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神様が作ったゲームが超クソゲーだった件  作者: 鏡秋雪
俺がこの世界に来た理由
5/11

その力は冠絶

 予算充分。一流のグラフィックデザイナー。自由度の高いゲーム性。重厚な世界観。

 そんな理想的な条件が注ぎ込まれたゲームが超クソゲーだった件。


 どうして、こうなった……。


 四回目のため息をつくことになったのは自分の姿のせいだった。

 視界の隅に恐ろしく気味が悪い目つきが鋭い男がいたので身構えたら鏡に映った自分でした。

 これが来世の俺なのか……。


「なあ、リムさん。これ、普通の鏡?」

「はい!」


 ああ、そうですか。

 頬に手をやると鏡の中の見るに堪えない顔の持ち主が同じように頬に手をやった。確認するまでもなくこれが俺という事であろう。


『これは魔法の鏡です。心の美しさが映るんですよー』


 そう言ってくれた方がまだよかった。

 前世が北京原人のようなゴリラ顔。来世が名状しがたき冒涜的な魚顔というのはどうかしている。

 なぜゆえに神が作る世界というのはここにしても現実世界にしても俺にクソゲーを強いるのだろうか?

 こりゃ、来世もろくな人生じゃなさそうだな。

 俺の人生、常に超ハードモード、エンドレス。

 神様が作った現実世界がクソゲーなんだもの。神様が作ったゲームが超クソゲーであっても仕方がないよね。


「なあ、リムさん。この顔。なんとかなりません?」

 ゲームならあれだ。顔変更券とかあるんじゃないのか? そんな淡い期待を込めて尋ねてみる。


「え? 表情はちゃんと変わってますよ。大丈夫です」

「そうじゃねーよ! この顔のパーツ。配置。輪郭。変えられないの?」

「あ、ああ。とても個性的な顔立ちですよね。 セヴェリ・ハーキン様……」

挿絵(By みてみん)


 あ、今、目を逸らしましたよね?

 今日、守護天使に『個性的な顔』って言われました。これって褒め言葉なんでしょうか? 知恵袋の皆さん。教えてください。


「そういうのはないみたいですねー」


 ああ、さっきは視線を逸らしたんじゃなくて、頭の中で情報検索をしてたんですね。

 俺の心の中だけでもそういう事にしておいてください。


「大丈夫です! 人間の価値は顔だけじゃ決まりませんよ!」


 絶望だ。

 明るく励ましてるリムを置き去りにして俺は落ち込んでしまう。

 まあ、リムが言うとおり人間の価値は顔だけじゃ決まらない。

 だがこの言葉にはトリックがある。

 人間の価値の中で容姿が占める割合を言っていないのだ。

 人は見た目で九割がたの評価が決まってしまうという話を聞いたことがある。この場合だって『人の価値は顔だけじゃ決まりませんよ』に当てはまる。

 見かけは超重要。


 イケメンに死を! ブサメンに愛を!


