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勇者召喚3

──カチャリ


ティーカップをソーサーに乗せる音が妙に大きく感じさせる。それほど周囲は物静かだからだ。意識をしなくとも鼻息が鮮明に聞こえてくるほどに不気味さがある。この応接間で一人きりになったのは二度目であるが、最初は勇者になるかどうかで頭を悩ませていた為にそんな事に気にはしなかった。耐えられない訳では無いが、こんな空間でずっと一人だと言い知れぬ寂しさを覚えてしまうものだ。


あの広間の騒然から応接間に来て小一時間ほど経ってるので無かろうか。いっそのこと眠ってしまおうかと考えてしまうがそんな気にもなれない。この後どうなってしまうのかと不安があるからだ。それに気になる事もある。


あの勇者召喚された血まみれの少女の事だ。


あの場の空気で聞けそうにもなかったし、王様に状況を整理したいとの事で半ば強制的に応接間にと戻らされたので今は何が起きているのか分からない。何も知らないままこうやってソファーに座らされるのはどうも落ち着かない。


そんな不安を紛らわせる為にまたティーカップを手に取って口元にへと運ぶ。爽やかな味が口内に広がせながら喉を鳴らし一息つかせた。そこでふと何気なく空になったティーカップの底を見つめる。そこには黒色と白色の花が描かれてあった。普段このような物は気にはしないのだが綺麗な絵だと内心で感想を呟く。こんな状況じゃなければ目もくれなかっただろうに。……とりあえず空になった事を伝えるべくテーブルに置いてある振鈴を手に取り、手首を動かしてチリンチリンと可愛らしい音を鳴らした。


「失礼します」


ほんの暫くするとノックと同時にメイドさんがやって来た。話に聞いた通り本当にこんな小さな鈴の音が聞こえてるようだ。もしかするとこの振鈴には魔法か何か施されてたりするかもしれない。


「あの…おかわり貰っても良いですか?」


「かしこまりました」


チラリと空のティーカップに目を向けた後に深々とお辞儀をして部屋から出る。既に準備をしていたのか数秒してすぐにティーポットを持って戻ってきた。


「あの…今王様達は何してるのかな?」


注ぎ終わった頃合いに俺はメイドさんに話しかける。


「……すみません。私はまだ何も知らされてないので分からないのです」


「そうですか……」


本当…何をやってるのだろうか王様達。


「あと…あの子は大丈夫なんですか?」


「あの子? ……二人目の勇者様の事でしょうか?」


「ええ、そうです。ちょっとばかし気になりましたので」


目の前で親族だと思われる人物が亡くなったのだ。あんな小さな子には酷なものだろう。 同じ勇者召喚された身として心配だ。


「今は寝室でぐっすり寝ておられますよ。……よほど疲れていたのでしょう」


「それはよかった。……いや、でも、あの子にとっては良くはないのですね」


何があったのかは分からないけれど、あの少女が無事だとは言え心境は決しては良くはないだろう。大人になった俺でさえも親が亡くなった時は相当なショックを受けたものだ。歳を重ねて精神的に強くなったと思ってはいてもハリボテが大きくなっただけで脆いままだ。もしもあの亡くなった老婆がそれほどに近しい者であればあの年齢ですぐに立ち直るのは難しいかもしれない。


「……でしょうか?」


「……はい?」


そこで俺の言葉に反応してくれたのだろうか。メイドさんの口から漏れるような小さく掠れた声に聞き取れなかったので聞き返すような反応で返した。


「…あの小さな勇者様がああなったのは…やはり私達のせいなのでしょうか?」


震えた声でメイドさんの目が俯く。…そんな彼女に何を答えてやればいいのか思い悩む。俺は俺で何も知らないし、寧ろ教えて欲しい立場だ。誰が悪いのか何が原因なのかさっぱり分からない。


