あの祝福は呪縛
俺は暗闇から解放された。
落ち着いた色合いの土壁。ベッドとテーブル、椅子がそれぞれ一つずつ置かれた部屋に俺は立っていた。
雰囲気から察するにここは宿屋の一室のようだ。
身体に違和感はない。どうやら男の身体らしい。ちょっと残念。
俺は足元を見る。
まず目に飛び込んできたのは銀色の胸鎧だ。
なんだこれ?
と見つめると視界の隅に文字列が表示された。
ブレスト・プレート 物理防御5 魔法防御1 耐久30
どうやら神様が言った通りこの世界はRPGみたいなものらしい。
さすが神様。素晴らしいクォリティのグラフィック――っていうか現実と見分けがつきませんがなにか?
さーて、ちゃっちゃとモンスターに特攻して終わらせちゃいましょうね。なーに、痛いのは最初だけ。ぐへへ。
と、思った時、部屋にキラキラと輝く金色の粒子が集まり女性の姿に変わった。
「ようこそ。わたくし、守護天使の役を仰せつかりました。リムと申します」
頭の上には天使の輪。背中にも柔らかそうな天使の羽を生やしている。
あーこれは天使ですね。天使以外にありえない。という姿だ。
本来、天使に性別は無いはずだが、この守護天使とやらは明らかに女性の体つきだ。健康的な肉付きは生命力の強さをうかがわせた。
「じゃ。頑張って生き返りましょうね。セヴェリ・ハーキン様!」
くすんだ赤色の短い髪を揺らしながらリムが明るく言った。
ついでに揺れる胸も観察しました。男の子でしかもDTだもの、仕方ないよね。
で、セヴェリ・ハーキン。それが俺の名前なのか。
そう考えると、視界の隅に文字列が現れた。
Severi Härkin
LV.999 NEXT:-----
HP:99999/99999 DEX:99999/99999 MP:99999/99999
物理防御:15 魔法防御:3
所持金:0
【特殊能力】
神の祝福
「これってカンストしてね?」
あまりにもでたらめな数字の羅列に俺は絶句した。
「え? 失礼して確認させていただきますね」
リムが近づいてきて俺の顔を覗き込む。
リムさん。近い、近いですって。
リムからは女性らしいさわやかなとてもいい香りがした。
「こ、これはすごいですよ! もう、すぐに生命の樹に向かっちゃいましょう。これなら楽勝で生き返れますよ! すごいすごい!」
リムは大興奮で囃したてる。
「いや、生き返る気、ないから」
俺は深いため息をついた。
「えー! なんでですかー!」
食いつくようにリムが迫ってくる。
だから、近いですってば。
神様と会話した時とは違って肉体を伴っているせいか、せまってくるリムの身体に心臓が高まり俺はドキマギしてしまう。
「だから、元々そういうつもりなんだって。リムさん。この近くのモンスターに特攻してさっさと死にたいんだけど、どうしたらいい?」
そう尋ねながら俺は考えた。
ひょっとして、ここらへんのモンスターじゃ俺は殺せないんじゃね? と。
「無理ですよぉ。この町の周辺のモンスターをかき集めてもセヴェリ・ハーキン様には勝てませんよ」
「反撃せずにずっと攻撃を食らい続けても駄目?」
「駄目です。『神の祝福』がありますから自動でヒットポイントが回復しますよ。モンスターに殴られて、ずっと痛いだけです」
俺は痛みだけ味わって喜ぶようなドMではない。そんな趣味はないのだから、このアイディアは却下だ。
ああ、なるほど、そうか。これが神様の『おしおき』なのだ。
なにが『神の祝福』だ。これでは呪いじゃないか。
あの陰険な悪意に満ちた神は意地でもここで一年を過ごさせようというのだ。
「なるほどね。まあ、それなら一年ずっと寝て暮らすさ」
俺は二度目の深いため息をついた。
「あ、でも、今日の宿代を払わないと、ここを追い出されちゃいますよ?」
「じゃあ、野宿でもいいや」
なにもかも億劫だ。植物のように外で寝っころがって一年を過ごすことにしよう。
「でも、お腹すいちゃいますよ?」
「え?」
俺は希望の明かりを見出した。「じゃあ、餓死するっていう手が!」
「いえ。この世界じゃ、空腹では死なないです。でも空腹感はありますから死ぬほどつらいですけど、死なないですよ」
苦しみだけエンドレス!
はい、クソゲー確定です。
俺は三回目の深いため息をついた。肺の中が真空になって苦しいだけだった。
苦しみとか痛みはしっかりあるんだな。さすがクソゲーの中のクソゲーだ。
その後、高い場所からの飛び降り、水の中に入って窒息、溶岩があふれ出す噴火口に飛び降り、などなど、いろいろあれこれとリムに死ぬ方法を提案してみたが、どれもこれも否定された。
結論。今の俺は苦しむだけで死ぬことはできない。
この世界は苦しみにあふれている事だけは開幕十五分で理解できた。
まじ、フザケンナ!