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短編集。恋愛  作者: 神山 リョウイ
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チューリップの花 二話

あの後すぐに泣きつかれたように眠ってしまった。

眼が覚めると朝の六時半。俺はいつも通り優希の弁当も作り、今日謝ろうとあいつの大好物をたくさん入れた。


身支度をして部屋を少し掃除して優希の家へ向かう。

「どうやって謝ろう」

俺は少し優希の家の前で入るのを戸惑ったが、意を決して入っていった。



すごく静かで電気一つ付いていない。それに優希の靴がない。いつも履いている靴がないんだ。俺は急いで優希の部屋まで行った。

そこには誰もいないベッドに学校の鞄が置かれていた。

「優希……?」

俺は部屋の中全部探した。何処にもいない。

一人の女の子が住んでいたこの家。ずっと続くと思ってた優希が俺の横にいて笑っていること。

あいつの俺を呼ぶ声も俺に向ける笑った顔も無い。嫌な予感しかないが、先に学校へ行ったのだろうと思い込み、優希の鞄を持ち学校へ向かった。


トボトボと学校へ行く。教室に入ると人がちらほらといる。

優希を探して辺りを見回す。だが優希は居なく、座っていた席が無くなっている。

居場所まで無い。

俺はすぐに職員室に聞きに行ってもあいつの事を誰一人知らないと言う。


優希はこの世に居なかったようにみんな知らないと言うんだ。クラスメートも先生も……あいつの父親までも。



「……なんでだよ」

俺は一人で中庭へ行った。そこには昨日広げたお弁当が綺麗に無くなって箱だけが残っていた。

「優希、何処にいるんだよ」

俺は泣きながら空になったお弁当をぎゅっと握った。



さっきまで出ていた太陽は雲に覆われすぐに無くなった。

俺の心を表すように天気は変わった。たくさんの雨雲が太陽を包み、激しく雨が降りそそぐ。その中で俺は顔を上げ雨に打たれながら泣いた。

何度もなんども優希の名前を叫ぶ。他学年が俺を見たって誰が見てても関係ない。

ただただ優希を呼んでいた。



雨がどんどんと強くなる。

雷までも鳴ってきた。流石に心配になったのか数人の先生が俺を保健室まで運んだ。

ベッドに寝かされる俺。それでも涙は止まらない。止めようとしても、泣くなと思っても止まらない。


優希が居ないと止められないんだ。



俺は先生に腕を掴まれ家まで届けられた。今日は休めとそう言われたのだ。

家の中へ入る。俺は優希との写真を探す。


でも見つからないんだ。昨日まであった筈なのに。俺はアルバムを探した。でも何処にもない。あいつがいた証拠をなんとか見つけたかった。

携帯を取り出し電話を掛ける。



「この番号は一切つかわれておりません」



何度かけてもそうなっていた。

その時だった、一つチャイムが鳴る。

俺は出る気は無かったが、何度もチャイムがなりしつこいので外に出た。

「お届けものでーす」

そう言って渡された黄色いチューリップ。

差出人の名前はない。そして後ろにパソコンで打たれた文字でこう書いてある。


【花言葉 望みのない恋】

私の恋に望みはなかったのです。

小さな頃からずっと好きだった子は私を異性とは見てくれませんでした。



そんな言葉俺に言われても困る。

俺も今は望みのない恋をしているようなもんだ。

「こんなもの……」

俺は捨てようとしたが、なんとなく捨てられずに部屋に飾る。黄色のチューリップは儚く俺を示すようにすぐにしぼんでいくのだった。

俺はその日何も食べずに居た。

時間が過ぎるのは遅くて、まだこんな時間かと思った。

だが、寝るとあっという間に時間は過ぎてくれる。




もう次の日の朝だ。

「……学校いきたくねえな」

俺は優希の居ない学校など行く気もしない。

そっと後ろに腰をかけて俺は持って帰ってきた優希の鞄を漁った。だが、何一つ入っていない。空だ。


俺は部屋に閉じこもる、ご飯も食べずに部屋にいる。するとまたチャイムが鳴るんだ。

「川井涼介さんのお宅ですよねー」

チャイムしつこくなる。

俺はイラつく気力もなく外に出た。

「お届けものでーす」

また届いた。チューリップの花。今度は白いチューリップだった。そしてまたカードが入っている。


【花言葉 失われた愛】

私の愛はもうすぐ失われる。

どうか……あなたは失う前に想いを伝えてください。



これだけ書かれている。

「……んだよこれ! 俺だって失ったんだよ」

俺は少し萎れた黄色のチューリップの横に白いチューリップを入れた。



そしてまたベッドへと寝転ぶ。

寝て、寝て、また寝る。

寝すぎで寝れなくなるまで俺は寝ようとしていた。起きていても優希を思い出す。




寝ていると落ち着く。

その時だけ優希を忘れることができるような気がした。


もうみんな優希を忘れているんだ。俺も忘れよう。そう決めた。




優希が居なくなって一週間。少しの間花は届かなかった。俺も落ち着き学校へ行けるようになった。


その時だった。

教室へ入る前にある話を耳にした。

教室で二人の女の子が話していたのだ。


「優希ちゃん大丈夫かな……」

「ね、今日もお見舞い行こうよ」

「だね」


優希は生きているのか、この世にいるのか。

存在は無くなったんじゃないのかと混乱した。俺はドアを開けて教室へ入る。

それと同時にみんなは俺を見てびっくりしていた。


「涼介、お、はよ」

「おう」

みんな俺に気を使ってか静かになった。



「みんな席に着けー」

先生が入ってくる。先生もそうだった。俺を見てびっくりする。

「川井学校来れたんだな」

「落ち着きましたんで」

「じゃあ出席とるぞー」

いつものように名前を呼んで行く。

その時だった。


「きし……っ、工藤〜」

先生が「岸本」そう呼ぼうとしていた。

岸本優希。このクラスで「き」がつく奴なんて優希しか無いない。やっぱりおかしい。

俺は立ち上がって机を叩いた。


ものすごく大きな音がしてみんなこっちを見る。


「優希……! みんな知ってんだろ? なんで隠すんだよ」

俺は必死でみんなに伝える。クラスメートも先生も俯いて口を聞かない。

「黙ってねえでさ!! 教えてくれよ」

深く頭を下げた。




「優希ちゃん。もう長くないみたい。私たちも……知ったのは涼介くんと優希ちゃんが喧嘩する一週間前……」

少しして女の子が説明をし始めた。


「優希ちゃん、三年前から病気って言うことが分かってたらしいの。何度か手術したけど長くないって……。

それで辛くなってきたから入院しなきゃいけなくなって、涼介くんに心配かけたくないって聞かなくてね。

あの時の喧嘩は、優希ちゃんが仕組んだ事なの、優希ちゃんが喧嘩以来私が居なかった事にしたいって言い出して。


貴方に迷惑をかけたくないからこそあの子はあなたに忘れてもらうように必死で考えてキッカケを作ったの、些細な事でもって……泣きながら言われちゃ、私たちも断れなかったし……。先生もみんなも優希ちゃんがいなかった事にするなんて辛くて仕方なかった。


でもよく考えると一番辛いのは涼介くんだよね」



みんな泣いていた。

優希のために、俺のために。


そのあと先生はすぐさま優希のいる病院を教えてくれた。




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