「すみません。困らせてしまいましたね。今のは…忘れてください」


俺の表情を読み取ったのか、お辞儀をして謝罪を行う。


「……頭を上げてください。俺はあなた達を責めるつもりは無いですよ。この世界の事情はある程度王様から聞いてますので」


「……お気遣いありがとうございます」


まだ勇者召喚が原因と決まった訳でもないのにここまで責任を感じてしまうものだろうか。…いや、人が死んだのだ。何も思わないのも可笑しな話しかもしれない。けれど彼女からはそう言った責任の重さよりも召喚された少女に何か別の感情があるようにも感じられる。もしそうでなければ先程の彼女の台詞で『小さな勇者様がああなった』よりも『年老いた勇者様がああなった』で良いはずだ。まぁ、それの何処か問題があるのかと問われると何も答えられない。何か意味があって深読みをしてるつもりではないのでこれ以上は考えるつもりはない。


……と、いつもはそう考えて心の内に閉まっておくのだが王様が来るまでは凄く暇なのだ。もう少しお喋りがしたいが為についついメイドさんにそのことに関して聞こうと口が開いてしまった。


「もしかしてですけど。あの子の事凄く気にかけてます?」


メイドさんはピクリと体を揺らし、動きが一瞬固まる。


「あ、すみません。特に深い意味があって聞いてる訳では無いんです」


そんな分かりやすい動揺にやっぱり聞くべきではなかったのかもしれないと考える。これで何か言いにくい隠し事があるのかと思われるが無理をさせてまで聞きたいほどても無い。


「えっと、言いづらいのでしたら答えなくても」


「大丈夫ですよ」


最後まで言いきる前にメイドさんは微笑んで答える。もしかすると今の俺の発言で逆に言わせるような流れとなったのかもしれない。……少し申し訳ない。


「気にかけてる…というより母親の様な目線で私は見ているのかも知れません」


「母親…ですか?」


「はい。私にはあの小さな勇者様と同じぐらいの歳の愛娘が一人いるのですよ」


「へぇ…」


このメイドさんかなり若く見えるけど子持ちだったのか。


「なのであの時私は凄く動揺しました」


そこで少し長くなると思ったのだろうか。それともメイドとして失礼だと判断をしたのだろうか。持っているティーポットを音を立てず静かにテーブルに置いた。そこで俺は向かい側のソファに座って下さいと促してみたがメイドさんは首を横に振って大丈夫ですと断りを入れて立ちながら話しを続けた。


「あの時というのは召喚の広間での騒ぎの事です。たまたま近くに通りかかった私は何事なのかと中に入りました」


そう言えばあの時の状況を思い返すと、後から執事やメイドさんと言った使用人の人達がチラホラと見掛けた様な気もする。少女と老婆にばかりに気を取られていたのであまり気にはしなかった。その時にこのメイドさんが混じっていたのだろう。


「それで見てしまったと言う訳ですか」


「はい。……本来ならば王様の許可なしに無断で入ってはいけないのですけれど、ただならぬ雰囲気でしたので思わず。今となっては興味本意で何も考えず中に入った事に少し後悔してます」


目に悲哀の色が深く漂せ、顔に憂愁の影が差した。その時見た光景を思いだしているのだろうか。


「血まみれな顔と服。泣き声。怯えた表情。亡くなられた勇者様よりも先に娘と変わらぬ歳の勇者様に目が奪われてしまいました」


握り拳をつくり、唇が震えるメイドさん。自分に子供などいたことも無いので彼女の気持ちを深く理解することは出来ない。ただいろいろと複雑だったのだろう。


「……もうこの話しはやめましょう」


彼女の心情が分からなくても傍目から見て少し無理をしているのが分かる。それでも気が落ち込むほどに話しを続けようとしてくれてるのは俺達勇者に罪悪感を感じているせいなのだろうか。それとも責任感からなのか……。ともかく見ているこちらも辛いのでこの話しを終らせたい。


「……私は、私は」


「……あの?」


けれどメイドさんは俯いてしまう。まだ何か言いたげな雰囲気だ。これはどうしたものかと俺は悩む。女性の扱いは無知なので慰めや気のきいた言葉なんて思い付きやしない。お陰でお互い黙りこくってしまう。


