ある国でのプロポーズの仕方
三年前から付き合ってる彼女がいる。結婚も考えている。だがプロポーズのシチュエーションが決まらないんだ。俺はそういうのにすこし拘りたいタイプだった。
「京治〜。今日どこ行こうか?」
俺の彼女の川崎優奈。一応同棲をしている。久々の仕事が休みになったので俺たちは出かけることにした。
大きなショッピングモールへ出かけてカフェに行き二人でコーヒをを飲む。
彼女が口を開く。俺たちが座ってる前には新しいデザインのウェディングドレスが飾ってある。
「このウェディングドレス綺麗だね、私も着れるかな?」
とか
「そういえばさ、○○の国のプロポーズの言葉すごいんだよ〜!」
とか
「こんなプロポーズの仕方もあるんだね!」
とか
「結婚いいなぁ」
とか。
完全に結婚を意識している。俺だって結婚したい。指輪ももう準備している。
俺は何も言えずに黙ってコーヒーを飲んだ。
じっと考え込んだように俺が黙っていると優奈は謝ってきた。
「あんなこと言ってごめんね、あんまり気にしないで」
優奈はもう二十六歳になる。俺はまだ二十二歳。やっぱり年的にももう結婚したいのだろうと思う。
コーヒーも飲み終わり、ゆっくりと二人で並んで歩く中、俺は一つの本を目にした。
『海外のプロポーズ集』
そう言えば、優奈は海外が好きだし、色んな言葉も知っている。俺は「これだ!」と思い、優奈と本屋へ向かった。
優奈は料理の本をペラペラとめくって見ている。俺はさっきの本をこっそりと購入。
優奈が本屋を出てくるまでその本を読む。
【○○のプロポーズの仕方。
プロポーズの仕方は○○で○○○で……。】
俺は何個か気になるものを読み、すぐに決まった。
「……さっそく準備しなきゃ」
俺は優奈に本屋でちょっと待っててとメールを送り、色んなものを準備した。
三十分くらいで準備を終えるとそれを車まで運んだ。
「ごめん、優奈」
「遅い! 何してたの」
「トイレ……」
「随分長いのね?」
本屋に戻ると優奈はすごく怒っていた。なん分待たせるんだって。
俺たちはランチを済ませ、ショッピングモールの中をぐるぐると何回も回った。
「この服かわいいね」
なんて言って、その日優奈は結婚の話をしなくなった。結婚のプランを考える店の前も見ないようにしてたり、やっぱり意識してくれているのが俺にとっては嬉しかったのだ。
それに本屋で怒っていたこともすっかり治っていた。
そして俺たちは夕方になるまで何時間も同じところを見たりしていた。
同じところばかりで優奈が少し飽きてきたのか、俺にこういった。
「そろそろ帰らない?」
「そうだな、でもちょっと行きたいとこがあるんだけど、そこにいってもいい?」
「もちろん」
「ありがとう」
俺たちは車に戻り綺麗な夕焼けを見ながら少しドライブをした。
俺はずっとプロポーズはここですると決めていた場所がある。
車で急いでそこへ行く。小さな緑の丘。在り来たりだけど俺と優奈が出会った大好きな場所。
優奈は察しがいいのか車を降り、先々と丘まで行ってしまった。そのおかげで俺は用意したものを持って優奈の後を追いかけた。
俺の手には
白い花の花束と紅い花の花束。
優奈はそっとこっちを向く。
俺が持っている花束に少し視線を移し、再び俺の目を見つめる。
ゆっくりと片方の膝を地面につけもう片方の膝を立て海外の人が花をプレゼントするように優奈の前に二つの花を差し出す。
深呼吸を一つして、口を開く。
「優奈。俺と……結婚してください」
優奈の前に出された二つの花。
俺はどきどきしながら目をぎゅっと瞑る。
優奈がゆっくりと一つの花束を手に取る。
俺の手に残った一つの花束。
そして聞こえる優奈の声。
「うん。私を幸せにしてください」
目には少し涙がたまっていたが、それ以上に嬉しそうに笑った綺麗な顔。
後ろからの夕日が優奈を照らし、暖かく俺たちを包む。
俺の手に残った白い花束。優奈を見て俺はにっこり微笑みポケットにある指輪を優奈の細い指にはめた。
「どこでこのプロポーズ知ったの?」
泣きながら優奈は尋ねてきた。もちろんその涙は暖かく、嬉し泣きだ。
「秘密」
「ケチだなぁ。私も早川優奈になるんだね」
そう言って笑う彼女はやっぱり綺麗だった。
もう少しこの綺麗な夕焼けを見ていたい。
だが、暗くなると電気がないこの場所は真っ暗になってしまう。
「そろそろ帰ろうか」
俺はそう言ってゆっくりと立ち上がった。それに続いて優奈もゆっくり立ち上がる。先々行こうとする俺に優奈が言う。
「あっ……。京治」
「ん? なに?」
「大好きだよ」
そう言われたと同時に
俺たちの影は一つになった。
FIN.