 うん。俺、いい事言った。


「あの…… セヴェリ・ハーキン様?」

「大丈夫だ。もう少しで立ち直る」


 とにかく、自分の容姿など気にしない事だ。

 鏡を見なければいいだけの話だ。

 ということで、顔の件は意識の向こうへ追いやる。


 次はお金だ。

 どうやらこの世界でもお金がないと立ち行かないらしい。

 空腹の苦しみを抱えながら一年を過ごすほどドMではないので適当にお金を稼いでそれなりにうまいものを食べて、寝て暮らしていこう。

 来世がこんな顔で暗い未来しか想像できないのだから、せめてこの世界ではお気楽にテキトーに暮らしていこうではないか。

 幸い、ステータスはカンストらしいので稼ぐのには苦労しないだろう。


「よし!」

 気合を入れて俺は立ち上がった。「じゃあ、食べるためにお金を稼ごうか」

「はい!」

「やっぱり、モンスターを倒してお金を稼ぐの?」

「はい。モンスターを倒すと魔石を落すのでそれをこの町の銀行で換金するんです」


 ふむふむ。

 モンスターが直接お金をドロップするわけではないのか。

 まあ、確かに『スライムのくせになんで人間のお金を持ってるんだよ!』っていうツッコミを入れたくなるもんな。

 この世界にスライムがいるのかは知らないけど。


「じゃ、いい狩場を教えてくれよ」

「はい!」

 俺はリムの案内で狩場へ向かった。




 俺は自分で言うのも何だが、スポーツ全般が苦手だ。


 別世界に転生しました。実は俺、昔から剣道を嗜んでいて剣道の達人です。

 とか。


 ふっ。実は古武術の師匠について学んでいたんだ。もう俺に勝てるのは師匠ぐらいだ。

 \さすがは御曹司!/


 みたいなチート性能は持ち合わせていない。残念ながらスポーツテスト平均点以下の高校一年生だ。

 ゆえに初期装備のロングソードを構えているが、恐らく、その道の人が見たら失笑してしまう構えをしていると思う。


「えっと、俺、剣なんか振り回したことがないんだけど……」


 目の前にいるコボルトに初期装備のロングソードを向けて牽制しながら、俺はリムに尋ねた。


「大丈夫です。剣技があります」

「剣技?」


 と、呟いたとたん、視界を多くの文字が埋め尽くした。

 文字が邪魔でコボルトが見えづらい。小さな文字が視界全体に並んでいる。


「なんじゃこりゃ!」

「あ、そっかー。 セヴェリ・ハーキン様は全てが上限に達していらっしゃるから全ての剣技が使えるんですね! すごいすごい!」


 リムが自分の事のように喜びながら飛び跳ねている。

 いいから、説明してくれ。

 と、言おうと思ったがつい、たゆんたゆんに揺れるリムの胸部装甲(コードネーム:OPI)をじっと観察してしまった。

 仕方ないね。男の子だもん。ああ、こぼれそう。

 OPI、見えそうで見えないエクスタシー。ひょっとしたら、これは神ゲーかも知れない。


「フン!」


 ゆるみきった俺の首にコボルトの剣というにはおこがましい錆びついた片刃剣が襲い掛かってきた。


「ぎゃっ」


 痛てえ! 超痛てえ! こんな痛みを強いるなんてなんというクソゲーだ!

 コボルトの剣は俺の頸動脈を断ち切ってしまったらしい。激しい血の噴水が俺の首から吹き上がっている。


「大丈夫です。ほとんど、ノーダメージです。っていうか、戦いに集中してください!」


 リムさん、怒った顔も愛嬌がありますね。

 などとボケている場合ではない。

 ノーダメージだと?