そんな沈黙がやや流れた後にメイドさんは顔を上げた


「……分かりました」


その言葉にこの話題は終りなのだと俺は思わず安堵の溜め息を吐いた。


「すみません。俺からこの話しを振っといて…」


「いいえ。そうじゃないんです」


「え?」


「この会話の途中であの小さな勇者様に抱く本当の感情に気づきました」


「ええっと……」


予想外の話しの流れに少し間を置いて頭を捻って整理しながら考えた。


「確か母親の様な気持ちで見てると言ってたと思いますけど。それは違ったと?」


「……それとはまた別の感情です。私はただあの小さな勇者様の事が恐いのです」


「それは……どうしてでしょう?」


あの子からはそんな印象はまったく受けなかったけども…。というよりあの場面だけで恐怖となる要素は一つも見当たらない。


「小さな勇者様の目が覚めて、こうなった原因が私達のせいだと恨みを籠めた目で見られるのではないかと思うだけで私……」


恐怖を表に出さぬように抑える為か、スカートのフリルを握りこむ。


先程も思っていた事だが、まだ誰のせいなのか分からないのにここまで背負い込む必要は無いのではと言いたくなる。とは言ってもこのメイドさんにとってあの子は自分の娘と重ねて見ているためにそんなことを言ったところで自分の気持ちをどうこう出来る訳でも無いのであろう。


なので俺はそんな責任や罪悪感を捨てろと言わず、寧ろ背負い込んであの子と向きあった方が良いのではないかと考える。


「メイドさん。お願いがあります」


「……何でしょう?」


「あの子の目が覚めたら面倒を見てもらいませんか?」


「……えっ?!」


そんな事を言われるとは微塵にも思っていなかったのだろう。 虚を衝かれたように慌てて動揺する。


「い、いきなりそんな事を言われても私じゃ無理です!」


「あなただからこそのお願いなのです」


「で、でもっ!」


「恐くてまともに向き合えなくても構いません」


「分かってるなら何でそんな事言うんですか!!」


俺が勇者だというのに声を荒らげて言い返す。少し興奮気味なせいか彼女も気づいてる様子はない。あまりそういうのは気にしないので続けて話す。


「あの子に対して凄く気を使い、自分の娘の様に想っているからです」


「だからって無理ですよ! 無理なんですって!!」


強い拒絶反応。考えて口に出したのか、それとも無意識に出たのか分からない。ここでグイグイ押すのも躊躇いが出てくる。しかしこうなってしまったのも俺のせいであるし、ここまでメイドさんの事を聞いた以上後には引けなくなった。


「だからと言ってあの子がこの世界にいる間でこの先ずっと無視なんて出来るのですか?」


「……っ出来ますよ!!」


「……そうですか」


そんな辛そうな顔で出来ますと言われても…。けどそこに触れた所で何ら変わりもないだろう。やはり説得など慣れない事はしないものだ。ただ素直に思ってる事を口にしてお願いしよう。


「あなたの気持ちは分かりました。分かった上でもう一度言います。あの子の面倒を見てもらいませんか?」


「だ、だから私は!」


「お願いします」


「……っ」


立ち上がって頭を深く下げる。


「あ、あなたは、勇者様は……あまり関係ないじゃないですか。私とあの小さな勇者様に。頭を下げる必要なんて…」


「そうですね。俺も思います」


「でしたら何で」


顔を上げ、メイドさんの目を見つめる。


「ただ…あなたが心配だからですよ」


瞳が揺れる。


好意があってこの一言に特別な感情を籠めたつもりはない。相手は子持ちで人妻である。ただ純粋に心配なだけさ。流れからしてメイドさんも理解してくれてるだろう。


「それだけ…ですか?」


だからこそ疑問を持ったのだろう。たったそれだけの理由でお願いするなんて事を。俺も何でこんな事になってるのだろうと疑問に思ってる。きっと感情に身を委ねて流されてる結果なのかもしれない。


