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神様が作ったゲームが超クソゲーだった件  作者: 鏡秋雪
俺がこの世界に来た理由
6/11

この生活は惰性

 城が買えるほどのお金。

 ひょっとしたらこれだけで何もせずに一年暮らしていけるんじゃね?

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 朝起きて、食って、昼寝して、起きて、食って、午後の昼寝して、起きて、食って、寝る……。

 これ、暇なのだ。めちゃくちゃ、暇!

 俺は世の中の引きこもりNEETたちに言いたい!


 おまいら、すげーな!!


 俺、ちょっと無理だわ。まあ、インターネットもゲーム機もない世界だからというのもあるかも知れないが、やる事なくて引きこもってるとめちゃつらい。

 というわけで、今日も魔王城でブラックデーモン狩りをしています。

 おかげでお金だけはどんどん貯まっていった。もう城じゃなくって国家が買えるんじゃね? ってぐらい貯金しています。

 別に来世に持っていけるわけでもないからいらないのだけど、ついつい魔石を集めて換金している。結局のところ、俺は究極の貧乏性なのだろう。


 防具だけは有り余るお金を使って最高のものを買いそろえた。

 なぜかというと、攻撃が当たると痛いからだ。

 妙なところでリアルなこのゲーム。ぶつかれば痛いし、モンスターに切り付けられれば血が出て悶絶するほど痛い。

 まったく、あきれたクソゲーである。


 それはともかく、二カ月もここに通い詰めている成果でブラックデーモンが湧く場所は完全把握済み。湧きサイクルもだんだん分かってきたので、今じゃどういう道順で歩いて行けば効率よく叩けるかを研究中だ。


 もうちょっとで手動TAS動画をようつべにアップできそうです。

 神様、次はインターネットをこの世界に実装してください。そしたら神アプデキターって崇めますから。

 アプデがあるか知らないけど。

 などと、脳内一人ボケ一人ツッコミをしながら魔王城を歩き回る俺。


 仕方ないね、話し相手がいないんだもの。

 自称神様が言ってたこの世界に来ている他の死にかけの人間というのにまだ会った事がない。

 会う人、会う人、NPCだ。

 リムさんはチュートリアルが終わったので姿を出していない。

 呼びかけたり、質問したり、狩場へのナビをお願いすれば姿を現してくれるが基本、姿を見せてくれない。

 『その方が疲れないですから』と、言われてしまえば仕方がない。

 それに俺のいやらしい視線に感づいて姿を現さない可能性も微レ存だし、人恋しいので話し相手になってくださいとお願いするのもぼっち感が増しそうで嫌だ。




 さてさて、それはともかく、狩りを始めましょう。俺は無造作に扉を開ける。

「マスター、今、あいてる?」

 的なお気楽な感じでずかずかと部屋に入ると、すでにブラックデーモンが湧いていた。


 ふん。

 と、剣技も使わずに初期装備のロングソード一閃でブラックデーモンを瞬殺。

 魔石回収。


 ええっと、次はこの階段を降りて、ふん。

 ブラックデーモン瞬殺。

 魔石回収。


 そしたら五〇メートルダッシュして左の部屋に飛び込んで、ふん。

 ブラックデーモン瞬殺。

 魔石回収。


 次は隣の部屋で五秒待つと湧くから、ふん。

 ブラックデーモン瞬殺。

 魔石回収。


 はい、今度は上の階層に戻って……。


 という具合に動き回っています。

 ただ、時々レアモンスターが湧くことがある。

 だいたい一撃なんだけども、なんか毛色が違う奴が湧くと嬉しいものだ。

 見慣れないアイテムを落すこともあるしね!


 五秒待機の部屋でレアなブラックデーモンが湧いた。

 双子だ。

 しかも片方は双頭だ。


「お、レアじゃん!」


 喜び勇んで俺は双頭のブラックデーモンへ剣を振る。ふん。

 瞬殺。

 と、思ったら削りきれなかったらしくこちらに襲い掛かってきた。

 俊敏度カンストを活かして難なくその攻撃を華麗にかわして後ろに回ってさらに一撃を振り下ろす!


(ふっ。決まった)


 さすがにこれで逝っただろうと思ったが叫びながらこちらに向かってくる。

 あれれー? おかしいぞー。

 どいてお兄ちゃん。こいつ殺せない!