 自分のステータスを確認してみる。ヒットポイントが20ほど減ってる。確かに全体から見ればノーダメージと言えるだろう。

 しかも『神の祝福』の効果でじわじわと回復している。


「剣技」


 俺はコボルトに剣を向けて呟いた。

 視界全体に広がる剣技の数々。

 どれでもいいや。

 適当に『Darklight Slashes』とやらを頭の中で選ぶ。

 選んだ理由はちょうどコボルトの顔にその文字がかぶっていたからだ。

 選んだとたん、俺の身体が何かに導かれるように動き始めた。


 滑らかに、そして鋭く、剣はコボルトの身体を切り裂き――そのまま駆け抜け、俺はコボルトの背後の岩に八連撃を食らわせていた。

 岩にぶつかる剣先が火花を散らし、俺は見上げるほどの大きさの岩を粉砕した。

 振り向くとコボルトは肉片すら残されていなかった。例えるなら全身がスムージング飲料になって地面に叩きつけられてる状態。

 ちょっ。これ、オーバーキルすぎるだろう。


「素晴らしいです! やっぱり、レベル999はすごいですね!」


 いやいや。ゲームバランス悪すぎでしょ。

 この剣技というやつ。恐らくHPとDEXが剣の威力に補正をかけてるでしょ。

 初期装備のロングソードで岩をも砕くってどんだけだよ。

 俺はとりあえずコボルトが落とした小指大の魔石を拾い上げてポケットに放り込んだ。


「これでどれぐらい食べれそう?」

「パン、半分ぐらいかなー」

「じゃ、次行こう。っていうか、血が止まらないんだけど。これ、大丈夫?」

「あー。『神の祝福』で一分もあれば治りますけど、痛いです?」

「痛い。超痛い」


 大切な事なので二度言いました。


「じゃあ、魔法で回復してはいかがでしょう?」

「魔法」


 と、呟くとまたしても視界が文字で埋まる。

 どうすんだよ。これ。傷を直したいだけなんだけど……。

 次の瞬間、MPが5消費され傷が治った。

 どうやら自分の意志を持つだけで適切な魔法が選ばれるようだ。


 よかった。

『炎の精霊よ、我が手に炎を! 集い来たれ、敵を貫け!』

 みたいな詠唱がなくって。


 俺、もう高校生だから厨二病から卒業したのよ。

 たとえ、誰も聞いてないとしてもこんなセリフを口走るのは精神的に耐えられない所だった。

 はい、そこ、『さらっとそういう口上がでてくるだけで十分厨二病です』っていうツッコミを入れない。

 とかセルフノリツッコミを脳内でしていると巨人が現れた。


 その時、人類は思い出した……などと言っている場合ではない。


「セヴェリ・ハーキン様。次はあれをやっちゃいましょう!」

「せやな」


 俺は試しに剣技ではなく、普通に巨人へと斬りかかってみた。

 結果。一刀両断。瞬殺。

 あの、これ、初期装備のロングソードですよね? 伝説の剣とかじゃないよね?





 その後、俺はリムの案内で狩場を移動してモンスターのレベルを上げて行った。

 はい、どれもこれも、瞬殺です。

 魔王城のようなダンジョンに潜って最奥部にたむろするブラックデーモンですら瞬殺ですよ。


「すごーい! すごーい!」


 明るく子供の様にはしゃぐリムを尻目に俺はゲームバランス崩壊のゲームのつまらなさを痛感していた。

 やっぱこれ、クソゲーですわ。翌日ワゴンセールするレベル。


「セヴェリ・ハーキン様、これでおいしいものがたーくさん、食べられますね!」

「ハッ、そうだった。それが目的だった」

 すっかり忘れてたよ。「帰ろ」

「はい!」





 街に戻って魔石を換金。

 結果、どれくらいのお金が集まったかというと……。 


「すごいですねー。お城だって買えちゃうぐらいありそう」

 リムはうず高く積み上げられた金貨を眺めて恍惚とした表情だった。


「買えるのかよ」

「ええ。街の人も雇えますよ」

「自由度高すぎィ!」

「神様が作った世界ですから、だいたいの事は出来ますよ」

「へー」


 じゃあ、ここらへん一帯を買い取って王侯貴族プレイとかできるのか。


『ふっ。じゃあまずここら辺の農民が使っている農機具の改良から始めよう』

『こ、こんな道具見たことないぞ! さすが主人公様!』

『ははは。ここらへんの農機具は一〇〇〇年ぐらい遅れているからね。本当ならトラクターでやっちゃいたいぐらいだけど……』

『な、なんと。そんなものまであなたの世界にあるのですか! いやはや、あなたは神のようなお方ですな!』

『それほどでもないですよ。俺の世界では一般的ですよ。アハハハハ!』

 よし! これで俺もNAISEI小説の主人公だ!


 …………。

 やらねーよ。ばかばかしい。

 売れない底辺作家のような妄想はバッサリと切り捨てる。

 俺はここで適当に苦しまない程度に時間を潰せりゃいいんだ。

 という事で金貨の山をポケットに放り込む。

 なんでも入る魔法のポケットだ。ゲームデザイン雑すぎィ!


「とりあえず、リムさん」

「はい! 何をしましょうか?」

「おいしいものを食べたい。リムさんオススメのレストランとか食堂とか行きたい」

「そうしましょう!」

「リムさんも食事ってするの?」

「えへへ。別に食べる必要はないですけど、おいしいものは好きですよ」

「じゃあ、一緒に食べよう。ご馳走するよ」

「やったー! ありがとうございます。セヴェリ・ハーキン様」

「あ、あと、俺の名前呼ぶ時はフルネームじゃなくてセヴでいいよ」

「では、お言葉に甘えて、セヴ様、ありがとうございます」

 リムはにっこりと微笑んで、両手でレースのスカートをつまんで茶目っ気たっぷりにお辞儀した。

「うむ。くるしゅうないぞ」

「うふふ」


 さて、城が買えるほどのお金があるらしいからしばらく気ままに暮らす事にしましょうか。

チュートリアル終了です

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