「それだけです。あなたがあの子の面倒を見る事によって少しは罪悪感や恐怖が和らいでくれるのではないかと思ってお願いしてるのです」


勿論この選択が良いことなのか悪いことなのかは分からない。けれどメイドさんをこのまま見過ごすのも悔やまれる。


「ただの俺の身勝手な我が儘なお願いです。一度だけで良いので見てくれませんか? 本当に無理そうでしたら止めて頂いても構いません」


そこでもう一度頭を深く下げる。


「あ、頭を上げて下さい!!」


それをあたふたと慌てて止めにかかるメイドさん。


「わ…わかりました。やります」


「本当ですか?」


「正直ちょっと…気が進まないですけども」


「それは…その、すみません」


「謝らないでください。私も別に嫌と言う訳ではないんですよ?」


「そうなのですか?」


その割りには凄い嫌がってたじゃないか…


「……ただちょっと、いろいろと不安なんです。何て口にすれば分からないですけど」


愁思する姿に申し訳なくなって再度頭を下げて謝る。これもメイドさんに止められるが自分の我が儘に無理をさせてお願いする立場なのでこればかりはやらなきゃ気が済まないのですよ。


「それでなんですけど…こう言った話しは誰に通せば良いのですか? やはり王様でしょうか?」


「そうですね……その方が話しは早いです」


「分かりました。しばらくしたら王様に会えると思うので俺の方から話しをしておきます」


「え、いえ! そこまでしなくても私の方から」


「大丈夫ですあまり気にしないで下さい。俺がお願いしてる立場ですので」


「でも…」


しかしそう簡単に頷いてくれそうにもない。


メイドさんもメイドさんで勇者に手を煩わせる事なんてしたくは無いのだろう。元の世界ではメイドさんの様に似たような立ち位置の経験した事があるので凄く共感できる。相手が自分の会社にとってお得意様の社長であれば無駄に腰を浮かせるような行動はしたくない。まぁ正直この世界での勇者の立場はどれほどのものか知らないけど貴族とか居るなら少し上ぐらいじゃないだろうか。


なのでメイドさんには悪いけど有無を言わさず会話を進めることにした。


「名前を教えて頂けませんか?」


「え?」


「名前です。王様と話す時に知らなかったら少し面倒ですので」


「えっと…」


……ちょっと強引だったろうか。でも勇者という立場を借りて俺から話しをした方が話しを通しやすいと思うんだ。


その問いにメイドさんは考える素振りを見せ、やや間を開けてから答えてくれた。


「……トュエリー・サントシタードです」


やだ…格好いい


「分かりました。トュエリーさんですね。勝手ながら王様にこの話しを伝えておきますね」


「……ええ、はい」


少し遅れて返事を返す。内心あまり納得してないのだろうか? 勝手に話しを決めちゃったし。本当に申し訳ない。


そこでトュエリーさんはおずおずと控えめに声を出して聞いてくる。


「あの……本当に私で良いんですか? 私の事が心配だとかそういうのは抜きにして…ですけど」


「ええ勿論です。先程も言いましたけど、娘の様に想うトュエリーさんならば任せても良いのではないかと」


「そう…ですか」


やはりあの子と会うのは恐いのだろうか。少し震えを見せる。


正直言えば流れでトュエリーさんにお願いする事になったけども……冷静に考えてみればトラウマ気味になりかけた本人に立ち向かえってのもなかなか困難だよな。ただトュエリーさんが心配だから考え無しにこれでどうにかなると押し付けた俺もなかなかに最低な人だよね。他人からすれば余計のお世話であったり偽善者と見えるかもしれない。


もしもこれでトュエリーさんの心にあらぬ方向で深い傷が付いたのならば何の責任も持てない。今更ながらここでもう一度考えを改めてやめてもらえる事ができる。相手が立ち上がれないほどの傷が付いてから後悔しては遅いのだ。


「トュエリーさん……あの」


ここに来て俺の優柔不断が発動した。思考がグルグル駆け巡り、考えが後ろ向きに変えられていく。


一度考え始めた事がスムーズに突き進むと振り返らないのだが、立ち止まってしまえばこれで良いのかと深く悩んでしまう。 あれこれと悩めば悩むほど泥沼に深く沈んでしまう。今がその状態になりかけている。


“本当にこれでいいのか?”