 なんてやってる場合じゃないぞ。

 すっかり板についてきた一人ボケ一人ツッコミをしながら、俺は双頭のブラックデーモンの豪剣を受け流した。そして、追撃の一撃!

 思いっきり振りぬいたロングソードは双頭のブラックデーモンの胴体を切り裂き、背後の壁をも打ち砕いた。


(やったか!)


 双頭のブラックデーモンは叫び声を上げると、羽をばたつかせ飛行しながら部屋の中を逃げ回った。見る見るうちにその身体が再生されていく。


 以降、『やったか!』禁止!


 それにしてもこいつはどうなってるんだ? ダメージ食らってるはずなのにこいつ、死なないぞ。

 ちらりともう一匹のブラックデーモンに視線を向けると、俺が開けた大穴から外の大空へ飛び立っていった。

 おいおい。どこ行くんだよ。さすがクソゲーですね。AIガバガバじゃねーか。

 まあ、連携攻撃とかしてこないだけラッキーか。


「ねえ。リムさん。こいつなんで死なないの?」

 このクソゲーの攻略wikiを兼ねている(はず)のリムに俺は尋ねた。

「ああ、これはですねー」


 呼びかけたのでリムが姿を現した。

 おお、リム様の麗しの御姿。俺の守護天使、マジ天使。

 うほほー。今日もプルンプルンですね。眼福、眼福。

 主に肌が。ええ、プルンプルンなのは肌ですよ。胸部装甲(コードネーム:OPI)じゃありません。


「――ですよ」

「え?」

 ハッ! ついOPIに見とれて説明を聞き逃してしまった。OPIの魔力、恐るべし!

挿絵(By みてみん)

「はい?」

「ごめん。もう一度お願いします。攻撃を受け流すのに必死だった」


 おほぉ~。リムのナイスボディが俺の精神を凌辱してるのぉ~!

 などとは言えない……ので、この言葉は心にしまっておく。


「え? ブラックデーモンはこっちの様子を伺ってるだけですよ?」


 怪訝そうにリムが俺の顔を覗き込んでくる。こういう時に限って空気を読む双頭のブラックデーモンさん。なかなか作者と読者と俺の気持ちが分かっているようだ。

 リムさん、近い。近い。いい香りとともに柔肌が……いかんいかん。


「早く、攻略法を教えろください。なんでもします」

 しどろもどろになりながら俺はリムの背後にいる双頭のブラックデーモンに視線を向ける。

「これは剣技で一度に両方の首を斬らないと駄目ですよ。分かりました?」

「はひっ!」


 俺はすぐにリムから離れて敏捷度補正いっぱいに生かして双頭のブラックデーモンとの距離を詰めた。


「剣技」


 例のごとく視界いっぱいに剣技の技名が埋め尽くす。

(両方の首を一度に斬れるやつ!)

 そう考えた瞬間に適切な剣技が自動で選ばれる。

 そして、何かに導かれて自然に動き始める肉体。


 構えたロングソードが赤く炎をまとった。流麗に両手を広げるとそれぞれの手に握られたロングソード。

(剣が分裂したー!)

 俺は驚いた。双頭のブラックデーモンも驚いた表情を見せたのでつい笑ってしまう。


 次の刹那、左右合わせての八連撃がブラックデーモンの首に襲い掛かる。

 両手から繰り出される刃の旋風が両方の首を斬り飛ばすどころか、双頭のブラックデーモンを文字通り粉砕した。

 今の俺なら伝説の二刀流ブラッキー先生にも勝てそうです。

 剣技サイコーです。クソゲーである事は変わりないけどな!


「やりましたね!」


 我が事のように飛び跳ねて喜ぶリム。

 今日もたゆんたゆんですね。

 穢れた心で見てごめんなさい。

 でもやめられない、とまらない。某スナック菓子のように。

 やましい気持ちを感じながら俺もリムに笑顔を向けた。


「あ、そうだ。一匹逃げてったよね」

「そうでしたね」

「あれを狩って、今日は終わりにしよう。どこに行ったか分かる?」

「はい! 行きましょう!」


 リムは笑顔で部屋に開いた大穴から外へ飛び出した。

 あ、抱えて飛んでくれないんですね。

 はい。男の子は走りますよ。ステータスのお蔭で人間離れした動きができますからね。三階の高さから飛び降りても大丈夫です。

 俺は双頭のブラックデーモンの魔石とドロップアイテムを回収すると先行するリムの後を追って走った。

次回、新章突入です。

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