったのですが……本当ですか?」


「ええ。似ていました」


しかし暗闇は暗闇だ。どんな場所でも暗くなれば一緒だと思うけど……それが何故かトュエリーさんは驚いた表情でこちらを見る。


「それは……本当なのですか勇者様?」


「え、ええ」


なんだろうかこの微妙な空気は。触れてはいけないというか人をまるで幽霊を見てるようだ。足はちゃんとあるし生きてるからな。


「では……ここに来る前に何か貴殿に何か変わったことはありませんでしたが?」


「……特に思い当たるような事は何も」


「些細なことでもいいので」


「……そうは言われましても」


「では貴殿以外での周りで事件か何かは?」


何故だか妙にしつこく聞いてくる。昨日もここで王様に誰かに殺された殺されてないかに疑問を持っていないのかと聞いてたのと同じ雰囲気だ。


「……ひとつだけありました」


しかし相手は真剣だ。ふざけるなよと突っぱねるとこでもないので俺は過去の記憶を漁って見つけた。


「最近の話しではないですけとね。結構前にお隣さんに住む老夫婦のおばさんが病気で亡くなったんです」


ありきたりな話しという訳でもないがニュースとかで耳にすることがある。長年連れ添った妻が亡くなって拠り所を失った夫は後追い自殺をする。それを隣のおじさんがしようとしてたんだ。たまたまベランダに出て洗濯物を干してる時にお隣さんの窓をふとして見ると首を吊ろうとしていた。直感的にやばいと思った俺は慌てて隣の家まで走った。何故かドアは空いており躊躇なく中にへと入りおじさんを何とか説得して止めたのだ。そんなことを王様に話してみたが……これと言って表情に変化は無い。


「……何か参考になりますか?」


「いえ、聞いておいて申し訳ないのですか」


「そうですか。……そろそろどういうことなのか教えて頂きたいのですが」


「すみません勝手に話しを進めてしまいまして。……実は言いますとウツシ玉の暗闇の空間は死後の世界と言われてます」


首を傾げる。昨日のメイドさんにはウツシ玉の使い方しか教えてもらっていないので詳しい詳細を求めた。


「ウツシ玉は死者の体を材料にしてまして死ぬ間際の記憶が残されてるのです。最初の一度目しかみれませんが初めて使用する場合は真っ白の空間から始まります」


……平然とした顔で凄い事を言い出したぞ。それっていわくつきじゃん。呪いのアイテムじゃん。


「あの、死者を材料にするって聞こえたのですが聞き間違いでしょうか」


「いえ、合ってますよ。どのようにして作られるか過程を知りたいですか?」


「……やめときます」


生々しく説明されそうなので拒否。あまりそういうのは耐性がないので聞きたくないよ。


「そうですか。……それでですがその白い空間にしばらくいますと死の瞬間が見させられるのです。それを見終わると周りの景色は暗闇となります。元の白い空間に二度と戻ることはありません。何故そのようになるのかは解明されていませんが私達の解釈としてはそれが死者の最後の行き着く先として見る最後の光景と考えて死後の世界と言われています」


「……なるほど」


だからか。俺がウツシ玉の中の空間と似た場所に居たと聞いたあのメイドさんが驚いていたのは。確かに聞きにくいよな……お前は死んだのかって質問するなんて。


「それがあってこの世界に来る以前に死に覚えがないのか聞かれたのですね」


「ええ。……昨日ここで貴殿の口から暗闇の空間に居たと聞いた時はまさかと思いましたが私の考え過ぎなんだと自己解決してたのですけどね。他の勇者様からはそう言った話しを見受けられませんでしたので」


「ではなんで……」


「……それは」


何故か王様は言い淀む。その僅かな瞬間にトュエリーさんを見た後に口が開いた。


「幼き勇者様とお祖母様がああなった原因は勇者召喚の儀式のせいではないのかと疑問に感じたからです」


横を見なくとも気配で大きな反応があった。しかし追及する様子はない。今は冷静になって耳を傾けているのだろう。


「とはいえあくまで可能性です。裏召喚という不確定要素の儀式によってあんな事態を引き起こしたのではないのかと少しだけ脳裏を霞めてしまったのです。……それで早急に原因も解明したいわけですから僅かな手掛かりが欲しくて勇者召喚の儀式に召喚された貴殿に来る以前の状況を問いただしました」