何度も何度も自分に問い掛けてしまう。若い頃はどんなに失敗しても上の人がそれなりに責任を持ってくれるし、若いからと許してくれることが多々あった。それなりに歳を取った今じゃそうはいかない。こうやって考えをコロコロと変えて常に保守的にへと行動する事が多くなってしまった。今がまさにその状況に陥っている。


「……何でしょうか?」


名前を呼ばれたはずのメイドさんは急に黙りこくる俺に心配そうに聞いてくる。


そんなトュエリーさんが折角面倒を見てくれると言ったにも拘わらず俺は葛藤させている。言うべきか…言うべきじゃないか。


「あの…勇者さま?」


今度は怪訝な面持ちで顔を見てくる。


そして少し長い沈黙が流れた後、やっとの事で俺は口が開いた。


「……やはりやめませんか?」


「は?」


唐突に言われたその一言にトュエリーさんは素っ頓狂な声を上げた。そんなメイドらしからぬ声にすみませんと頭を下げて聞いてきた。


「やめるって…何をですか?」


「あの子の…面倒を見るのを」


「急に…どうしてですか?」


「その……やめようかと」


「だからどうしてですか?」


答えになってない俺の返事に再度聞き返してくる。これで納得してくれるかと期待があったがそうはいかない。


ちょっと恥ずかしいけど素直に吐いてしまおう。


「その……トュエリーさんが俺のせいで心に深い傷が負ってしまうのではないかと今更ながら考えてしまって」


「そ…それだけですか?」


「はい…すみません」


「……それだけで」


いや、もう怒ってください。勇者とかメイドさんとかの立場なんぞ棄てて叱ってくれても構わないです。 いろいろ聞いて言った挙げ句やめようだなんて言い出した俺なんぞ唾でも吐き捨ててください。


いや、それだとただのご褒美か。


「……ふ、ふふ」


何を言われるのかとドキマギしている傍ら、トュエリーさんは手を口元に当てて可愛らしく笑い始めた。


「トュ、トュエリーさん?」


「ふふっ…すみません。何故にそれで勇者さまが暗くなってしまうのかと思ってつい。勇者さまは何一つ悪くないじゃありませんか」


「いや…でも」


「例えどんな理由であろうと私の為に考えてくれた結果なんですよね?」


「ええ、まあそうですけども、大半は自分の為ですよ」


「それでも嬉しいですよ。ここまで自分の事を考えてくれるだなんて。ウジウジと考えてる自分が馬鹿らしくなっちゃいました」


「えっと……」


まさかの笑顔に少したじろぐ。


「勇者さま!!」


「は、はい!?」


そして凄く元気だ。何でこんなに吹っ切れてるの? さっきまでの暗さは何処へいったの?


「あの小さな勇者様は私に任せて下さい!」


「え、あ、いや、でも、大丈夫なのですか?」


「大丈夫です! …とは言い切れませんが私なりに精一杯お世話しようと思います!」


「…無理して言ってる訳では無いんですよね?」


ここまで打って変わるとただの空元気なのかと疑ってしまう。


「ふふっ…勇者様は心配性ですね。本当に大丈夫ですよ。少し恐いですけど本当に無理そうでしたら一歩後ろに引きますし、誰かに相談しますから」


……どうやら止めようという選択肢は無いようだ。


「そこまで言うのなら…分かりました。お願いします」


「はい! 任せて下さい!」


「……っ」


とびきりの笑顔に思わず目を背ける。いや、可愛いらしくて直視することが出来なかった。


そんなこんなで一言二言と言葉を交わした後に、俺に対して気付かぬ内に数々の暴言を吐いた事に深く深くお辞儀をしてからトュエリーさんは応接間から出ていったのであった。






──カチャリ


ティーカップをソーサーに乗せる音が妙に大きく感じさせる。それほどに周囲は物静かだからだ。いや…先程までトュエリーさんと会話をしていた為により一層静かに感じる。また一人ぼっちの時間だ。


後どれだけ待てば王様はやってくるのだろうか。今はそればかり考える。ついでにお腹も減ってきた。下手するとまだ数時間も掛かるのではなかろうか。トュエリーさんには悪いけどこの紅茶も飽きてきた。


……だがそれも杞憂に終わり。数分経った後に王様は応接間にやって来たのだった。

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