そっか……それでか。昨日あんなにも誰かに手によって殺されたのかしつこく聞いてきたのは。それがもし裏召喚が原因となればいろいろ大変な事になっちゃうよな。美男美女や妻は王様の為にと裏召喚をやった結果が人殺しだなんて。……王様は今どんな心境だろうか。昨日よりかは顔色が良くなったとは言え余計心配になってくる。


「それとひとつだけ貴殿に謝りたいことがあります」


「なんでしょう?」


「様々ある娯楽からウツシ玉を用意したと使用人から聞いたと思いますがウツシ玉の空間に入った時の貴殿がどのような反応するのか知りたくて個人的に用意させました。あれに安全面があるというのはまったくの嘘です。精神的に疲れがありますし本当はもっと気楽に遊べる物を選ぶつもりでした。……調査を優先して裏で黙ってウツシ玉を用意させて申し訳ごさいません」


「……そうでしたか。でも貴重な体験させてもらいましたし中々に楽しめたので気にしてないですよ」


「そう言ってもらえると助かります」


「もしも今後気になることがあるのであれば遠慮なく言ってください。迷惑とか面倒だとか思っていませんので協力出来そうなことは力になりますので」


ここまでくれば何もせず部屋でじっと待って元の世界に帰るのは後味が悪いもんさ。


「……ありがとうございます。貴殿にはあまりを手を煩わせるようなことはしたくはないのですが。その時がくれば改めてお願いします」


ここで間が空き、トュエリーさんは立ち上がってそれぞれに紅茶をカップに注ぐ。それを一口飲んで今までの会話を整理する途中で疑問が浮かび上がった。


「王様……質問を宜しいですが?」


「ええどうぞ」


「素人目線ですみませんがこの世界の勇者召喚の儀式の仕組みや構造はあまり理解してられてない感じでしょうか? 多数の勇者を召喚するのは駄目なのかと思いましたら裏召喚によってそれは可能になりますし。昔から存在する勇者召喚が今更ながら死の原因であるかどうか調べてるなんて過去の偉人は危険性があるがどうか分からず作られたのですが?」


昔からある儀式なのだからせめて危険が伴うかどうかぐらいは分かっているのかと思うのだかそんな風には思えなかった。というよりも制限があるように見える。


「……貴殿は変な所で鋭いですよね。恥ずかしながら貴殿の言うとおり妖精族を除いて勇者召喚を扱う国は誰も詳しい仕組みはご存知ではありません。ですので勇者召喚が原因ではないとハッキリと言えないのです」


「その妖精族から話しは聞けないのですが?」


「連絡を取りたいと思っているのですが……妖精族は人族を毛嫌いしてますので直接に会いに行くとしてもかなり時間を費やしてしまいます」


「……そうでしたか」


魔王討伐に向けて全種族が力を合わせてると話しを聞いてたけど敵が共通してるから表面上だけ協力してる形なんだろうか。


「それにしても妖精族でしか分からない理由って何か訳ありなのですか」


「……ええ。私達人族は過去に勇者様に償いきれない大きな罪を犯しました。それが全ての理由です」


「あ……あの、王様。これ以上の話しは私が聞いても良いのでしょうか?」


トュエリーさんはおずおずと不安な表情で聞いた。


「大規模な魔法である勇者召喚の儀式は悪用されないよう決められた王家の者でしか使えないと聞きます。それに……過去に人族が勇者様に罪があるなど初めて耳に致します。私は席を外した方が宜しいのでしょうか?」


「そのままでいなさい。口外するつもりはないのでしょう?」


「はい」


「なら結構」


何気無く質問したつもりが秘匿性が高いものだったことに若干焦ってしまう。やっぱり聞くの断ろうと提案をしてみたものの……勇者である俺には聞いて欲しいとのことで話しは続行する。


「今となっては勇者様は英雄として扱われ光のような存在になっていますが……遥か昔も魔王の脅威に晒された時代の勇者様は勇者として扱わず奴隷のように扱っていました」


語られるのは過去の話し……それは勇者を人として扱われない悲劇な内容であった。



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